第45話 出発
次の日の朝。
俺は店の外で寝ていた。酔っ払い野郎が悪戯する可能性を考えてだが、起きた時には酔いが覚めたのか、すごすごと帰っていった。
アブデインの家族はそろって家を見に行ったらしい。これまたびっくりしていた。元の家がほぼそのままスポケーンに来ているのだから。家の中に入って手紙を読んでさらに驚き。トイレと風呂の使い方しか書いてないしな。金庫もそのままだし、大金が袋に入っている。早速風呂を沸かすつもりだが薪も水も張ってないぞ。まあ、頑張れよ。
俺はやっと終わった長い計画を思いやって、これはみんなジョージの手紙から始まったんだと思い出した。3か月前、4か月前、思い出せないよ。俺記憶スキル持ってるのに…
さてと帰るか。あー、牝馬を5匹連れて行かなくては行けなかったのを忘れてた。迎えに行こう。きっちり終わらせよう。
*****
ジョージの町に着いた。
俺は真っすぐ厩に向かった。
『おーい、皆、美人の馬を連れてきたぞー。』
ドドドドドドドドド。
『シルフィード、問題なかったか?』
『ああ、のんびりしたもんよ。』
『この町に残る馬は決まったか?』
『ああ。』
『よし。出発はまだだが、確認だけしたくてな。じゃあ、皆、美人達を案内してやってくれ。』
*****
「おい、ジョージ、畑の調子はどうだ?」
「順調、順調。今では、町中でスマイルのやり方に倣ってるぜ。」
「よし。ジャーモは?リーケは?」
「凄いぞ。もうすぐ収穫だ。」
「次はニャーク(大蒜)に挑戦だな。」
「ネリー、ただいま。」持ちあげて、抱きしめると、
「お父さん、お帰り。」
「やっと、帰って来たよ。」
「お仕事終わったの?」
「そう。終わったの。これでゆっくりできる。」
その日はジョージの家でゆっくりして、魚を思いっきり食べさせてやった。
次の日は師匠に会いに行った。
「どうですか、師匠。この町には慣れましたか?」
「おう。もう次から次へと作るものがあって、やる気が出るぜ。」
「今は何を作っているんですか?」
「馬に着ける鋤だな。12個ほど作らにゃならんのだが、手伝ってくれ。」
「いいですよ。やりますか。」
二人でトンテンカン始めた。
「二人だと仕事が早い。もう終わったか。腕は鈍ってないみたいだな。」
「他に作りたいものがあるんですよ。人用の鋤と麦を刈る鎌。こんな形です。」
「先ずは4本づつでいいので、お願いします。」
二人でトンテンカン。これもなかなか早く終わった。
「おいくらですか?」
「お前に請求するかよ。気にするな。」
「有難くいただきます。お土産の魚です。食べてください。それと師匠、私も魔力炉が欲しいんですが、どこで買ったらよいでしょうか?」
「ドワーフの国、ソリダス王国がやはり良いだろう。俺の炉を作ってくれたのはエデガルガだ。」
「機会があったら行ってきます。あと少し練習してもいいですか?」
「ああ、好きなだけやれ。俺はもう上がりだ。」
俺はその後、師匠の助言の下、鋤、鍬、シャベル、馬用の鋤、鎌、ナイフ、ショートソードと作り続けた。かなりコツをつかめたと思う。夜になったころにネリーが迎えに来たので、師匠も一緒にジョージのとこで晩飯を食べて、泊っていった。次の日も朝から昼まで師匠に教わり、最後にロングソードを習った。師匠にも免許皆伝とは言わなくとも一人前だと認められた。お礼に中華鍋と鉄のお玉とフライ返しを教えた。3つ作って、師匠に一つ、ジョージの家に一つ、俺に一つ。それと鉄鉱石を10㎏置いてきた。
「ジョージ、皆さん。明日私とネリーは旅を再開します。長い間本当にお世話になりました。最初に2週間と言ったことが信じられません。ジョージには特に世話になった。師匠と町長にも昨日挨拶してきました。
