第23話 久々に友人と話しました

両親と一緒に馬車に乗り込むと、グルシュファー伯爵家を目指す。


「ジャンヌ、今日のそのドレス、とても素敵よ。やっぱりあなたは、騎士団の制服よりもドレスの方がよく似合うわ」


「そうか?ジャンヌは騎士団の制服の方がよく似合うぞ」


「あなたは黙っていて頂戴。大体あなたは、もう少し社交界の場に顔を出してください。そもそも私と結婚するときに、約束しましたわよね。しっかり伯爵の仕事もこなすと。それなのにあなたは…」


どうやらお母様のスイッチが入ってしまった様で、物凄い勢いでお父様に文句を言っている。これは、そっとしておいた方がよさそうだわ…


本当にお母様は、今日も元気ね。まあ、それだけ思う事があるのだろう。


「母さん、落ち着いてくれ。ほら、グルシュファー伯爵家に着いたぞ。早く行こう」


一刻も早くこの状況を打破したいお父様が、お母様を連れて急いで馬車から降りて行った。私も馬車から降り、今日の舞台でもあるホールへと向かう。


大丈夫よ、私は何も悪い事をしていないのだから。堂々としていればいい。そう自分に言い聞かせ、背筋をまっすぐ伸ばすと、ゆっくり入場していく。私が入場した途端、一斉に皆が私の方を向いた。


見たいならどうぞ見ればいい。ただ…私は見世物ではないが…


「ジャンヌ、来てくれたのね。嬉しいわ」


そんな私に声をかけて来たのは、アリスだ。


「アリス、久しぶりね。ごめんね、色々と忙しくて、なかなか会う時間が取れなくて」


「いいのよ、そんな事。それよりも、色々と大変だったわね。あなた、社交界であることない事言われていたのよ…でも、元気そうで本当によかったわ」


あることない事とは、きっとシャーロン様と婚約破棄した事だろう。何となくだが、私が悪者になっている事は想像できる。


“それで一体何があったの?巷ではついにシャーロン様がジャンヌに愛想をつかして婚約破棄をしたことになっているわ。一方的に婚約破棄されたジャンヌは、ショックで寝込んでいるとも…でもジャンヌがショックで寝込むなんて、本当にあり得ない話だわ。だってジャンヌよ。シャーロン様を締め上げたならわかるけれど、寝込むだなんてね。そもそもあなた、今騎士団で伸び伸びと過ごしているそうじゃない”


アリスが耳元で、真剣な表情で必死に私に訴えているが…なんだろう、この何とも言えない気持ちになるのは…


“アリス、実は婚約破棄は私から言い出した事なの。私ね、もう限界だったのよ。シャーロン様は私の事を嫌っていたでしょう?これ以上私の事を嫌いな人間と一緒にいたくないと思ったの。それにその…令嬢たちともかなり親密にしていた様だし…”


“そうだったのね。それにしてもジャンヌがよく4年もあの状況に耐えたわね。やっぱり、騎士団時代に助けてもらった事が、よほど心に響いたのね。あなたが誰かに助けてもらうだなんて、奇跡に近い出来事だったもの…”


だからアリス、私の事を一体何だと思っているのよ!でも、確かに騎士団時代にシャーロン様に助けられたことがきっかけで、彼の事が好きになった。


危険を冒してまで私を助けてくれたシャーロン様。彼のお陰で、私の無罪は証明され、汚名を返上する事が出来たのだ。でも…


“そんな暗い顔をしないで。でも、よかったじゃない。また大好きな騎士団に戻れたのだし。貴族の中には、好き勝手言う人間も多いけれど、気にする事はないわ。私は自分の気持ちに真っすぐなジャンヌが大好きよ”


“ありがとう、アリス。私ね、シャーロン様と婚約破棄をして、騎士団に戻って気が付いたの。やっぱり私は、自分らしく生きたいって。それに嫌な事から逃げたりもしたくないって。だから今日、夜会に参加したの。もちろん、アリスにも会いたかったし”


“すっかり昔のジャンヌに戻ったわね。やっぱりジャンヌはこうでなくっちゃ。正直シャーロン様と婚約していた4年間、ジャンヌがジャンヌじゃないみたいで、凄く不安だったの。こう言ったら語弊があるけれど、シャーロン様とジャンヌは縁がなかったのよ。やっぱりジャンヌには、グラディオン様がお似合いよね”


「ちょっと、どうしてそこでグラディオンの名前が出てくるのよ!」


急にアリスが変な事を言うから、つい大声を出してしまった。そのせいで、皆がこちらを注目している。


“大きな声を出してごめんなさい。急にグラディオンの話になるから、びっくりしちゃって…”


“あら、違うの?ダン様がジャンヌとグラディオン様、いい感じだと言っていたから、てっきりそうなのかと。それにあなたが本来の姿を取り戻したのも、グラディオン様のお陰なのかと思ったのだけれど”


確かに私は騎士団に戻って、グラディオンと一緒に過ごすことで少しずつ自分らしさを取り戻していったけれど。


“グラディオンと私はそんな仲じゃないわよ”


そう、彼とは良き友人であり、上司でもあるのだ。決してそんな仲ではない。それにしても、ダンったら、婚約者のアリスにそんな話をしていただなんて。本当に油断も隙も無いわ。


「アリス、ちょっといいかい?」


その時だった。アリスのお父様がアリスに声をかけて来たのだ。


「ごめんね、ジャンヌ。本当は今日ずっと一緒にいようと思っていたのだけれど、お父様に呼ばれてしまって」


「私は大丈夫よ。今日あなたとお話しできて、よかったわ。またゆっくりと話をしましょう」


「ええ、それじゃあね」

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