第3話

 魔法で光を灯し暗い道をひたすら歩き続ける。


 つい数時間前に前世の記憶を思い出してからすぐに屋敷を出てきて、色々と落ち着いて考える時間がなかったので今はちょうどいい。どうせ歩いてるだけなので考えてみようと思う。



 私の名前はセレーナ・カリスト。


 結婚前はセレーナ・アルレイでアルレイ伯爵家の娘であったが、三年前にカリスト侯爵家に嫁ぎ今の名前になった。


 旦那様の名前はサイラス・カリスト。


 私と旦那様はこの国ではめずらしくもない政略結婚だった。魔力のアルレイ伯爵家と財力のカリスト侯爵家。


 アルレイ伯爵家は魔力はあるがお金がなく、カリスト侯爵家は魔力を使った事業を新たに始めたく多くの魔力を持つ人材が欲しかった。そこで利害が一致した両家は豊富な魔力を持つ私をカリスト侯爵家に嫁に出し、アルレイ伯爵家は資金援助を受けることになったのだ。


 アルレイ伯爵家には娘が二人いるのだが、長女である私が嫁に出された。確かに私と妹では私の方が魔力が多いのだがそれが理由で嫁に出されたわけではない。


 私が両親と妹から疎まれていたからだ。


 本来なら家の繁栄のために魔力量が多い私が伯爵家を継ぐべきなのだが、それを両親が嫌がったのだ。どうやら私は父方の祖母に顔立ちが似ているようで、父も母も祖母のことが嫌いだったことから疎まれるようになってしまった。


 そして二年後に生まれた妹は母にそっくりだったこともあり、両親の愛は妹だけに注がれるようになった。そんな親の姿を見て育った妹は当然姉は疎んでもいい存在なのだと思っている。



 十二歳で学園に入学したが、私は両親に疎まれていたのでまともな教育を受けさせてもらえていない状態だった。


 それでも私には勉学の才能があったようでなんでもすぐに吸収していき、気づけば学年で一番を取るほどまでになっていた。


 友人もそれなりにでき楽しい学園生活を送っていたのだがそれも二年で終わってしまった。


 なぜかといえば妹が学園に入学してきたからだ。


 妹は勉学が苦手でその苦手を補うための努力も嫌だったようであまり成績が良くなかった。


 学年一位の姉と下から数えた方が早い成績の妹。妹は自分より成績のいい私を許せなかった。


『私よりお姉さまが目立つなんて許せない』


 そう両親に訴えれば私は妹よりいい成績を取ることを禁じられた。


 それからの学園生活は辛いものだった。


 理解しているものを理解していないふりをしなければならず、突然様子のおかしくなった私を友人達が敬遠しだし私は独りぼっちになった。しかし学びたい欲は無くなることはなく、その欲求を満たすために休み時間や放課後は図書室で過ごすようになった。



 そういえばその頃から図書室でよく誰かに見られていた気がしたがあれは一体誰だったのだろうか。ただもう学園を卒業してから三年が経った今、知る術などないので気にしても無駄だと思い直した。



 そして学園の最終学年になってすぐに婚約が決まり、卒業と同時に結婚式を挙げた。


 婚約期間は短いながらも存在したのだが、その間に旦那様に会うことも手紙や贈り物を貰うこともなかった。おそらく旦那様にとって私との婚約は不本意なものだったのだろう。しかし家同士の契約なので旦那様はどうすることもできず結婚するしかなかったのだと思う。


 初めて旦那様に会ったのは結婚式の時だった。バージンロードを歩いた先に旦那様がタキシード姿で立っていたのだ。


 黒い髪に黒い瞳が印象的な整った顔に長身だがしっかり鍛えているのが分かる体型、さぞかし女性にモテるだろう容姿をしていた。


 それに引き換え私はくすんだ金髪に女性としては高めの身長と残念な容姿だ。唯一の取り柄は水色の瞳くらいだろうか。


 魔力量が多いと髪と瞳の色が淡くなる傾向にあり、黒い髪に黒い瞳の旦那様はあまり魔力は多くないということが分かる。


 そして結婚式を無事に挙げ終わり、迎えた初夜で旦那様に言われたのだ。


『今は君を抱くことはできない』と。


 それからは与えられた新事業の仕事をこなし旦那様を待ち続ける日々。そうして三年が経ち十七歳で結婚した私は現在二十歳になっていた。

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