第501話 ホッと一息

1日後。

12月9日。



ベップ王国 王都ザスパ トランの宿。



朝湯に入りながら、酒を飲んでいる二人。

「本当にありがとう。君に頼んで助かったよ。」とジョン。

「いえいえ。私も仕事が完了して、ホッとしました。」とカイン。

「揉めなかったのか?」

「揉めるほどではなかったですね。向こうも状況を理解してくれたのでしょう。ちょっとお話をしたら返済証明書を頂けました。これ以降お金を払う必要はありませんよ。」

「本当にベップ王国へ来て良かったよ。」

ジョンが湯に沈んでいく。

ざばぁ。

また酒を掴み、

「成功に乾杯。」

「乾杯。」

「直ぐにエストスマ王国へ帰るんですか?」

「心の鎖が取れたから、もう少しのんびりしていくよ。」

「カインはどうするね?」

「私はそろそろユリーザ大国へ行ってみようと思います。魔獣の被害で大変みたいですから、調べてみたい。新たな商売のネタがあるかもしれません。」

「そうか。その時になったら教えてくれ。また、いつでも我が国へ来てくれ。」

「分かりました。そうさせてもらいます。」

ガラララララ。

ガヤガヤガヤ。

「おっ、先客がいるぞ。」

「あれは、ジョンさんとカインさんではないですか。久しぶり。」

「いや、2日ぶりぐらいだろう。」とジョン。

「それはまずいな。友との再会だから、酒で祝わないと。」

「いや、いや。まだ朝だよ。」

「明日、明後日と予定が無いので、問題ないよ。おーい、女将さんに酒の準備してもらってくれ。」

「いや、そんな本格的じゃなくても。」とカイン。

「友、遠方から来る、楽しからずや。飲もう。」

「よし、皆、とっとと風呂で体調を整えて、宴会をするぞ。」

「「「おーーーーー!」」」

二人は苦笑した顔を互いに見合わせて、

「…この感じがもうすぐ終わるのか。寂しくなるな。」

「肝臓には感謝されるかもしれんがね。」

その後、結局モーガンとフリン、ジョンの仲間も巻き込んで、3日間の宴会に突入。

スミスが一度だけ顔を出した。

「カイン、ご機嫌だな。」

「スミスか。エストスマ王国の問題が片付いたからな。やはり白い仮面をつけているんだな。」

「役に立っただろう?」

「ああ、効果的だったよ。助かった。」

「これで第一段階終了だ。」

「最近お前は何をしているんだ?」

「…まあ、色々だ。ただ、ユリーザ大国にいることが多い。」

「ほう。何かあるのか?」

「まあ、ある。少し面白い。カインも何時でも使える爆弾を持ってるしな。」

「あれか。いつ使うべきか…。」

「それは任せる。カインの方が俺より頭良く使うだろう。」

「しかし、情報が多い方がいつ使うか決めやすいんだがな。」

「もっともだ。少し話しておくか。今ユリーザ大国は魔獣に侵攻されている。そして西のオカナガン街に駐屯していた軍は押し返せていない。他領からの援軍も集まりも悪いし、自衛で精いっぱい。ハーシーズ領の軍は途中で魔獣に蹴散らされた。メリル領軍が援軍として向かっているが、どうなるかは未知数。グルゴウィル領北部にダンジョンが生まれた。今は魔獣の住処だな。グルゴウィル領が引き起こした問題だ。そのまま魔獣の住処として隔離しようとする流れがある。こんな所か。」

「お前は何処からそれだけの情報を手に入れてくるんだ。すると今後ユリーザ大国は揺れそうなんだな。」

「グルゴウィル領から難民も多く来ているだろうし、グルゴウィル領を復興するのか、放置するのかもわからない。どちらにしろ、以前と同じにはならないだろう。グルゴウィル領を復興するならするで、物資と金が必要になる。復興しなくても、ユリーザ領内の復興はしないわけにはいかないだろう。その人達を支える物資が必要になる。少しそれるが、南部の領からの援軍が少なすぎるのも怪しいしな。この辺は王家も考えることがあるのではないか?」

「お前が俺にして欲しい事はないのか?」

「そうだな。特別無いが、もし誰かが俺の紹介で会いに来たら、話位は聞いてやってくれ。」

「当たり前だろう。今更頼むようなことか?」

「かもしれんが、筋を通さないと、誰かさんに怒られるからな。」

「ふっ、分かった。」

「では、もう行く。モーガンとフリンに鍛錬するように伝えておいてくれ。あと、商売の勉強もしろと。それと土産だ。俺の田舎ではめでたい時に食べる魚、タイタイだ。」

スミスは横の机の上に巨大なタイタイが10匹も入った箱を積み重ねた。

「じゃあな。お疲れ。」

「じゃあ、またな。」

(スミス、口数が多かったな。機嫌が良さそうだ。)

スミスは音もさせずに部屋から出て行った。

「カインさん、この魚は何れすか?」

「えっ、今スミスが置いて行っただろう。タイタイって魚だ。女将さんにお願いしてくれ。」

「スミスが来てたんれすか?」

「ああ、お前とフリンに勉強も鍛錬も頑張るようにって言ってたぞ。」

「見られてましらか?」

「ばっちりとな。まあ、怒ってはなかったよ。可愛い子供を見ているようだったよ。」

「…それは少しほっとしますけろ、フリンには言わないれあげまひょう。」

カインとモーガンは、隣で浴衣をはだけて半目を開けて寝ているフリンを見ながら、頷く。

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