第3話 『真実』
「2126年4月2日、貴方は妻のカレン・アイリス・アイゼンハルトと共にアドバンスドシティのモール内にてショッピングを楽しんでいました」
エイジは話を聞きながらも必死に思い出そうと、うつむき額に手を当て考え込む。
「その最中に突如、何者かからの襲撃を受け貴方は左胸に2発の銃撃を受けることになった」
「そんな…カレンは、カレンはどうなったんだ ? 」
エイジの問いかけに答えずに少女は続ける。
「犯人は逃走、銃声を聞いた者の通報により駆けつけたレスキュー隊によって貴方は近くの病院に救急搬送された」
「……そして、病院についてすぐに……」
「"死亡"が確認された」
ひっ、とエイジの口から情けない声が漏れた。全身から汗をかき、震えが止まらなかった。
「そ、そんなのでたらめだッ ! 第一俺はこうして生きてる! それが何よりの証拠だろ! ?」
「でたらめではございません。当時ニュースで全世界に報道されたという記録もあります。これを見てください。紛れもない"事実"です」
少女はそう言い、手の甲のプロジェクターから空間に写し出された彼に関する記事を見せた。
そこには確かに、
『西暦2126年4月2日"死亡"』
とかかれていた。
少女は続けて話す。
「記事には続きがあります。日付が変わり3日の朝、安置所に置いていた貴方の死体が行方をくらましたとのことです」
「……なに ? 」
「おそらく、何者かが安置所に忍び込みあなたの死体を盗み出したのでしょう。そして…何らかの施術を行いあなたは蘇生した」
「それからここに運び込み、昏睡状態の貴方を置いていった…」
情報の整理が追い付かず放心状態のエイジ。
さっきからの話を聞くうちに、断片的ではあるが、少しずつ記憶が戻ってきていた。
しかし、一番気になる事が思い出せない。
そう、妻のカレンのことだ。
「少しずつ記憶が戻ってきた……でも……
カレンがどうなったかが全く思い出せないんだ……なあ、教えてくれ。カレンは無事なのか?」
「できません」
少女は冷たく断った。
「な、何故だ ! ?」
「思い出せないのはきっと、貴方が心のどこかで恐れているから。ご主人様、貴方は過去に向き合わなければいけません。例えそれが…どんなに辛くても……」
少女は深刻な様子で続ける。
「自らでないと意味がありません。でないと、貴方はこの先もずっと恐怖に怯え、何も分からないままです。さあ、覚悟を決めてください……もう…思い出せるのではないですか?」
エイジは目を瞑り必死に思い出そうとした。正直恐ろしくて仕方がなかった。もし、思い出した過去が救いようのないものだったら。取り返しのつかないものだったら。不安で今にも破裂しそうなほどに頭はいっぱいだ。
それでも、妻に会いたい。話したい。4年も放っておいて眠っていたことを謝りたい。心はそう叫んでいた。
「カレン……」
そう呟いた瞬間、何かの栓が抜けた気がした。
同時に頭に忘れていた記憶が流れ込むーー
2126年 4月2日
「…ぇ…ねぇ…、ねぇちょっと聞いてる?」
「…………」
周りはショッピングを楽しむ人々で溢れ帰っている。
前にいるのはカップルと推察できる。恋人繋ぎで歩き、女のほうは空いている側の手に高級ブランドのロゴがかかれたショッパーを提げている。おそらく男に買ってもらったのだろうということがわかる。
「ねぇってばッ! 」
「んっ…あ? あぁ、悪い」
そう言われ情けない声を出すエイジ。
「もう、なによボーッとして! せっかく久しぶりのデートだって言うのに。もう知らない」
彼女は頬をぷくりと膨らませ腕を組み、そっぽを向いた。それなのに、何か言いたげにエイジの方をチラチラと見ている。
こういうとき、彼女が何を求めているのかエイジには簡単に理解できた。
