第502話 ユリーザ領へ
2日後。
12月11日。
ユリーザ大国 ユリーザ領 ムスコカ村。
ダムディ隊長とメリル領軍は、無事にユリーザ領に到着したが、そこには誰もいなかった。人種も魔獣もいない捨てられた村なので、情報も入らない。
「これは南に向かうしかないな。」
そこで一時休憩してから、一応村を捜索し、誰もいないことを確認してから、次へ移動。1時間程で、町についた。
「先ずは偵察だ。行ってきてくれ。」
3人の兵士が偵察に出発、30分ほどで帰って来た。
「どうやら、盗賊に乗っ取られているようです。少ないですが、町の人が囚われているようです。」
「全く盗賊は何処にでも湧くな。分かった。救出しよう。」
「ここは私達が先ず行きましょう。その隙にその人質を助け出してください。」とアダムとイブの2人のオークが提案した。
「私も護衛として、付いて行きます。」とマックス。
「貴方は人種に見えてしまうから、人質として捕まっている人が利用されてしまうかもしれないから、駄目です。」
「しかし…。」
「今回は心配ない。ロータスを送り込む。忍び込めるだろう?」
「問題ない。」
打ち合わせを追えて、少し計画を変えて作戦開始だ。
町に向かって2匹のオークが走り込んで来た。盗賊の見張りの一人が駆け戻る。
「おい、オークが来たぞ。お頭に知らせろ。」
「おお。」
「そうか、晩飯が向こうから来たか。囲め。」
2匹のオークの前に10人の盗賊が飛び出してきた。オーク達が立ち止まる。手には棍棒を持っている。
オークに切りかかろうとしていると、その後ろから背の高い男の冒険者が駆け込んできて、オークに変な形の剣を向ける。
「おい、お前等、これは俺が見つけて、追いかけてきたオークだ。手を出すな。」
「何だと。俺達が追い詰めていたんだから、俺達の物だ。」
「俺が追いかけてきたから、ここに来たんだ。俺の物だ。手を出すな。手を出したら殺すぞ。」
「何だと。こっちが殺してやるわ。お前等、オークもこの男も殺せ。」
そこへ新たな3人の冒険者がやって来た。
「お前等、何をしてる!」とフェラーリ。
「腹が減ってるんだ。オークは俺達が貰う。」とランボルギーニが大剣をビュンビュン振って威嚇する。
その横でマセラティが弓を構えて、狙いを盗賊に向ける。
「早く殺して、終わりにしましょうよ。時間の無駄よ。」
「お前等…おい、仲間全員連れて来い。」
「おう。」
部下が一人、裏に駆けていった。
「ねえ、もう射ってもいい?」
「まあ、待て。暇つぶしには良さそうだ。オークも逃げないしな。」
更に20人程の男たちが溢れ出てきた。
「悠長に待ちやがって。あの女以外は全員殺せ!」
離れた所にいた男が、弓を構える。
マセラティが矢を射る。2本、3本。
「男は判断が遅くて、待ちきれないわ。」
「俺も行くぜ。」とランボルギーニが飛び込んでいった。盗賊はひるんだ。その隙にオークが棍棒で目前に並んでいる男達を叩き潰す。マックスはオークの二人の護衛で、危なくなるまではいいかと刀をしまった。
「逃げろ。」と親分が叫んで、振り返ると、そこには兵隊たちが待ち構えていて、その場で討伐した。
「お金にしなくて良かったのか?」
「今はきりが無いし、面倒すぎる。これが目的ではないからな。」とダムディ隊長。
「アダムとイブもご苦労さん。皆もな。人質は無事救出した。この町の人達だったみたいだ。」
「どうするんですか?」とアダム。
「本人達に訊くが、多分他の安全な所まで送ってほしいということになると思う。」
*****
話を聞いてみると、先ずは魔獣たちが来て、兵士も戦ったが負け、町がボロボロになり、魔獣がいなくなってから、盗賊たちが入り込んだらしい。そして、やはり、安全な場所まで一緒に行きたいと言われた。
「これ以上の移動は無理だな。今日はここで泊まろう。皆は解放された宿屋や家を使い、寝てくれ。見張りの順番は後で決める。」
宿のキッチンを使い、残っていた材料でスープとパンの食事を用意した。捕まっていた女性たちが率先して料理してくれて助かる。
ダムディ隊長は、スープを食べながら、女性たちに質問する。
「この辺りで安全な場所が俺には分からないんだが、どの方向へ行けばいいんだ?」
