村娘の旅日記
@Nanamican
第1話
青く晴れた空の下、人々はいつもと変わらない日常を送っていた。朝ごはんのパンを買いに来る人、これから仕事に向かう男性、普通の人がいつものように、これから始まる今日を過ごす準備をしていた。ただ、いつもと違うのは赤い三角のブローチを付けている人が町中を歩いているということである。そんな環境の中で、赤いリボンの付いたカチューシャに、青いワンピースを着たこちらの女性、ななは赤い三角のブローチを付けなければならないということにため息を付いていた。
「これもまた、政府による難民の区別政策の一貫か」
北の国と西の国は仲が悪く、第2次北西戦争が勃発している。ななが住んでいる東の国は西の国の同盟国である一方で表向きは北の国からの難民を人道的な理由で受け入れている。つまり、表向きはどちらの国にもいい顔をしているわけである。ただ、東の国の政府がいい顔をしている相手は北や西の国の政府であり、難民たちではなかった。なながコーヒーを飲みながら目の前にあった新聞に目を移すと、そこにはこう書かれていた。“難民は弱者であるため、有事の際、優先的に助けられるように今日から難民に赤い三角のブローチを付けることが義務付けられた”
政府の指示通り、赤い三角のブローチを胸元に着けて、学校に行くために家を出ると、街の人は彼女を奇異の目で見ていた。そういった目で見られるのは今日に限った話ではないが、難民のマークをつけながら、外出しなければならなくなったため、よりいっそう憎悪の視線を感じる。国家のお荷物が二足歩行で歩いていると言わんばかりの目線を体いっぱいに浴びながら、彼女は学校に向かった。
学校への通学路の途中で、ななはいつものように少し狭い路地を抜け、石の壁に囲まれた空間に立ち寄った。周りに誰もいないことを確認すると、道中に摘んで来た花束を目の前にある石でできた壁に立てかけた。ここは15年前、彼女が5歳のとき、両親が亡くなった場所である。東の国の国民の難民に対する憎悪が今よりも顕著であった時代、難民は難民であるという理由だけでこの石の壁の前に立たされ、処刑された。その当時の生々しい血痕が今でも石に染みついている。
「いってきます」
両親に挨拶を終えると、彼女は隣においておいた鞄を持ち、学校に向かった。
この後、彼女の身に何が起こるのかも知らずに。
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