第13話 シェイン視点

 俺は今学園内にある鍛練場にいる。


 学園が休みの日はこうしてここで汗を流しているのだが、今日はどうも集中できずにいた。集中できない理由など分かりきっているが、昨日の今日ではまだ消化することができずこの有り様である。




 ◇◇◇




 私の名前はシェイン・アレス。アレス国の第三王子だ。


 私には二人の兄がいる。王太子である長兄と第二王子である次兄、そして私の三人兄弟だ。


 現在二十五歳である私は本当なら既に臣籍降下しているはずだったのだが、いまだに第三王子として城に残っている。なぜかというと王太子である長兄のサポートをするはずの次兄が留学先の公爵令嬢と恋仲になり、あちらの家の婿養子になってしまったのだ。なので万が一のためのスペアになる人がいなくなり、三男である私にその役目が回ってきたのだ。


 しかしそれもまもなく終わる。


 長兄の妻である王太子妃に二人目の子供が生まれたのだ。二人目の子供もすくすく元気に育っていることから私のスペアの役割は近いうちに不要になるだろう。そうすれば王位継承権を放棄して当初予定した通り臣籍降下するつもりだ。


 こうして兄達の都合に振り回されてはいるが、家族の仲は良好である。




 そんなある日、スペアと言っても特段することもない私に父の弟である叔父から声が掛かったのだ。王立学園で教師をしないかと。


 叔父は臣籍降下した後、学園の学園長に就任して若手の育成に取り組んでいた。私はこの深緑の髪と黒の瞳から見て分かるように魔法の才能はない。けれど剣の才能はあったようで、気がつけばこの国の騎士団長相手にも勝てるほどの腕前になっていた。


 しかし騎士や冒険者になるわけにもいかず、剣の才能を活かせずに燻っていたのだ。そんな時に叔父から教師にならないかと声が掛かり、私はすぐに承諾したのだった。


 そして教師としての生活が数年経った頃、叔父から魔法薬学の後任の教師を探して欲しいと頼まれたのだ。


 今の教師は高齢を理由に本人から退職したいと願い出たそうだ。私が探さなくてもそれなりの人材はいるのだが、もしかしたらもっと優れた人材がいるかもしれないから探してみて欲しいと。教育に熱心な叔父らしいと思い、後任探しを引き受けることにした。


 期限は半年。


 その間に目ぼしい人材が見つけられなければそれなりの人材から後任を選ぶことになった。



 それから教師としての仕事の合間に後任探しを始めたが、なかなか見つからない。時間だけが過ぎていき、期限の半分の時間が経ってしまい焦り始めていた時に私の部下である騎士から市場でとても質のいい魔法薬を買ったと聞いた。まさか市場で魔法薬を売っているなんて思わなかったのでそちらの方は探していなかった。


 後日私は自ら魔法薬を買って試してみようと市場へ向かった。騎士から聞いた話だと魔法薬を売っているのは若い女性だというが、その女性が魔法薬を作っているのだろうか。とりあえず今日は魔法薬を買うだけと決めて店へと向かった。


 そして出会った彼女、セレーナは茶色の髪に茶色の瞳をした美しい女性だった。


 たくさんの人で溢れている市場にいながらもどこか品があるように感じたのは、彼女がどこかの貴族家の出身だからなのかもしれない。それなのに不思議と周りに馴染んでいるというなんとも掴みようがない女性というのがセレーナへの第一印象だが、とても気になる女性だった。

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