ジョージ、今やっている農法はこの村で発達して、その内、スポケーンの領主からも問い合わせが来るだろう。その時は頑張って教えてやって、領主の名をとってジョージ・ノーフォーク農法とか言えばきっと領主がお前を大事にしてくれるだろう。頑張れよ。俺たちが去った後は外の家は好きに使ってくれ。また遊びに来る。」
夜は更けていく。
翌朝早く俺たちは厩に行った。
『お早う、シルフィードとウインクス。今日出発することにしたよ。他についてくる3頭は誰だ?』
『俺たちはとうとう出発だ。世話になった。お前らも行くぞ。』とシルフィード。
『皆の名前は?』
『右から、ワカタカ(雄)、カブトヤマ(雄)、フレーモア(雌)。』
『和風な名前な感じがするが、分かった。よろしくな。俺はシルフィードに、ネリーはウインクスに乗るからついてきてくれ。先ずは俺の新しい土地へ行く。其処にも馬がいるからよろしくやってくれ。出発。』
先ずは、スポケーンだな。こんなにのんびりしたのはいつ以来か。ゆっくりゆっくり。
これがなんやこうやで3か月だ。
ネリーは乗馬がかなりうまくなっていたので褒めた。今は丁度スポケーンの半ばまで来た所。休憩しようと思うんだけど、ゴブリンが向かってきている。3匹だが、どうしたものか。ネリーに戦わせる?ネリーのステイタスはと。
名前:ネリー
種族:獣人(犬)
年齢:6
レベル:11
HP:30/30
MP:8/8
能力: 物理耐性:9 俊足:4 卵
種族能力:身体強化:6 嗅覚向上:6
新しいスキルは無し。わずかにステイタスが上がっているか。普通に農業をしていただけでは、知識は増えても獣人のステイタスにはほぼ変化なし。鍛錬させるしかない。
「ネリー、ゴブリンが向かってくるんだが、どうしたらいいと思う?」
「戦う。」
「怖くない?殺すんだよ。」
「いつも何か殺して食べてる。襲ってくるなら、戦う。それが獣人。」
「どうやって戦う?武器がいる?」
「ナイフがある。」
「俺が前作ったやつ?」
「うん。」
「ほら、やってきた。ネリーが1匹で俺が2匹?」
「3匹ともできるよ。」
「分かったよ。危なかったら助けるからね。」
「うん。」
ネリーは3匹のゴブリンに向かって草原を走っていった。どんどんスピードをあげていく。ゴブリンが散会して、三方から回り込むようにネリーを囲い込むが、急にネリーが右端のゴブリンへと方向を変えて飛びかかった。右のゴブリンは対応できずに足を切られた。ネリーはそのまま走り過ぎ、真ん中のゴブリンに行くと見せて石を投げつける。ひるんだ隙にわき腹を刺した。そして最後の一匹にゆっくり寄っていく。ゴブリンは焦って飛び出したが、ネリーは焦らず相手をかわしながら肩を切り裂き、返して頸を切り裂いた。その後、残りの二匹に止めを刺して回った。完璧に上位者の戦い方だ。
「ネリー、凄く強いんだな。びっくりしたよ。練習してたの?」
「少しづつ練習した。お父さんが言ってた。何が起こるか分からないって。」
「偉いぞ、ネリー。その通りだ。日頃から準備しているといざって時に対応できるから。俺もネリーを見習わないとな。ある程度できるようになると、手を抜き始めるから。それは凄く危険なことなんだ。ネリーもコツコツを止めないでね。結果が出てないように見えても、それは見えてないだけだから。」
「うん。」頭を撫でる。可愛い。
「じゃあ死体を処理してくるから向こうで待ってて。」
「うん。」
俺は死体のそばに来て3匹とも吸収した。戻ってきて、ネリーのナイフを布で拭いて綺麗にした。
「こうやって、綺麗にしとかないとナイフが痛むよ。」
「うん。分かった。」
もう少し進んでから、野宿をした。まだ明るいが、急いでいないし。ネリーと鍛錬した。今日の鍛錬は鬼ごっこ。これからは毎日するつもりだ。
「ネリー、鬼ごっこしよう。」
「鬼ごっこって何?」
