日本では毎年約10万人が行方不明になると言われている

烏川 ハル

プロローグ

   

“プロローグ”

   

 毎年8月16日に行われる五山送り火は、京都の有名な祭りの一つ。特に「五山」の中でも東山の如意ヶ嶽の「大文字」が最もよく知られており、そのため如意ヶ嶽は大文字山とも呼ばれている。


 そんな大文字山は、京都市の東端の辺りにあり、市内の様子を一望できるところだ。

 標高は約500メートルなので、山としては、かなり低い部類に入るだろう。登山の装備なんて必要なく、気軽にハイキング感覚で遊べるくらいだ。

 大文字山の近くで少し市内に入った辺りには吉田山もあるが、そちらは標高が約100メートル。山というより小高い丘であり、そんな吉田山と比べれば、大文字山は一応『山』という認識になる。

 市内から大文字山の麓までは、アスファルトで舗装された、しっかりとした道が続く。そこから、しっとりとした土の山道に入って1時間も歩けば、急に視界が開けて、広々とした山頂広場に辿り着く。


 ただし、この山頂広場は厳密には『山頂』ではなく、実際にはさらに奥だ。もう市内の様子など展望できず、右を見ても左を見ても緑の木々ばかり。そんな中を少し歩くと、ようやく真の山頂、その標識や三角点が見えてくる。

 山頂を越えてさらに数時間も進めば、滋賀県へ出ることも可能。また、大文字山には登山道が色々あるから、例えば伏見稲荷から比叡山まで続くような、全長約25kmのトレイルコースにも繋がっている。

 このように、大文字山は様々な楽しみ方が出来る場所であり、この日の私も、今まで歩いたことのないルートを行くつもりだった。

 ところが、獣道けものみちらしき細い山道を奥へ奥へと進んだ結果、道に迷ってしまい……。

   

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