第25話 【着火】マンは昇級試験に挑む

 冒険者ギルドの会議室では冒険者が十二人集まって筆記試験が行われていた。

 我らが銀のグリフォン団も全員試験に挑んでいた。

 あと、ペネロペと流星も試験に挑んでいる。


 ペネロペもブツブツ言いながらも道路整備の依頼を受けて土方作業をやっていたようだ。

 力が強くて逸材なので監督に就職を勧められたという。

 まあ、断ったそうだが。

 ペトロガルドまで近いのだから行って書き換えてくれば良かったのだろうが、それでは気に食わんらしい。

 意外に真面目な所があるな。


 試験自体はそれほど難しく無い。

 パンフレットを熟読すれば解ける問題だ。

 それでも何回も落ちている猛者もいるらしい。


 銀のグリフォン団のメンバーでは、フロルとチョリソーが危ないが、女子二人は受かるだろう。

 とりあえず、読んだり書いたりが難しいのだが、結構頑張って勉強していたので、男子二人も通って欲しい所だね。


 時間が来て、解答の羊皮紙が回収されて行った。

 問題の羊皮紙も返した。


 フロルとチョリソーが脱力して机につっぷした。


「だー、ヤバイかもっ」

「落ちたら筋が通らねえっ」

「二人はやばいのか、エリシアとラトカは?」

「私は出来たー、ラトカは」

「私もっ、ハカセも大丈夫よね」

「多分ね」

「ぐわーぐわー」


 流星が奇声を発していた。

 奴もやばいようだ。


「まあ、落ちても、すぐまた受けられるから、気を楽にな」

「何回も落ちるとかーちゃんに怒られる」

「リーダーが落ちては筋が通らねえ」


 読み書きも出来ない貧民、流民も迷宮都市には流れてくる。

 迷宮の中に入ると普通の都市よりも稼げるのだが、入れなければ物価が高い都市だ、歓楽街に落ちるか、街を出る事になる。

 そのため冒険者ギルドでは読み書きを教える講習会を頻繁ひんぱんに開催している。

 読み書きが出来るE級冒険者は講習会の講師の依頼もあって、意外にギルドポイントが高い。

 魔法職の人間などは講師でD級に上がるポイントを稼ぐ人間が多いそうだ。

 ペネロペもやれば良かったのになあ。

 と、思ったら人に教えるぐらいならドカチンの方が楽だ、そうだ。


 試験が終わったので酒場で昼飯にする。

 今日のメニューはシチューと黒パンだった。

 美味しくは無いが不味くも無い無難な味だ。


 なんだか、流星とペネロペも同じテーブルに座った。


「今回は駄目だわ、さすがに読み書きは一回や二回の講習ではなんともならねえな」

「また頑張れば良いよ、流星。ペネロペはどうだった?」

「私は貴族学院で勉強したからな、なんでもない」

「お貴族さまは良いよなあ~」

「流星も頑張れ、読み書きを覚えておくと色々便利だぞ。余所の街ではこんなに熱心に教育してくれる場所は無い」

「アマーリエ迷宮に行くかなあ、あっちは試験がねえし」

「アマーリエかよ、地獄迷宮なんか行ったら、流星なんかすぐ死ぬぜ」

「そんなにキツいのか?」

「迷宮はキツくねえんだけど、街の治安が最悪だってさ、父ちゃんが呆れていた。昼からマフィアが喧嘩して、市民が巻き添えを食うってさ」


 アマーリエ迷宮はそんな物騒な所なのか。


 大陸には四カ所の大迷宮がある。

 アマーリエ迷宮はその一つだね。

 冒険者ギルドよりも地つきのマフィアが牛耳っている街で、別名地獄迷宮だ。


「迷宮探検よりも、別の心配をしなくてはならないのか、それは面倒だな」


 ペネロペは強いと言っても女性だから不快だろうな。


「ハカセよお、読み書きの効果的な練習法は無いのかい?」

「書き取りと、絵本を読むんだね」

「やっぱ、地道にやるしかねえのか」

「そういうものだよ。読み書き出来るようになれば、新聞も読めるようになるし、色々世界が広がるよ」

「恥ずかしいが、絵本を読むかなあ」


 ギルドの資料室には教材用に絵本が沢山置いてある。

 時々髭面のおじさんが神妙しんみょうな顔をして絵本を読んでいるのを見ておかしく思ってしまう。

 本人達には笑い事じゃないんだけどね。


「あとは書き取りと、覚えた字で文章を書いてみればいい、勉強になるよ」

「そうか、解った、頑張る」


 流星は、憑きものが落ちたように大人しくなったな。

 聞けば、迷宮都市で舐められちゃいけないと気を張っていたようだ。

 都会には自分みたいな奴は一杯居るし、突っ張らなくても大丈夫と解ったので凄く素直になった。


「はい、合格者を発表します」


 レイラさんが採点を終えてカウンターでそう宣言した。

 名前が呼ばれていく。


「マレンツ博士、エリシアちゃん、ラトカちゃん」

「「あ~~あ~~~」」


 銀のグリフォン団の男子が絶望の声を上げた。


「フロルくんとチョリソーくんも合格です」

「「いやったああああっ!!」」


 というか、わざと男子二人を後回しにしましたね、レイラさん。


「午後から実地試験ですので呼ばれたら武術場へ来て下さい」


 ペネロペも受かっていた。

 流星はやっぱり落ちていた。


「あ~~~あ~~~」

「落ち込むなよ流星、次は受かるさ」

「俺たちは受かったけどなっ」

「くっそー、次は受かってやるっ」

「学科が受かってもな、流星お前、剣使えないだろう」

「う、うぐぐっ、剣も覚えないとだめかあ」

「槍を買え、槍なら剣よりも簡単だ」

「そうですかい? お嬢さん、迷宮で槍はつっかえませんかい?」

「短槍を買え、突くだけだから覚えやすい」


 別の席の冒険者がニヤニヤしながら流星を見ていた。


「流星、槍が良いぞ、短剣とか、長剣は難しいんだよ」

「盾も要るしな、だったら槍で突いた方が素人には楽だぜ」


 がははと笑いながらベテラン冒険者のおじさんが流星に助言していた。


「槍かあ、やってみるかな」

「槍は安いしな」


 それも大きいね。

 ちゃんとした剣と盾を買うと意外に値段がする。

 槍はそこまで高く無いからね。

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