幕間:通信②


ピーピーピー。


(何かしら?)

(ああ、やっと出てくださった)

(ごめんなさいね、ちょっと変な場所に通信機があるから、呼んでいたの?)

(はい、何回か)

(これからは注意する事にするわ。それで何かしら)

(少々不味いことが、キアラがそちらへ向かいます)

(……、何故かしら?)

(マレンツの事をどこからか聞きつけて、魔王様を困らせる人間は殺すと……)

(不味いわね……、あの子は火炎無効だったかしら?)

(まったく無効という訳ではありませんが火竜ゆえ炎には耐性があります)

(火竜……、【着火】ティンダーは通らないかしらね)

(はい、マレンツに勝ち目は無いでしょう。迷宮でいえば最下層に出る魔物クラスですから)

(……)

(気が進みませぬか?)

(正直、暗殺するには勿体ない、と、思っているわ。出来ればこちらに取り込みたい所よ)

(魔王様は短命種の事がお好きでいらっしゃいますな)

(命が短いから沢山の人間が居て、良い者も悪い者も居て、見ていて飽きないのよ)

(短命種は一瞬花開く火花みたいな物ですからな)

(正直勿体ない気がしているのよ。彼は知能も高く、魂は高潔で、子供に優しいわ、良い人間よ)

(おやおやおや)

(本当は彼に古代魔法を伝えて研究させたい、という気持ちにもなるけれども……)

(いけませんな、三千年前の大災害が再現されてしまいます。人間は質の良い者も多いですが、たわけは信じられないほどですからな。そして開発された技術は本になり不特定多数に伝わり、コントロールが不可能となります)

(解っているわ、繰り言よ)

(魔王さまは愛情深くあらせられますからな。お気を付けください)

(本当にもったい無いわ……)

(良い人間は幾らでも湧いてきます、あまり心をお移しになられてはいけません)

(短い寿命なのに、みな一生懸命生きているし、一人一人違う人間なのよ)

(あなた様は長命種であり、世界を裏から支配する存在なのです)

(解っているわ、言ってみただけよ、マレンツは諦めるわ)

(それがよろしゅうございます。キアラは人化させてそちらに向かわせます、ご存じの通り、奴は馬鹿なのでお気を付け願います)

(千年ぶりぐらいかしら、キアラも長生きね)

(竜も長命種の一つですからね。それでは失礼いたします)

(伝えてくれてありがとう)


 プツン。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 赤い女が夜の街道を歩いている。

 赤い髪、赤い目、赤いマントに、真っ赤な甲冑を着込んでいる。

 中肉中背だが、なんとなく活力にあふれているようにも見える。


 バラバラと身なりが卑しい男が三人、茂みから飛び出してきて、赤い女の前方を塞いだ。


「あはは、姉ちゃん、夜道は危ないぜぇっ」

「なにしろ、俺たちみてえな悪漢がいるからようっ」

「なに、命まではとらねえっ、その代わりに有り金全てと体を使わしてくんな」

「もちろん楽しんだ後は悪所に売り払うけどなあっ」


 そう言って悪漢たちはぎゃははと笑った。

 赤い女は目を細めて笑った。


「人間は変わらないねえ、今も昔も」


 そして三人に向き直り、口からまばゆい炎を吐きだした。


「ぎゃあああっ!!」

「火が、火がっ!!」


 二人の盗賊の体に火が付き、彼らは松明のようにボウボウと燃えた。


「迷宮都市はどっちかな」

「あ、あっちです……」


 火に当たらなかった盗賊は真っ青な顔色で、そう答えた。


「ありがとう」


 そういうと赤い女は再びまばゆい炎を口からごうと吐いて、残った盗賊も焼いた。

 盗賊は叫びながら体をくねらせて燃え尽きていった。


「マレンツか、そいつはもっと楽しませてくれたらいいね」


 赤い女は目を細めて笑った。

 迷宮都市まで、あと二日ほどの距離であった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る