第99話 ターシャとの旅
次の朝。
昨日のことで結構疲れたな。これからの旅が全く違うものになったと思う。ネリーの体の心配が減ったことは良い事だ。朝は軽く食べられる洋風お粥にしよう。鍋に干し肉、野菜のみじん切り、塩、ライスで煮込んでみた。ターシャが起きてきた。
「おはよう。」
「おはよう。マスター。」
「ターシャの体はまだ本調子ではないだろうから、お粥を食べよう。」
俺はよそって渡した。
「うん。そうする。うん。美味しい。温かい。」嬉しそうにしている。
「そうか。良かった。」
静かに朝食を食べ終わり、北に向かった。此処を西に行けばエリザベス様の領地か。
今まではネリーが起きれなかったから馬車で移動してきたがこれからはどうするべきか。
「ターシャ、どのぐらい動ける?」
「どういう意味?」
「ネリーが元気なころは体を鍛えるために二人で走って移動していたんだ。これからどうしようかと思ってね。」
「私も鍛えた方が良いかもしれないわ。この旅は安全とは限らないんでしょう?盗賊とか魔獣とか。」
「その通りだ。試しに走ってみるか?俺は馬車でついていくよ。」
ターシャは走り出した。1時間ぐらい走っても大丈夫なようだ。
「そんなに痩せてて、よく大丈夫だな。」
「魔力を使って補助しているからね。」
「俺と鬼ごっこしてみないか?」
「いいわよ。」
「じゃあ、俺が鬼で始めるぞ。無理しない程度にな。俺が10数えてから追いかける。始め。」
だだだだだだ。
ターシャが逃げていった。それじゃあ追いかけよう。たたたたたた。見つけたぞ、ターシャ。なかなか走れるな。ネリーほど早くないが、ブランクがあるし、体力落ちているはずだし、こんなものか。速すぎないか?
「はい、触った。次はターシャが鬼。俺は逃げる。」
良し、追ってきたな。触られそうになると、俺は躱す。右に左に。スピードを上げたり。
「はい、触った。マスターが鬼。」
俺たちは1時間ほど鬼ごっこを続けて、休憩にした。ターシャにジュースを渡し、
「ターシャ、大丈夫か?問題なく走れるようだけど。」
「そうみたい。これからは馬車はいらないわ。」
「俺もそう思ったんだが、結構子供を保護することもあるんだよ。だから、どうしようかな。」
「馬車は収納して、馬には走ってついてきてもらえばいいんじゃないかしら。」
「それもそうだな。それでいこう。」
俺たちと馬は一緒に走っていた。いくつもの村や町を通り、ターシャは見る物、聞く物が珍しいのだろう、とても嬉しそうにしていた。俺はネリーほどターシャには心配していなかった。何といっても12010歳なのだから、世の中を分かっていることだろう。世界が違ても、人は基本欲で生きていると。そして、問題の切り抜け方も。だから、自由にさせていた。フッと気付くとターシャがいなかった。流石に心配するぞ。
「おーい、ターシャ、どこにいる?」
俺は走って探し回ったが見つからない。感知でターシャを探して見つけた。此処から2ブロックずれたところにいる。俺が歩いて行ってみると、男3人が地面に倒れていた。
「ターシャ、大丈夫か?」
「マスター、何だか絡まれたわ。私が可愛いから仕方ないんだけど。」
「そうだな。仕方ない。生きているのか?」
「生きてるわ。」
「じゃあ、いいか。屋台にでも行くか?」
「楽しみね。」
俺たちは歩き出した。ターシャは俺の手を掴んで、
「迷子になるから。」
「俺が?」
「そう。」
「じゃあ、よろしく。」
「ターシャ、何か食べたいのもはあるか?」
「うーん、あの壺焼きが食べてみたい。」
「俺も食べたことないな。ターシャが頼んでみるか?」
「おじさん、壺焼き二つください。」
「可愛いお嬢さんだな。一個おまけだ。」
「わーい、ありがとう。」
流石、ターシャ。男を手玉に取るか。
「美味しいわね。」
「本当に旨いな。親父、これって何を焼いてるんだ?」
「これは、ライオーンの金玉だな。」
「まじか。それは予想外だったな。そしてこの旨さ。」
「勘違いするなよ。ライオーンの金玉って呼ばれる茸だからな。こうやって知らない人をからかうのが面白いんだ。」
「ビビったぜ。一瞬。」
「ターシャは大丈夫か?」
「はい。でもびっくりした。」
「親父、詫びにもう2個くれ。」
「まいどあり。」
ターシャは美味しそうに残りの2個も完食した。
感知でライオーンの金玉茸を探すと結構ここら一帯で生えているようだ。少し途中で採っていこう。
魔獣がほとんど出ないため、2人のレベルは上がらないが、それでも鍛錬を続けている。今は組み手も始めた。ステイタスもきっと上がっていることだろう。もうすぐジェネラルミル領に入る。本当に過ごしやすい領だったな、ハーシーズ領は。此処も永住拠点の可能性ありの領だ。もうこれが最後の村だろう。今日はもう遅いし、此処で泊めてもらうか。
