刀と舞う燈と、結い踊る春の庭

神凪

始まりの夢物語

1.刀に魅せられた世界で

『本日のマッチは、桜庭結葉さくらばゆいは朝霞柚あさかゆず、因縁の戦いだぁ! 朝霞選手の勝ち越しで終わっていましたが、あの試合から一ヶ月。次は……』

「お兄、桜庭さんの試合始まるけど」

「うっそだろマジか!」


 テレビから流れてくる音にすぐに耳を傾ける。そこからは大袈裟なまでの声量で今日の試合を紹介する声が聞こえた。

 武道とスポーツを掛け合わせた競技、刀演武かたなえんぶ。機械仕掛けの刀、ブレードを用いてお互いのアーマーを削り合うスポーツだ。基本的に定められているルールは単純であり、どちらかのアーマーがゼロになる、ブレードが完全に破壊される、ギブアップあるいは続行不可能と判断されることで試合が終了する。アーマーはブレード以外を防ぐことはできないため殴る蹴るは禁止など他にも制限はあるが、それは場所によって異なるルールだ。簡単に言えばチャンバラだ。

 アーマーを構成する要素は、人間に宿る不思議な力である霊力。摩訶不思議な力である霊力が人に宿っていると判明したのは三十年ほど前だが、その力を利用してこの競技が生まれるまでそれほど長い年月はかからなかった。ファンタジーな世界なら魔力なんて呼び方もできたかもしれない。


『桜庭選手、本日の意気込みは!』

『次はどんな手を使ってくるのか楽しみですが、柚ちゃんには一度勝ってますから! 今日もわたしが勝ち越させてもらいます! エキシビションマッチだけど本気でいくよ!』


 そんな危険なスポーツである刀演武は、日本を中心にたくさんの剣士が活躍していた。そんな剣士の中でも今話題の剣士、桜庭結葉は学生の身でありながらプロとしても試合をしており、まだ階級はそれほど高くはないもののその勢いと容姿から大注目の少女だった。青い髪を靡かせながら、きらっきらの瞳で答えた。

 対する朝霞柚は、結葉の二つ上の先輩であり元パートナーだった。学生だった頃にプロデビューを果たしたこともあり、こちらも注目の剣士ではある。銀色の髪を後ろに結んで、やや冷たい瞳で結葉のことを見つめていた。


『……参ります!』

「うん、今日も結葉はかわいくてかっこいいな」

「キモい……」

「おいおい。あの子はお前の先輩でもあるだろ? 学園でもトップクラスで、しかもプロとしても実力を発揮してきているんだ、お前も尊敬とかしてるだろ」

「それは否定しないけど」


 妹である硲紡はざまつむぎは、刀演武の剣士を育成するための専門学校である八咫学園やたがくえんに通う一年生であり、桜庭結葉の後輩にあたる。そして、結葉ほどではないが、紡も一年生として非常に優秀な戦績である。

 いつの間にかいなくなってしまった両親のせいで二人になってしまったが、それでも俺が紡のために残してあげられるものが刀演武だった。俺は決してすごい剣士というわけではないが、持っている技能は全て託したいと思っている。


「でも、それはお兄のおかげだから」

「何言ってんだ。俺は何もしてねぇ……お、今日も開幕から詰めんなぁ。今のはいい……が、さすがに読んでるか」

「うん、朝霞さんは強い剣士」


 ブレードを構えて対戦相手である朝霞柚の懐まで潜り込んだ結葉だったが、そこから繰り出された攻撃はブレードで受け止められてしまった。もちろんそれを読んでいた結葉は相手のブレードをそのまま弾いて足を狙った払いを繰り出すも、弾かれた勢いを利用してバックステップで距離を取られてしまった。この二人は元々ペアだったこともあり、互いに一瞬も気を抜けない対面た。

