本編

本編


 熊本県にある熊本中央郵便局のポストに葉書を出しに来た貴方。ポストの上には踊るたぬき像があります。季節ごとにおめかしをしているので、葉書を出したついでにスマホで写真を撮ることにしました。すると何処からか、わらべ歌が聞こえてきました。

「あんたがたどこさ」

「肥後さ」

「肥後どこさ」

「熊本さ」

「熊本どこさ」

船場せんばさ」

「船場山にはたぬきがおってさ」

「それを猟師が鉄砲で撃ってさ」

「煮てさ」

「焼いてさ」

「食ってさ」

「それを木の葉でちょいとかぶせ」

 可愛らしい歌声を貴方は探しました。そして、郵便局より離れた場所で貴方は声の主に出会うことになります。

「うわっあれ?君、僕が見えるの!?――違う、声だけ。でもっ待ってたよ!僕はそう、たぬき!声が聞こえて嬉しいです」

 声が全方位から聞こえた。自分を「たぬきだ」と言う声はどうやら踊っているしい。

「あの先輩から踊りを教わっていたんだ!先輩はね、季節のイベントでおめかしするんだよ。素敵だよね」

 嬉しそうなたぬきの声が貴方の周りから聞こえました。くるくる踊っているようでした。

「そうだっみんなを紹介するよ。あとオススメの場所も!こっちに来て!ついてきて!」

 たぬきは、嬉しそうな声を残して何処かに行きました。気になった貴方は、たぬきが指定した場所に向かうのでした。

 最初に向かった場所は、市電の洗馬橋停留所近くにある親子のタヌキ像のところでした。

「この先輩はすごいんだよ。撫で撫ですると、ご利益があるんだ!あっ近くにたぬきのお地蔵さんと名水のせんばの水があるんだって。行って見るのもいいかも。――水は、怖いよ。次はこっち!」

 次に辿り着いたのが、文具店の文林堂本店の入り口でした。

「この先輩、いっつも驚いてるんだ。お目目が印象的でしょ?あっこの文林堂さんもすごいんだよ!お店ができたのが明治10年!とっても長く続いてるんだ。芸術ってすごいよね。――僕らを描いてくれればいいのに。次はこっち!」

 次に辿り着いたのが、長崎二郎書店でした。

「ここもすごいんだよ。お店が出来たのが明治7年!素敵な本もあって、なによりお店の2階で美味しいこーひーとご飯が食べれるんだって!ギャラリーもあって、んん〜僕も絵を描きたくなっちゃうよ。――水に沈んだ僕ら。次はこっち!」

 次に辿り着いたのが、船場橋でした。

「ここの橋の上にも先輩がいるんだよ!とっても堂々としてるんだ、かっこいいよね?あっほら、聞こえてこない?あの唄のメロディが」

 実は市電が停留所に近づいてくると、わらべ歌の『あんたがたどこさ』の軽快なメロディが聞こえてくるのです。地元――熊本では馴染みのある歌でした。たぬきは唄います。

「あんたがたどこさ」

「肥後さ」

「肥後どこさ」

「熊本さ」

「熊本どこさ」

「船場さ」

「船場山にはたぬきがおってさ」

「それを猟師が鉄砲で撃ってさ」

「煮てさ」

「焼いてさ」

「食ってさ」

「それを木の葉でちょいとかぶせ」

 しばらくの間に貴方は少しの怖さを感じました。たぬきは話を続けます。

「この歌はね、問答歌と言うんだ。『肥後ひご手まり唄』の中の1つで、ボールを使って遊びながら歌う『手まり歌』なんだ。郷土玩具の『肥後てまり』で遊んでいたって言われてるよ。『肥後まり』ってのもあるけど、どう違うのかな?そうだっ他の郷土玩具も教えてあげる!――橋の真ん中においで」

 貴方は怖いもの見たさで橋を渡り始めました。

「お化けの金太って知ってる?紐を引くと目玉がひっくり返って長い舌がんべぇ〜って出るんだよ。昔の人気者だった足軽さんがモチーフなんだって。――橋の真ん中で待っててね」

 貴方は橋を進みます。

「彦一こまは、八代地方に伝わる『彦一とんち話』からヒントを得て作られたんだって。彦一さんはイタズラたぬきをどんなとんちで負かしたのかなぁ。――橋の真ん中で待っててね」

 貴方は橋を進みます。

「次はきじ馬と花手箱!木工玩具で人吉の球磨地方に逃れた平家の落人が都の暮らしを懐かしみながら作り始めたんだって。きじ馬は野鳥のキジを模して、子どもたちの成長を願う縁起物として古くから親しまれてるんだよ。そしてそして!花手箱はね、もみひのき、杉などの板で作った箱に赤と緑で椿の花が描かれてるんだ。どちらもお土産に人気だよ!――橋の真ん中で待っててね」

 貴方は橋を進みます。

「最後におきん女人形!これも八代市で作られていて、着せ替え人形やままごとに使うお土産品、飾り物として愛用されてきたんだって。可愛いよねーー橋の真ん中で待っててね」

 貴方は船場せんば橋に辿り着きました。思わず、貴方は橋の下を覗き見ます。たぬきは言いました。

「ここには昔、小高い丘があったんだ。でも、河川の改修工事で無くなっちゃった……みんな、木の葉に隠れてたのに」

 寂しそうに話すたぬき。しかし、急に明るく話し出しました。

「でも、君が来てくれた!気づいてくれた!だから、みんなに紹介するね。――水の中で」


 貴方は何かに引っ張られて橋の外へ。


「さあ、みんなの所に案内するよ!」


・効果音:水の音、たくさんの笑い声

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

船場山の小たぬきは人を待つ おひさの夢想部屋 @ohisanomusou

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