第八話

 世界のどこか、月が最も小さく見える夜。

 眠れない青年が崖上から静かな海を眺めていた。すると沖合にぼうっと火が灯る。火は見る見るうちに横に広がり一本の線となった。青年はそれをよく知っていた。不知火しらぬいである。月が小さい晩によく見える。しかしその夜はいつもと違った。真ん中が盛り上がる。上に伸びて人の型をとる。水平線に現れた燃える巨人は、青年に向かって大きくゆっくり手を振った。

 青年は目をこすったが見間違いではないらしい。黙って眺めていると巨人は激しく踊り始めた。やがて倒れるように消え、不知火も失せた。

 その後、青年が話した燃える巨人の話は広まり、 後のアグニやスルトとなったという。

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