第23話 【着火】マンは旧友を迎え入れる

 一回目の納品をするためギルドへと歩く。

 というか、今日の銀のグリフォン団は余計な人がいっぱいくっついてきて、一連隊だな。


「薬草採りものんびりしていて楽しいわねっ」

「王女さまはしばらく迷宮都市に滞在ですか?」

「そうよ、一週間ぐらい居るわ。せっかくだから迷宮に入ろうと思ったのに、王族は冒険者になれないなんて酷いわ」

「まあ、五代前の王子様が良く無いので」


 王族が迷宮でバタバタ死ぬと国が乱れる元だからね。


 街門に近づくとなんだか揉めているな。


「おう、マレンツ良い所に来たな」


 ドワーフの族長のガルフだった。

 なんで迷宮都市に居るのだ?

 良く見るとドワーフが群れてキャラバンになっている。

 なんだろうなあ、なんだか嫌な予感がするぞ。


「デズモンド領をおん出てお前さんを追って来たんだが、街の門番が通行料を払えってうるせえんだ、マレンツ、お前何とか言ってくれ」

「いや、普通に払おうよ」

「なんでえ、おめえ、デズモンド領都に居る時は通行税なんか払った事ねえぜ」

「そりゃ、領では武器街の民として特権を得ていたからね、でもここは別の街だから、入るのにはお金がいるよ」

「なんでえなんでえ、世知辛えなあ」


 しかし、私を追ってきたのか。

 領で父さんと揉めたかな。


「領を出てきたのかあ」

「そうだ、お前さんの居る所が、俺らのいる場所だあなあ。迷宮都市でも良い仕事をするからよ、都市の偉いさんに掛け合ってくれねえか」

「デズモンド領の凄腕ドワーフさん?」

「おお、そうだ綺麗な嬢ちゃん」

「ガルフ、第二王女のリネットさまだよ」

「おっと、こいつはイケねえ、ご挨拶がおくれました、俺は牛頭谷ドワーフの族長ガルフといいやす、王女さまにはお初にお目に掛かり、感激に堪えやせんや」

「ご丁寧にどうも、メルリガン王家の第二王女リネットです。よろしくおねがいしますね」


 立ち話も何なのでガルフだけを連れて街の中に入った。

 他のドワーフたちは馬車溜まりで休んでいて貰う事にした。


「牛頭谷のドワーフは素晴らしい武具を作ると聞くな」

「おう、そうだぜでっかい姉ちゃん」

「迷宮都市で仕事をするのか、楽しみだ」

「武具に困ったら来い、相談にのってやらあっ」

「マレンツの周りには凄い奴らが集まるのだな」

「そんな事ないさ、たまたまだよペネロペ」

「何言ってんでえ、牛頭谷のドワーフが困って流浪していた時に、暖かく受け入れてくれたのは、マレンツとデズモンド領の庶民だけだったんだぜ、普段の心がけが良いんだよ、おまえはっ」


 ガルフは何時もこうやって私を持ち上げてくれる。

 ありがたいのだけれど、誤解して調子に乗らないようにしないとね。


「今度はドワーフが増えた」

「ハカセは誰にでも好かれて凄いわ」

「奴は筋が通ってるからなっ」


 我々はギルドに入った。

 リネット王女とペネロペを見て、冒険者達が動きを止めた。


「レイラさん、今の迷宮都市の一番偉い人は誰ですか」

「……」

「レイラねえちゃんだぞ、ハカセ」

「え、代官さんは?」

「迷宮都市は迷宮の事を一番解っている冒険者ギルドマスターが代官がわりをやっているのよ」


 リネット王女がしてやったりという顔をして言った。

 なにげに偉い人だったんだな、レイラさん。


「何か、迷宮都市の行政部に御用ですか?」

「元の私が居た領の武器街を作っていたドワーフたちがやってきたんですが、都市に鍛冶街を作る場所ってありますか」

「ありません、市内の狭い地面をあちこちの団体が取りあっている状況です」


 あー、やっぱりか。

 迷宮都市は広さの割に人口が多すぎるんだ。

 そりゃ、寸土の取り合いになるな。


「隣町のペトロガルドだったら土地は空いて居るぞ」

「熟練のドワーフ技術者をアルモンド侯爵に捕られるのも業腹ですね」

「なんとかなるのか、ギルマスの姉ちゃん」


 レイラさんは目を閉じた。


「街の外に脇町を作ります。そこを仮設の鍛冶屋街にしましょう」

「おお、ありがてえ、姉ちゃんありがとうよっ」

「炉とかどうするんだい? 一から作り直すと大変だけど」

「抜かりはねえよ、反射炉の核心部分だけは抜き取って馬車に積んで来た、耐熱レンガで炉を作りゃ鍛冶屋街のできあがりでいっ」


 デズモンド領から運んで来たのか。

 ドワーフは反射炉を愛しているからなあ。


「耐熱レンガの手配をしておきましょう、あと大工ギルドへ発注も掛けます」

「話がはええぜ、ギルマス!」

「熟練の鍛冶屋が居れば冒険者の戦力が上がりますので、迷宮都市の利益にもなります」

「ひゃっほい、じゃあ、俺は仲間に知らせてくんぜ、マレンツ」

「くそう、何人かペトロガルドにくれよう」

「個人的に口説いてくださいね」


 フロルがドワーフの去って行く背中を見ていた。


「デズモンド領は鍛冶屋居なくなって平気なのか?」

「んー、まずいね」


 鍛冶の技術は領の発展に欠かせない。

 武器防具だけではないんだ、農具や馬具の金具などの質も落ちるね。


 父さんとビオランテは大丈夫なのだろうか。

 一応、二年ぐらいは持つだけの蓄えは残してきたはずだが……。

 思ったよりも早く呼び戻されるかもしれないなあ。


 私を廃嫡した父さんに思う所はあるのだけれど、領が危ないとなったら帰らないとな。

 デズモンド家のせいで罪も無い領民が苦しむのは可哀想だし。


 なるべく早くダンジョン深部に潜りたいが、銀のグリフォン団となるべく長く居たい気持ちもある。


 世の中とはままならない物だね。

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