「ここより大きな町なら、兵士が守っている可能性が高いので、南のハンツヴィルを目指しましょう。」
「分かった。明日は道案内してくれ。」
「それで、貴方方はメリル領軍だと聞いたけど、オークもそうなの?」
「いいや。あの二人は協力者だ。魔獣が居たら、グルゴウィル領へ戻るように説得してくれる。」
「安全なんですか?」
「ああ、それは保証するよ。」
*****
マーガレット様達はグルゴウィル領の真ん中辺を移動している。
10人で馬車2台と、騎馬で移動している。
「マーガレット様、例の黒いラージボアが怖くないんですか?」
「まあ、怖いけど、あれがいるのはもっと南だと思うのよ。だから、安全よ。」
「どういう勘なのか。お嬢様を信じるしかないんですけど。」
「何とかなるわ。兎に角できるだけ速く、グルゴウィル領を越えないとね。」
更に1時間ほど走ると、魔獣の集団が目に入る。
「前方を魔獣の群れが北へ移動しています。100匹ほどいると思います。」
「こちらに気が付いていますか?」
「気はついているようですね。こちらを見ている魔獣もいますから。しかし、興味がないのか、止まらずに進んで行きます。」
「ついているわね。ここで魔獣が通過するまで待ちましょう。休憩にします。」
10分ほど待って、さあ行こうとしていると、
「また、来ました。また100匹ぐらいいます。北へ向かっています。」とギルバート。
「北に何があるのかしら。」
「どうしますか?調べますか?」
「今は止めておきましょう。北には魔獣の巣があるのかもしれないでしょう。最初の目的に集中しましょう。」
*****
「もう、良さそうね。行きましょう。」
そこから2時間程移動すると、もう夕方になり、野営することになった。魔獣は火を恐れると冒険者ギルドで言われていたので、必ず火を燃やして野営している。
火があると、どうしても肉や野菜も調理することになる。それを魔獣たちが気にする場合もあるので気をつけているのだが、気をつけようがない時もある。
今回の料理番はノンノとマラカエだった。大きな鍋に、乾燥野菜と干し肉と豆を入れて煮込んだ物に、塩とミソスで味付けをした。この手の調味料も以前スマイルが置いていったものだ。
「出来ましたよ。お嬢様からどうぞ。」と深皿をノンノが渡してくれた。順に全員の手にスープが渡り、それぞれお祈りした後に、
「いただきます。」で食事が始まる。
皆で今までで一番つらかった野営のことなど話しながら、笑っていると、生臭い匂いがしてくる。
「何の匂いかしら?」
ギルバートは燃えさしを掴むと、適当に10m位先に投げた。そこにはグリーンウルフとゴブリンがいた。
もう2,3本燃えさしを違う方向へ投げる。
ぎゃぎゃ。火が当たったのか、ゴブリンが鳴く。
「これは完全に囲まれてますね。」
マーガレット様とノンノはライトの魔法を使い、辺りをぼうっと明るくした。確かに囲まれている。やはり火が怖いのだろうか。それ以上寄ってこない。
「切り抜けますか?」
「うん。まあ、そうなんだけど。あの燃えさしを見てみて…ゴブリンが掴もうとしているわ。火が珍しいのかも。」
「ほら、あっちのゴブリンも枝を持ち上げて、ぐるぐる回しだしたわ。」
「薪をもっとくべて、この火を大きくして頂戴。」
ギルバートが薪を10本程掘り込むと、火がずっと大きくなった。魔獣たちはその火をじっと見ている。その内、そこに座り込みだした。
「俺が火の番をするから、皆馬車の中に入って寝てくれ。薪はどれぐらいある?」
「今のペースで燃やしても、今夜の分ぐらいはある。」
「じゃあ、十分だ。」
「俺も付き合うよ。」とブタリタリ。
残りの8人はゆっくりと馬車の中に入り、戸に鍵をかけた。
「不思議なもんだな。魔獣は火を怖がると聞いていたが。」
「ああ、火に見入ってる。襲っても来ないしな。」
「旅の良い思い出になるな。」
「明日の朝まで生きていればな。」
*****
夜が明けると、グリーンウルフとゴブリンが北へ向けて去って行った。彼らにしても、不思議な夜の体験だったんじゃないだろうかとブタリタリは考えていた。
火をまた大きくして、スープを温めて朝食の用意をしていると、皆が起きだしてきた。
