第33話 追っ手
最後の村を抜け、左に曲がって西に向かい始める。小さな丘があって司祭からは見えないが、既に追っ手はだいぶ近づいていた。俺はこの小さな村の手前にいて悩んでいた。全員返せないことは決まっているが、さて幻覚を使って共倒れさせるか、Hugeスライムの実力テストをするか、あれやこれや。しかし今回は騎士が多いのでやはりそういう相手にいろいろな手を試すべきだろう。感知、五感向上、隠形で分身達は各所に散った。覗いてる暗殺者ギルドも含めて目撃者を全て消す。村の人達には幻影魔法でいつも通りの日常で、村から出ないよう暗示をかけてある。眠らせると皆寝てたらおかしいよね、夜でもないのに。
分身達よ、楽しんで自分のスキルを磨いてくれ。
俺は一人道の真ん中で倒れている。踏もうとするか止まるか。こいつらは止まらないと見た。来た来た。
「何だあれは?」
「行き倒れか。気にするな。」
パカラパカラパカラパカラ。
やはり止まる気配無しなのでギリギリで
「ストーンウォール」。
最初の騎士が馬ごと空に吹っ飛んだ。騎士は急に止まれない。左右によけた騎士は、分身達にバラバラにされている。ストーンウォールを解除してみると、潰された騎士たちが呻いている。
一番遠くにいた見分役の暗殺者と騎士の首が飛んだ。分身が真後ろにいたのに全く気づかなかったとは、隠形能力上がったな。騎士達も皆レベルは70はあるから、かなりいいのだと思う。冒険者で言えばBランク。呻いている騎士は後で済ますとして、足に力を入れて飛び出した。身体強化は常にかかっている。目の前の騎士の首を刎ね、右に展開しそのまま隣で構えている騎士の手首を飛ばす。
馬に乗っていても、馬の突進力はもう使えない。上からの方が力が入るとはいえ、スピードについてこれないので足を切り落として回る。試しにニードルに腐食毒を付与して放ってみた。前にいた5人に命中、狂ったように悶えて死んでいった。
さて、最初は約100人だった。もう残りは20人。再度索敵。限界距離で調べると、更に離れた街の前に一人と街の中に3人いる、これもお願いします。分身が二人向かった。さて、俺がよそ見している間に一人になったな。
「貴方が指揮官ですか?」
「お前は誰だ。」
「私は行き倒れになっていた旅人ですよ。見ませんでしたか?私は道に倒れていたんですよ。そして世の中をはかなんでたんですよ。ひもじくて。喉も乾いて。倒れていたんですよ。」
「何故われらに敵対する?」
「貴方たちが私を踏み殺そうとしたからですよ。何か間違っていますか?」
「我々は聖王国の兵である。お前は陛下に歯向かった。処刑されよ。」
「嫌ですね。私を殺そうとした人々に私は復讐することにしました。今生きる目的ができましたよ。今の話を聞いていると、王様が私を殺そうとしたわけですね。王様に復讐しましょう。」
「そんなことが許されるわけがない。」
「何故?」
「王様はこの国を治める者だからだ。」
「だから何故殺してはいけないと?」
「王様は尊きお方で皆を幸せにする存在である。」
「私は幸せではないですよ。ここで死んだ人たちも。あんたは幸せか?今?」
「…」
「幸せか?」
「…」
「それが答えだ。王様も幸せじゃないと思うよ。明日には王様に会えるかもな。」
「まて…。」
首が飛んだ。まだ苦しんでいる人がいるな。皆終わらせて吸収しちゃってくれ。今回は血痕まで吸収、全ての存在を消す。馬も吸収。生きている馬はどうしようかな。俺が馬商人として連れて行って、サシントン領主にあげるか、これをつてに塩を売りつけるか。しかしあまりスマイルの顔が売れるのも問題が起こる気がするな。慎重にやらないと。
そっちの3人も済んだ?そこで索敵してもう敵はいない?まだ王都にいる。確かに王都にはいるな。暗殺ギルドは全員処理しよう。今回の首謀者たちは今か今かと結果を待っているだろう。しかしいつまでたっても報告が来ない。
「震えて眠れ。」
一度言ってみたかったんだよな。昔は俺がいつも不安で震えていたよ。
分身を国境に残し、王都に戻る途中でも何人か感知した人間を吸収しながら、王都のスラム街に来た。しかし暗殺ギルドはスラム街以外にはないのか?こっそり会うんだったら場末の飲み屋とかもありそうだが。今回はスラム街。やりやすい。まだ明るいが、感知で見ると中にいるのは4人だけ。周りには誰もいない。隠形がどこまで通用するか。他の分身にはつなぎ役の処理を頼んだ。するりと建物に入る。罠は無い。天井を移動していく。2階で酒飲みながら大声て話している。
「今回の仕事は楽だな。100人ぐらいが討伐組んでたんだろう。逆に俺たちの顔を見られていいのかと思ったぜ。」
「覚える程近くに寄らないだろう。うちは基本的に逃げたやつを始末することと監視だから。」
「たっぷりもらったから。楽で文句はねえよ。」
「ユリーザ大国と戦争にならないのか?」
「そうなれば、もっと儲かるだろ。」
「かもな。」
こいつらもだめだな。ノックしてみる。
コンコン。
「入れ。」
コンコン。
一人が扉に張り付いて音を訊こうとしているので、『13日の金曜日』のように剣を扉越しに刺し込んでみた。頸を切ったようだ。
扉をそうっと開く。
誰も入ってこない。
今度は魔法で小さな竜巻を起こして中に入れる。いまいちだな。ウィンドカッターを足す。
「ぎゃあああ。」
まだ3人生きている。無属性魔法で礫だ。また悲鳴だ。魔法を解除して顔を半分だけ入れて中を覗くとまだ生きている。
「さっきの話ですけど依頼人は誰?」
「な、何だお前。魔法使いか?」
「どうでもいいよ。依頼主は誰?」
「うるせい。お前に」首が飛んだ。
「依頼主は誰?」
「スリージー商会だよ…どうしてそんなことを訊く?」
「俺が国境近くの街道で倒れてたら兵隊や騎士に踏み殺されそうになってな。何もしていないのにだ。一人づつ訊きながら、ここまで来たってわけだ。」
「そんな無理だろう。100人ぐらいいたのに。」
「ああ、いたな。」次の首が飛んだ。
「人を簡単に殺そうとしやがって。スリージー商会の誰に依頼された?」
「アブデインだ。」
「今までにスリージー商会の仕事を受けたか?」
「ああ。」
「いつもアブデインか?」
「ああ。」
「ユリーザ大国に関する依頼を受けたことはあるか?」
「今回以外では無い。」
「そうか」
俺はこいつを一時的に生かすことにした。まあ分身が監視するが。
俺が去った後、こいつはポーションを飲むと早速すべての金をつかんで、アブデインに逢いに行った。
その間に俺は建物を消去した。
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