本編5 太陽の広場前
ひたすらに走り、息が切れた貴方は立ち止まった。そこは、遊園地の真ん中にある【太陽の広場】。
いつの間にか空は暗くなっていて、辺りはイルミネーションがキラキラと輝いていた。いつもと違うのは、その光が全て淡い白だということだけ。
先程までいた大勢のこどもたちの姿はなく、いるのはこの遊園地のマスコットキャラである犬だけだった。
今までと違い、不気味な空気を感じない広場。貴方は戻って来れたのかとホッとして力が抜け、その場に座り込んだ。そんな貴方を心配したのか、犬のマスコットが小走りで近づいてきた。
最初に見た時は不気味に感じたその顔も、今はかわいらしく見え――――
「お、次は君だね」
普段なら喋らないはずのマスコット。その声はノイズが混じり、貴方を見下ろす目は真っ黒でぐるぐると渦巻いていた。
声が出せなくなり震える貴方に、マスコットは不気味に【カタッ】と音を鳴らして首を傾げた。
「あれぇ? もしかして、君――まだ生きてる?」
ゾワっと鳥肌が立つ。
「それは困るなぁ」
「うーん」「うーん」と首を左右に傾ける度に【カタッ】、【カタッ】と不気味な音を鳴らす。
貴方は冷や汗が噴き出て、力の入らない震える膝で必死に後退る。
するとマスコットは、ポンっと手を叩いて「うん。仕方ないね。君も連れていこうっ」そう言って一歩一歩、ジリジリと近づいて来た。
「大丈夫。怖くないよ、痛くないよ、辛くないよ。
ただ何も感じない。無になるだけさ」
強弱もなく、何の感情も感じられない声を出しながら貴方へ手が伸びていく。
ガツンッ。
そこに、鈍い音が響いた。その音の正体は、ゴーカートに乗った赤いピンの少女が、マスコットを吹き飛ばした音だった。
「……まさか轢く側になるなんて思わなかったな」
小さく呟いた彼女は、貴方の方を見て手を伸ばした。
「行こうっ」
さっきと同じ。血だらけの服で、目も片方零れ落ちている。だけど、マスコットから助けてくれた彼女に少しだけ恐怖が和らいだ貴方は、少女の手を取った。
彼女の手は変わらず、温かかった。
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