第20話 俺がジャンヌの代わりになる~グラディオン視点~
ジャンヌが騎士団を辞めてから、俺は今まで以上に稽古に励んだ。今までアイドル的存在だったジャンヌが抜けたことで、自然と隊の士気も下がってしまっていたのだ。
きっと今の状況をジャンヌが見たら、ショックを受けるだろう。ジャンヌにはいつも笑顔でいて欲しい。二度とジャンヌが騎士団に戻ってくることはない事は分かっている。それでも俺は、ジャンヌが築き上げてきたこの騎士団の雰囲気を、俺の手で守っていきたい。
それが俺に出来る、唯一の事だと思っているから。
俺はそんな思いで、必死に稽古に励み、周りにも目を配った。意地悪な事をする奴が居たら、ジャンヌの代わりにそいつを叩きのめした。
ただやはり、壁にぶち当たる事もあった。そんなときは、ジャンヌならこんな時どうするだろう、そう考えて行動した。すると、自然と上手く行くのだ。
そんな日々を送っているうちに、気が付くと俺は、第7部隊の隊長を任されるようになっていた。俺を隊長して慕ってくれる隊員たち。それがなんだか嬉しくてたまらない。
さらに騎士団長からは
「グラディオンは本当に強くなったな。周りにも目を配れているし。俺は次期騎士団長には、グラディオンを推薦しようと思っている」
そんな嬉しい言葉をもらったのだ。他の隊の隊長からも
「やっぱり次の騎士団長は、グラディオンしかいない。お前に期待しているぞ」
そう声をかけてくれているのだ。騎士団長や隊長たちからも認められたのだ。でも、なぜか俺の心の中は、ぽっかり穴が空いたような虚しさが消えない。
「ジャンヌは今頃、どうしているかな?シャーロンと幸せに暮らしているかな?」
空を見上げ、そんな事を呟いてしまう。ジャンヌが騎士団を去って以来、ジャンヌとは一度も会っていない。俺もジャンヌも貴族だ。俺が社交界に顔を出せば、ジャンヌに会う事は出来る。
でも俺は、シャーロンと仲睦まじく過ごしているジャンヌを見る勇気がないのだ。俺は陰から、ジャンヌの幸せの願う事しかできない情けない人間なのだ。
ただ、俺も侯爵令息、いつまでも社交界に顔を出さない訳にはいかない。いつか侯爵家を継ぐため、どこかの貴族令嬢と結婚もしないといけない。頭では分かっている、でも、まだ俺の中で心の整理が付かないのだ。
それでも両親には、16歳になるまでは、どうか俺の好きな事をさせて欲しい。16歳になったら、ちゃんと侯爵家の事を考えるし、社交界にも顔を出す。そう約束しているのだ。
だからそれまでは、俺は騎士団の方に全力を注ぎたいと思っているのだ。
そんな日々を送っているうちに、俺は15歳になっていた。もう少しすれば、両親との約束通り、社交界に顔を出さないといけない。正直俺はまだ、ジャンヌを諦めきれていない。ジャンヌが騎士団を去ってから、もう4年も経つというのに…
自分でもびっくりするくらい、往生際の悪い男だ。それでもこの4年、俺はジャンヌが目指していた、誰もが理不尽な虐めを受ける事のない、クリーンな隊を作り上げて来たのだ。
もしもいつの日か俺の心の整理が付いたら、その時はジャンヌに今の騎士団の状況を話してやろう。きっと安心するだろう。
ジャンヌは本当に騎士団が大好きだったからな…
ジャンヌの事を考えるだけで、なぜか心が温かくなるのだ。
そんな事を考えていたある日、なぜか騎士団長に呼び出されたのだ。
「グラディオン、急に呼び出してすまない。実は今さっき、正式にジャンヌとシャーロンの婚約破棄が成立したんだ。ジャンヌは再び騎士団に入る事を望んでいてね。悪いがグラディオンの隊に入れてやってはくれないだろうか?」
はっ?今なんて言った?シャーロンとジャンヌが婚約破棄?それも今さっき?どういう事だ?
「騎士団長、シャーロンとジャンヌが婚約破棄とは…」
「実はシャーロンの奴、ずっとジャンヌを蔑ろにして、他の令嬢と仲良くしていた様なんだ。ジャンヌもシャーロンとの婚約破棄を熱望していてね。ジャンヌにはこの4年、辛い思いをさせてしまったから、これからはジャンヌの好きな様にさせてやりたいのだよ。親バカと思うかもしれないが、どうか頼むよ」
シャーロンの奴、一体どういうつもりだ。ジャンヌを愛していたのではないのか?他の令嬢と仲良くしていたとはどういうことだ。それにジャンヌは、4年もの間シャーロンに冷たくされ、傷ついてたいだなんて…
シャーロンめ!許せない!
でも…ジャンヌがまた、騎士団に帰って来るのか。
「騎士団長、ジャンヌの件、承知しました。すぐに我が隊で迎えられる様に、手配を整えます」
「ありがとう、グラディオン。ただ、ジャンヌは既に大人の令嬢に成長していて、制服の手配に少し時間がかかりそうなんだ。制服の準備ができ次第、入団する予定でいるから、よろしく頼むよ」
そう言って去って行った騎士団長。まさかジャンヌが婚約破棄して、騎士団に戻ってくるだなんて。それもこの4年、辛い時間を送っていたと聞く。少しでもジャンヌが居心地の良い場所になる様に、俺も急いで準備をしないと。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。