「ターシャ、今夜はここで泊めてもらおう。」
「はい。」
村の入り口で、身分証を出して、
「こんばんは、キスチョコ村にようこそ。」
「こんばんは。この村で宿屋はあるかい?」
「一つあるぞ。真っ直ぐ行ったら、右手に見える2階建ての建物だ。」
「ありがとう。」
早速宿屋で一泊取って、宿で晩御飯を頼んだ。この村の名物でオークのシチュー。働いている子に、
「この辺ではオークが採れるのか?」
「そうなんです。以前はもっと少なかったんですけど、ここ1年ぐらい良くとれるようになったんです。だからオークのお肉は皆が食べられるようになったんですよ。」
「へー、このシチューも美味しいね。大正解だ。」
「ターシャも好きか?」
「とっても美味しくて、好きよ。」
「そんなにオークがいるってことは、群れがいるっていうことじゃないのかな。一寸怖くないの?」
「村常駐の冒険者がいますし、心配ないですよ。」
「なら、安心か。」
食後にターシャに訊いてみた。
「ターシャ、感知スキルがあるだろう。今どの位先まで感知できる?」
「そうね、雑にやって300m位かな。」
「悪魔だからか、最初から凄い距離だな。魔力量の所為か?何か感知できるか?」
「何かいるわ。でもはっきりしないわね。」
「分かった。一寸出かけないといけなくなるかもしれない。ターシャも来るか?」
「付いて行ってあげる。」
俺たちはのんびりと村の中を歩いて回った。柵はちゃんと出来ているようだ。
「ターシャ、どうなってる?」
「敵対存在が近づいて来るわ。後、10分ぐらいよ?」
「村常駐の冒険者に話に行こう。」
冒険者が外の見回りに向かった。俺たちは彼らの後をゆっくりとついていく。とうとう冒険者が接敵したようだ。オークの数は10匹。一寸厳しいかもしれないな。俺たちが着くころにはオークが3匹倒されていたが、冒険者も傷ついていた。
「ターシャ、助けられそうか?」
「簡単ね。」
「じゃあ、頼んだ。良い練習になるといいな。」
「そうね。行ってくるわ。」
ターシャは冒険者に助けがいるか質問している。最初は遠慮していたが、最後には了承していた。俺はターシャがどうやって戦うのか興味があった。物理か魔法か。ターシャは短剣を持っている。残り7匹のオークにターシャは先ずはファイアーボールで攻撃した。出力はだいぶ抑えてあるが十分にダメージを与えたので、冒険者たちで倒すことが出来たようだ。最後の一匹をターシャは短剣で止めを刺していた。なかなかの強さだ。ターシャが冒険者と話している間に、ステイタスチェックをした。
名前:ターシャ(仮)
種族:悪魔(上級)
年齢:12010
レベル:4
HP:140/140
MP:1050/1050
能力:成長促進:8 魔力増進:8 異常耐性:8 感知:8 変装:43 物理耐性:10 魔力操作:10 身体強化:10 魔法耐性:8 隠蔽:10 洗脳:10 魅了:10
種族能力: 水魔法:10 火魔法:15 土魔法:10 風魔法:10 光魔法:10 闇魔法:10 状態異常魔法:10 無属性魔法:10 飛行:5
やっとレベルが1上がって4になった。日ごろの鍛錬でかなり全体的に上がっている。魔法も万遍なく上がっているのは日頃からの練習だろう。大したもんだ。いつかは俺を抜くだろうな。
「ターシャ、ご苦労様。レベルも上がったようで、良かったな。」
「ありがとう。褒められて嬉しいわ。」
「ターシャの名前って(仮)がついてるんだけど、何で?」
「真名を名乗る悪魔はいないからよ。良くマンガでも真名を知られると制御されるとか言うじゃない。でも、あれは嘘かもね。」
「どういうこと?」
「私達に真名なんてないと思うの。少なくとも私は真名を知らないわ。親も知らないし、私を産んだ何かも知らない。ただ、存在したわ。それなのに年齢があることも不思議だけど。だから勝手に私がターシャと名乗ることにしたのよ。この名前で私の存在を制御できる者など存在しない。マスターは私に魔力と存在意義をくれた存在だから、喜んでかしずくけど、それだけよ。ただ、この喜んでという部分が大切なの。これは、人も変わらないでしょう?」
「全くその通りだな。それに、俺はターシャという名前が好きだし、合っていると思う。」
「ありがとう。マスター。」ターシャは俯きながら、礼を言った。照れているんだろう。可愛いもんだ。
「明日の朝もオークのシチューが出るかもな。さあて、帰って休もう。」
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