第174話 ファニー商会支部
ロストチャイルド商会襲撃から11日目。
朝。
ダンガル王国の王都デボラ。
昨日の夕方から深夜までに冒険者ギルドのフレデリカ以外の獣人誘拐事件に関与していた冒険者、冒険者ギルドの職員、商業ギルドの職員は素早く逮捕された。そして今朝には全て処刑された。宰相の果断な判断の多くは称賛された。しかし、貴族たちは降爵で収まった。貴族の多くが宰相に多額の賄賂を送って首の皮一枚で生き延びたが、多くの貴族が宰相に頭が上がらなくなった。国民の多くはもっと厳しい罰があるべきではないかと考えたが、声を上げる者はいなかった。
社会的に罰せられないならば、経済的に罰しよう。俺が。内も子供たちが増えてきたので経済的に支援してもらえると嬉しい。Win-Winだ。
分身たちに全ての金を払った貴族を追跡させて、その夜に家にある財産と食料を回収した。商業ギルドの口座は先ずは手を付けないでおいた。もしかしたら、改心するかもしれないと信じたい。エゴだな。
全員で12人。かなりの数だ。奴等の屋敷には奴隷はいなかった。これはいいニュースだ。多分地元の奴隷を屋敷に置くわけにもいかなかったのだろうが…。
明日王様が死ぬと、他のことが見えてくるだろう。それ次第で何をするべきかはっきりする。
*****
ダンガル王国 北部。
フレデリカと俺は、朝から馬車で移動して、ザ・ホールの近くに向かっている。どうやらこの辺りの領を管理する貴族の家に向かっているようだ。
「こんなところでのんびりしていていいのか?すぐにネイラード王国に逃げるのかと思った。」
「その前に済ましておかないといけないことがるのよ。ワイズ伯爵に会って行くわ。」
ワイズ白爵の屋敷は凝った石造りの大きな屋敷だ。庭師が良い腕なのか、庭も綺麗に刈りこまれていて、庭の低木は不思議な形をしている。幾つかは何故か歪な形をしている物もあるが、前衛的?なのか?
「お久しぶりです。ワイズ伯爵。問題はありますか?」
「いいえ。ありません。」
「そうですか。それなら結構です。私達は一時撤退します。後片付けはお願いします。」
「分かりました。」
*****
「これだけでいいのか?」
「いいのよ。伝わってるから。」
「分かった。」
馬車は進む。
「このままソリダス王国へ向かうのか?」
「ええ。そうよ。でもその前にまだ貴族に会わないといけないわ。」
「そうかい。」
次はレミングス伯爵だった。全く同じような支持を出していた。俺も同じように分身に指示を出した。
「この指示にはどんな意味があるんだ?」
「貴方が知る必要はないわ。」
「そうかもな。」
そして次の領地へ。どれも国境近くの領主ばかりだ。その後も6つの領地を回り、どこも同じ指示だった。その後も北へ向かって進んでいった。国境を超えると、すぐにソリダス王国になる訳ではない。実際ソリダス王国の南部の国境は非常に曖昧だ。何故ならそこは辺境と呼ばれる深い森で、魔獣も多く生息している。その中を馬車は進んでいった。
「こんなところを馬車で進んでいて大丈夫なのか?魔獣が出てきてもおかしくないと思うが。」
「まあ、そうでしょうけど。その為に貴方がいる訳でしょう?」
「確かに俺は護衛だな…あとどれぐらい進むんだ?」
「そうね2時間ぐらいかしら。」
「かなり北なんだな。」
「そうでもないわよ。」とフレデリカが言ったころから左に曲がりだした。
「これだと、ユリーザ大国の方向になるのか。」
「そうね。」
「もしかして、この道には魔獣除けが使われているか?」
「あら、よく気が付いたわね。」
「いや、あまりに魔獣が来ないからな。」
「本当にもの知りよね。」
「まあ、長生きしたいんで。」
感知で魔獣除けを見つけ、馬車の移動に従ってこっそり回収していく。面白くなるかもしれないな。とことん邪魔してやろう。安全な所から高見の見物などさせてやらない。
俺の感知では、魔獣が徐々に寄ってきている。結構大きな魔力を持っている魔獣もいるな。送り狼という感じだ。何処に向かっているか知らないが、これで完全に孤立させられる。千里眼で上空から見てみるとこの道の他に道らしい道は無いし。あの屋敷が目的の場所なんだろう。
それから1時間ぐらい馬車に揺られると屋敷が見えてきた。
「あれが目的地か?」
「そうよ。ここがファニー商会の支部の一つよ。」
「なかなか立派な建物だな。どこかで見たような…。」
「…建物何てどれも似ているからね。」
「まあ、そうだな。」
馬車を屋敷の前につけると、
「子供達をこのまま乗せておくのか?」
「他の使用人が連れて行くから、そのままにしておいて。貴方は私と来て頂戴。」
「分かった。」
俺は彼女の後ろについて歩く。
「中も立派だな。支部だのに。本当に支部か?」
「うちはお金があるからね。支部でもここまでお金をかけるのよ。貴方の報酬も期待していいわよ。」彼女はニヤリとしている。
「それは期待しちゃうな。」
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