「あー、全然寝た気がしない。」
皆体を伸ばしている。
「体がバキバキだ。」
「グリーンウルフとゴブリンは?」
「日が昇ると同時に北へ移動しました。」
「本当に北に何があるのか。」
皆はパンとスープの朝食をさっさと終わらせると、また東へと向かう。
*****
グルゴウィル領の北部。もう直ぐユリーザ領。
「お早うございます。スレイニー司祭様。」
「お早うございます。エリザベス様とナターシャさん。」
「よく眠れましたか?」
「ええ、旅の途中で馬車の中で寝ているとは信じられません。」
「そうですね。この馬車が家にあれば、この中で寝るかもしれません。」
「全くです。」
「朝食をどうぞ。」
ナターシャは外で調理した、サンドイッチをテーブルに並べ、ブドウンのジュースの入ったカップを出した。
「ありがとう。ナターシャは食べないの?」
「お腹が空きませんから。」
「でも、食べられるのでしょう?」
「はい。」
「じゃあ、一口食べてみたら?」
エリザベス様は自分のサンドイッチを半分に切って、1つを渡す。ナターシャは受け取って、それを口に放り込む。
モグモグモグ。
飲み込んで、
「美味しい気もしますが、よく分かりません。」
「じゃあ、これからは毎回食べて、練習ね。」
「はい。」
「ナターシャさん、サンドイッチが美味しいですよ。ありがとう。」
「本当に。ありがとう。」
外に出て、スレイブニルを見ると、その辺の草を食べている。
「サンダーは水を貰った?」
桶を持って馬車の中に入り、水を汲むとサンダーへもっていく。すると、サンダーが嬉しそうに水を飲み始める。
「普通の馬と変わらないわね。」
エリザベス様はスレイブニルを撫でながら思うが、ダンジョンマスターによって作られた魔獣とは知らない。野生のスレイブニルが従順とは限らない。
周りを見渡すと、多くの魔獣たちが北へ進んで行く。これは王室を説得するにはかなりの好材料ね。よく覚えておかなくちゃ。
3時間後、エリザベス様はユリーザ領に到着したが、そこには誰もいない。そこから南下を始める。道なりに南下すると、村に出た。その中を進んで行くと、前にいきなり10人程の盗賊が現れた。
「おい、この馬、魔獣だぞ。足が8本ある。高く売れるぞ。」
「姉ちゃん、大人しく言うこと聞け。」
「断る。」
「止まりましたね。ナターシャ、どうしたの?」
「敵が邪魔をしてますので、排除します。」
ナターシャは地面に降りたと同時に、駆けだして、
「おっ、やるのか?!」
相手に抜く間も与えず、10人の首を跳ね飛ばした。
「うん。よく切れる。いい刀だ。」
彼女はついていない血を払い、鞘にしまうと嬉しそうに御者台に戻った。
馬車は村を抜け、30分で街についた。ゆっくりと町を抜けていく。ここには人種がかなり残っているようだ。
「エリザベス様、この町には人種が残っています。どうしますか?」
「ちょっと止めて。話してみるから。」
エリザベス様は馬車を下りて、道の人に話しかけた。ナターシャは勿論エリザベス様を護衛している。
町の名はハンツヴィル。衛兵はほぼ壊滅したが、魔獣もいないので、何とかなっているらしい。
「何処へ行けば、軍隊に会えるのか知っていますか?」
「はっきり知らないけど、南のオカナガン街にいると聞いたよ。メリル領の兵もそこへ向かって行ったよ。」
「それはここからどの位遠いですか?」
「馬車で1日ぐらいかねえ。」
「分かりました。それと、最近魔獣が襲ってきましたか?」
「いいや。最初の一度だけだね。もう無いね。」
「ありがとう。」
「ナターシャ、このまま南下してください。オカナガンが終点よ。多分。」
馬車が街道を南へと向かっていると、前方に軍隊が見えた。
「前方に軍隊がいます。」
「追いついて頂戴。」
「どうやらダムディ隊長達に追いつけたようね。」
*****
「そう、まだユリーザ領の軍隊には会えていないのね。」
「オカナガン街に居るはずだとのことです。」
「分かったわ。では、急ぎましょう。私達は貴方の後ろから付いて行くわ。」
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