「悪かったって、あとでアイスクリーム買ってやるから機嫌なおしてくれよ」
それを聞いた彼女は、待ってましたと言わんばかりの表情で、
「…3段?」
と聞いた。
「…わかったよ。3段だ」
「やったーッ! しょうがないから許してあげよう」
子供のようにはしゃぐ彼女を見て、エイジは幸せそうに微笑んだ。仕事で疲れていも彼女の笑顔を見ると、それはすべて吹き飛んだ。
職業柄なかなか家には帰れず、顔を合わせる機会は少なかったがそれでも彼女を心から愛していたし、彼女にもそれは伝わっていた。
彼女は、アイスの屋台を見つけるとエイジを置き去り、一目散に駆け寄った。
「おーい、エイちゃんはやくー」
「ば、ばか! 外ではちゃん付けはやめろ! 」
エイジが顔を赤くしながら近寄ると、彼女は既ににどれにするのかをじっくり悩んでいた。
「えーっと、イチゴにバニラに、それからバナナ! 店員さん、その三つで」
「はいよー、まいどあり」
強面の店員は、エイジのほうを見て少し意地悪そうに
「そっちの"エイちゃん"はどうすんだ?」
とにやけながら言った。
「なっ……同じのを…お願いします」
「まいどあり」
店員はそういうと注文通りに作り始めた。
「あんたら、カップルか?」
店員は作業しながら二人に聞いた。
「夫婦です」
エイジが答えた。彼女は質問を気にもとめずに、自分のアイスがコーンに1段、2段と詰み上がっていく様に釘付けになっていた。
「そうかいそうかい。その様子じゃあまだ1年目くらいか?」
「はい、丁度そのくらいです」
「やっぱりか、道理でラブラブなこった」
話しているうちに1つ目が出来上がった。
「はい、お先にお嬢さん」
「ありがとう、店員さん! 」
彼女は嬉しそうに受け取ると間髪いれずすぐに食べ始めた。
「はっはっは、素直な子だな。きっといい子なんだろうな」
店員は笑いながらエイジの方を見てそう言った。
「ええ、とても」
エイジは微笑みならそう答える。彼女が誉められると、なんだか自分のことよりも嬉しかった。
「ほら、にいちゃんのぶんだ」
「ありがとうございます」
3段に積み上げられたアイスを受け取った。
店員は、彼女に聞こえないくらいの声で言う。
「にいちゃん、ちゃんと大事に守ってやれよ。漢同士の約束だ」
「ええ、もちろん」
エイジは真剣な眼差しでそれに答える。それを見た店員は安心した様子だった。
「よし、じゃあな。また来てくれよ」
「またね、おじさん! 」
彼女はそう言い、手を振った。
「今どき人間の店員さんなんて珍しいね。けど、あのおじさんいい人だったね」
「ああ、そうだな」
「受けとる時、なに話してたの?」
「なんでもないさ」
「そっか」
空が暗くなり、モール内の客は少しずつ少なくなり始めた。
「そろそろ帰ろっか」
「ああ、そうしようか」
久々のデートを満喫した二人は家に帰ることにきめ、車を停めた場所に向かって歩き出した。
「…今日は楽しかったよ。ありがとね」
歩く自分の足元を見ながら彼女は言った。
「俺も楽しかったよ」
エイジは彼女のほうを向き答えた。
「…たまには…帰ってきてね……ちょっと、寂しかった」
「寂しい思いさせて悪かった。実はプロジェクトが一段落着いたんだ。これからは家にも帰れるようになる」
そう聞いた彼女は、今日一番の笑顔を見せ、
「ホントにッ! ?うれしい」
と少し涙ぐみながら言った。
「ああ。なぁ、その……愛してるよ…カレン…」
「ええ、私も…エイジ…」
見つめあった2人は少し恥ずかくなり、一緒のタイミングで吹き出して笑った。
この幸せがどうか、ずっと続きますようにと、二人は心のなかでそう願った。
しかし、
現実は非情だった。
幸せを噛み締める2人の前に"それ"は現れた。
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