「鬼役と人役があって、鬼役は逃げる人役を捕まえる。人役は捕まったら鬼役になる。人役をつかまえた鬼役は人役になる。それでまた最初から。鬼役は人役を捕まえに追いかける。この繰り返し。最初はじゃんけんで負けた方が鬼役になる。じゃんけんは石と紙と鋏があって、こうするんだ。」
じゃんけんのやり方を教えて、最初は俺が鬼だ。
「10数えたら追いかけるぞ。この草原から出たらだめ。1,2、…。10」
かなり離れたネリーを追いかけていく。彼女はジグザクに逃げたり、凄い加速をしたりして、俺をまこうとするが、草原だから障害物がないので、本当に体力勝負。10分程やって、ネリーに触った。
「はい、ネリーが鬼。10数えてから追いかけてくれ。」
俺はダッシュで逃げた。10数えたネリーがやってくる。一生懸命走ってくるので可愛くて見ていると急に加速した。だが甘い。俺は大きく飛び跳ねて、ネリーを飛び越して逃げた。急停止してネリーは追う。俺は逃げる。俺も10分ほど逃げて捕まった。これを繰り返して、ネリーが動けなくなるまでやった。次は逆立ち歩き。下が平らでないから難しいがそれがいい。俺は逆立ちで散歩を始めた。ネリーも頑張って逆立ち歩きする。獣人の身体バランスで直ぐできるようになった。これも20分ぐらいやっていた。次は剣だ。ネリーはナイフ。俺は勝手に素振りを始めた。暫くしてネリーも素振りを始めた。俺は型を知らないから教えられない。ただ、先ずは基本の動きを素早くできるようになると相手が嫌がりそうなことをできるようになるだけだ。ネリーにもそう伝えている。身体強化を止めて、素振り。先ずは真っすぐ振る練習。ネリーもひたすらやっている。でもまだ6歳だから、ほどほどにさせよう。
「ネリーはもう止めていいんじゃないか?」
「まだできる。」
「そうか。でも今日はこれぐらいにしよう。あとはご飯の後だ。」
「うん。」ストレッチをしてから終了。
「ネリーは何か思い出したか?」
「何も。」
「そうか。俺は獣人の鍛錬の仕方を知らないからな。一度誰か他の獣人に訊いてみよう。」
「うん。」
俺は作った中華鍋でステーキを焼いた。ニャークも入れていい匂いだ。皿にのせて、サラダを添えて終わり。
「いただきます。ネリー、おかわりあるからな。」
「うん。」
俺も久しぶりのステーキで2枚食べた。ネリーも2枚。サラダはほどほど。俺たちも含めてすべてにクリーンをかけ、地面に毛皮を敷き、そのうえで毛布にくるまれて眠った。俺はネリーのステイタスチェック。
名前:ネリー
種族:獣人(犬)
年齢:6
レベル:11
HP:20/30
MP:8/8
能力: 物理耐性:9 俊足:4 卵
種族能力:身体強化:6 嗅覚向上:6
1日ぐらいでは変わらないか。ゴブリンは倒したが…弱すぎるのか?少なすぎるのか?
「お早う。ご飯の前に素振りしよう。」
素振り1000回。ネリーもしている。終わったらクリーン。そして簡単な朝食を食べて出発だが、今日はちょっと違う。
「ネリー、今日は走っていかないか?」
「うん。」
「俺はネリーの後をついていくよ。シルフィード達もついてきてくれ。出発。」
ネリーは飛ばした。おれも追う。シルフィード達も追ってくる。さぞかし滑稽に映ることだろう。1時間ぐらい走ったら、ネリーに横走りだ。と横向きに走ってみた。ネリーは笑いだしながら真似した。1時間後、反対向き。また1時間。また、普通にネリーの横を走る。もう4時間ほど走っているが、ネリーは大丈夫そうだ。スポケーンの街が見えてきたのでシルフィードとウインクスに乗せてもらった。
(しかし、これって普通なのか?獣人はこんな感じなのかな。)
『シルフィード、大丈夫か?』
『ちょっとのんびりしすぎてました。』
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