 一旦の睨み合い。しかし、数秒後に再び結葉が攻め始めた。


「結葉の流派は基本的にラッシュの短期決戦だもんな。まあ、体力がやばいからずっと動き続けてるけど」

「アーマーの数値もかなり化け物じみてるし。ちょっとやそっとじゃ乱されないのもずるい」


 結葉の霊力は普通の人間よりも高い。そのため、その身体をブレードの攻撃から守るアーマーの数値も非常に高いものになる。それに加えて底なしの体力を持つため、一度攻められると止めるのは非常に難しい。

 攻めて攻めて攻める。桜庭結葉はそういう単純だが相手にされると厄介でしかない戦い方を得意としていた。また、結葉の剣術は何度も攻撃を叩き込むことを是としたものであるのも噛み合っている。


『おおっと、ここで朝霞選手が反撃に出た! 桜庭選手は大きく吹っ飛ばされてそのまま場外へ! しかし刀演武において場はただの飾りだぁ! ここでの桜庭選手へのダメージは大きいと思われますが、解説を……』

「次だ」

「うん」


 吹っ飛ばされた結葉は、勢いをそのままに壁を蹴って柚に突っ込んだ。なんの捻りもない突撃だが、その勢いは見ているだけでもとんでもないものだとわかる。


「決まりだな」


 今度は朝霞柚を吹き飛ばされ、結葉はその勢いのまま連撃を仕掛けた。五回の強力な連撃、決着のコールが起こるのはすぐだった。


『そこまで! 朝霞柚のアーマー消失を確認。よって勝者、桜庭結葉!』

『よっしゃあ! 勝ちましたー!』

『格上の朝霞選手相手に危なげのない勝利でしたが、今回の対戦はいかがでしたか?』

『いやぁ、最初柚ちゃんも仕掛けてこようとしてきてましたけど、先に出られたので勝てた感じですね。受けから始まっていたら負けてたかもです。それに、今回はルールがわたし有利でしたから』

「嘘つけ」


 確かに、朝霞柚は結葉が出ると同時に地を蹴ろうとはしていた。しかし、その力を込めたときにはもう結葉は勢いをつけて接近してきていた。つまりは、どれだけ頑張っても結葉よりも先に攻めることはできなかったということだ。

 それに、剣を扱うこの競技においては、先に出る方が基本的に不利になることが多い。カウンターを狙うのが定石だ。それをはね飛ばして押し切ってしまった結葉の圧倒的勝利と言わざるを得ないだろう。もちろん、結葉の言う通り有利なルールではあるのだが。


「かっけぇよな……その上かわいい。最強だろ」

「うっわぁ……でも、最強なのは同意。うん、ちょっと今から付き合って」

「っし、やるか」


 紡と一緒に外に出る。ブレードの電源を入れて、アーマーを展開。こういう試合を見ると、熱くなるのは俺よりも紡の方だ。

 向かい合ってブレードを構えると、紡は早速突っ込んできた。


「桜庭さんは……こう!」

「遅い!」

「ぐっ……う」

「踏み込みがまだまだ甘いな。重さも速さも足りない」

「うん。だから次は……浅宮さんが、こう!」


 後ろに飛んだ紡は、その分の距離を全て推進力に変えて突っ込んできた。勢いを残したまま左に回り込むと、足を目掛けてブレードを振ってきた。


「はっ!」

「おいおい、そんなんじゃ届かねぇぞ」

「まだ!」


 紡の剣を下に弾くと、そのまま剣を軸に頭の上まで飛び上がった。そのまま大振りの一撃を上から落として来るが、見え見えの攻撃は通らず容易にはじき返すことができてしまう。


「今のは隙が多すぎるか……お兄、じゃんじゃんカウンター仕掛けてくれていいから」

「骨折れんぞ」

「……大怪我しない程度で」

「難しいこと言うなぁ」


 それから一時間。一度も紡の攻撃が通るとこはなかったが、本人は満足そうにしていた。が、まだまだ熱は冷めない様子だったので近くの道場に場所を移すことにした。

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