第5話 サイラス視点

「セレーナがいなくなっただと…?」



 王城の中にある私にあてがわれた部屋にやってきた家令によってもたらされた突然の話に私は呆然とした。最愛の妻であるセレーナが屋敷から出ていってしまったと。


 家令からその話を聞いた私の頭の中は「なぜ?」で一杯になった。




 ◇◇◇




 妻であるセレーナとは結婚して三年が経つ。この結婚は表向きの理由としてお互いの家の利益による政略結婚となっているが、本当の理由は私の強い希望によるものだ。


 私がセレーナに一目惚れしたのだ。


 セレーナに一目惚れをしたのは私が十六歳の時、図書室で十四歳だったセレーナを見かけた時だった。本を真剣に読む姿が頭から離れずそれから何度も図書室に通ってはセレーナを見ていた。


 見ていただけで話しかけることはできなかったが。私はかなりの口下手だし女性を好きになるのは初めてでどうすればいいのか分からなかったのだ。


 そのまま話しかけることが出来ぬまま学園を卒業した私だったが、どうしてもセレーナのことが忘れられず母に相談したのだ。するとある日母からセレーナとの縁談が決まったと教えられた。


 私はとても嬉しかったがふとセレーナはどう思っているのか不安になり、交流しないまま結婚式を迎えてしまった。


 自分が情けないことは分かっているのだがどうすることもできず、セレーナを前にすると緊張してうまくできる自信がなかった私は、自信が持てるまで待って欲しいと結婚式の夜に彼女に伝えたのだ。


『今は君を抱くことはできない』と。


 それから三年が経つがいまだにセレーナを抱くことができていない。仕事が忙しいことを言い訳にセレーナとあまり話すこともしなかった。どうにかしたいと思いながらも、セレーナの前で醜態を晒して嫌われるのが怖くて行動に移すことができずにいたのだ。


 もちろんセレーナのことは心から愛している。


 ただそれすらも直接セレーナに伝えられていないが、屋敷の者達には彼女によく尽くすようにと伝えてあるし、彼女がいつでも好きなものを買えるように予算も手配してある。


 家令からの報告でも今まで問題はなかったはず。だからセレーナには今の生活に対する不満など何も無いはずなのに、なぜ屋敷から出ていってしまったのか私には分からなかった。

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