第三話

 天下泰平の世、賭け事に負けた男が帰り道、腹いせに道端の木を蹴りつけた。執拗に蹴り続けたせいでその表面は酷く傷ついてしまった。

 男はしばらくそのまま夜道をふらふら歩いていたが、 ふと後ろが気になり、振り向いた。

 あんな近くに、木などあっただろうか。

 気のせいだと思いながら進んだが、再び振り返るとより近くにまた一本、木が生えている。

 不気味に思い、近づいて殴りつけた。しかし根本を見てぞっとした。先ほど己が蹴りつけた傷がある。

 慌てて逃げ出し、長家の近くまで来て振り向いた。木などどこにも見えない。安心して前に向き直ると目の前にその木がひっそり生えていた。

 次の朝、脚をずたずたに切られた亡骸が見つかった。町奉行により、賭け事にまつわる刃傷沙汰であると始末されたという。

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