大図書館
そんなこんなで大図書館に移動した五人。
受付に事情を話して館長と交渉することになった。
館長を待っている間、大和がそわそわしだした。
どうしたんだろう。
大和は図書館であることを憚ってか、いつもより小さな声で
「なんか空気が重くないですか?」
と訊いてきた。
俺は納得して質問に答えた。
「ああ。図書館でゴザルからな」
「ん? 図書館だからとは?」
「いっぱい本があるでゴザろう?」
「はい」
「本って白い紙に黒い字が書かれたものが束になっているでゴザろうが」
「そうですね」
「そういうことでゴザルよ」
「ん? ……あ、そういうことか。そういえば白と黒って魔力が込もりやすいんでしたっけ」
「その通りでゴザル。本というものは、ほっといても魔力が込もる。図書館という場所は大量の本が一か所に集まっているのだから、普通魔力に溢れているものでゴザル。この大図書館は蔵書量が半端じゃないから、特にすごいでゴザルな。確かに空気が重く感じるほど魔力で満たされているでゴザル」
「なるほど~。だったら最初からそう言ってくださいよ。図書館だから、とか言われて分かるわけないじゃないですか」
「察する力を身につけることでゴザルな」
悪ふざけで言ったことに天姉が同意した。
「その通りだってんでい。大和は察する力が足りないってんでい」
「そうですかねー」
「私は大和に餅食べる? って訊く時、色んな意味を込めてるってんでい」
「そうだったんですか。それは気がつきませんでした」
「餅食べるってんでい? ……今のは?」
「んー。分かりません」
「犬と猫どっちが好きって意味だってんでい」
「分かるわけありませんね」
「次! 餅食べるってんでい?」
「んー。分かりません」
「館長さんが来たって意味だってんでい」
天姉の言う通り足音が近づいてきたため振り返ると、爽やかな微笑みを浮かべた老爺がいた。
「お初にお目にかかります勇者御一行様。私はここの館長を務めさせていただいております、エレジデンと申します。あ、でもあなた方の場合は皆様勇者なのでしたか。勇者御一行様では少しおかしいかもしれませんね。どう御呼びすればよろしいでしょうか」
「さあ。勇者カルテットでええんちゃう?」
「承知しました。では勇者カルテット様」
「俺は数に入らないんですねわかります」
「あ、そういや大和も勇者になるんか。ごめん素で忘れてた」
「いいですよ。どうせ俺なんてお尋ね者勇者ですし」
「拗ねないでよ。じゃあ勇者クインテットにしよう」
「では勇者クインテット様。ご用件は魔法書だと伺っておりますが、お間違いないでしょうか?」
「はい。あの……そんなに硬い感じの敬語使わなくていいですよ。余計なお世話かもしれませんけど、あなた敬語得意じゃないでしょう?」
おー。
俺も思ってたけど、直接言うのか。
恭介らしい。
「分かります? いや~勇者様相手なんでちゃんとした敬語とか使った方がいいのかなーなんて思ってたんですけど、私敬語使うの苦手なんですよねー。じゃあこんな感じで話します」
「はい」
「ではまずは場所を移しましょうか」
エレジデンに案内されたのは館長室。
デカいソファーに座らされた。
机を挟んで向かい側のソファーにエレジデンも座った。
「お菓子なんて気の利いたもんはありませんけど、とりあえずどうぞ」
エレジデンは人数分のお茶を机の上に置いた。
「早速なんですけど、今回の訪問の目的は反魔の書ですか?」
少し眉間にしわを寄せて訊いてきた。
エレジデンからしてみれば一度断っていることだ。
懲りずにまた交渉を持ち掛けてきて心底面倒なのだろう。
だが違う。
俺たちの予定は変わった。
反魔の書は昨晩のうちにげんじーたちが盗み出しているはずだ。
エレジデン、というかこの大図書館全体の様子を見るに、盗まれたことにはまだ気がついていないのだろうが。
当然反魔の書が盗まれていることなどエレジデンに悟らせてはならない。
恭介が答えた。
「違います。反魔の書については諦めました。今日は他の魔法書の使用許可を貰いに来たんです」
「ああそうでしたか。それなら良かったです。あの本の話ならまた断らなければならないところでしたからね」
エレジデンは警戒を解いたように表情を柔らかくした。
「じゃあ他の魔法書については許可してもらえるんでゴザルか?」
「あの本以外にも許可できないものはありますけど、まぁ実際に見てみましょうかね」
そう言ってエレジデンは立ち上がった。
そして部屋の鍵を閉めた後、壁に手を当てて魔力を込めた。
すると手を当てていたところがぬるりと変化し扉になった。
「重要な魔法書は地下で管理してるんですよ。では行きましょうか」
エレジデンは扉を開けた。
扉の先には螺旋階段があり、それを降りた先には結構な広さの空間があった。
ちょうど大和の修行の時に使う、日向が魔法で作った空間くらいの広さだ。
壁の本棚にはびっしりと隙間なく本が並べられている。
よく見ると奥の方に銀行の金庫みたいな感じの頑丈そうな扉があった。
俺がそれを見ていることに気がついたエレジデンは
「あれの中に反魔の書を保管しているんですよ」
と説明した。
あの中にはもう反魔の書はないはずだ。
パッと見た感じ扉にはなんの損傷もない。
げんじーたちは上手いこと盗み出したんだな。
心の中で流石先生の師匠だなぁと感心したが、当然そんなことはおくびにも出さない。
「なるほどでゴザル」
「あの、状況は大体把握しているつもりなんですけど、あなたたちは最終的には小野寺桜澄と戦うことになっていて、そのためにここにある魔法書が必要なんですよね?」
「せやで」
「あの化け物と戦うつもりなんでしたらやはりここにある中でも最上のものでないと駄目ですよね」
「まぁそうでゴザルな。ってか先生のこと知ってるんでゴザルか?」
「直接会ったことがあるわけではないんですけど、小野寺桜澄に滅ぼされた国の跡地に行ったことがあるんです」
「なるほどな。酷いもんやったやろ?」
「ええ。あの国は決して弱くなかった。魔族が世界に誕生したばかりの頃、国の近くにゲートが出現したのにも関わらず長年魔族の侵攻に耐え、結局は神に結界で保護される対象に選ばれて生き残った国です。弱いわけがない。それを小野寺桜澄は一人で滅ぼした。国の跡地は酷いものでしたよ。どこを見ても隕石が降り注いだのかと思うくらいクレーターだらけでした」
「あん時はマジでやばかったってんでい」
「話を戻しますけど、あなたたちが必要としているようなレベルの魔法書は私程度の権限でどうこうできるものじゃないので、国の方に使用許可を申請しないといけないんです」
「そうですか」
「問答無用で却下されるのもありますけどそんなのは反魔の書くらいで、他のは交渉次第でどうにかなるかもしれないんですよ。なので今からあなたたちには必要な本を選んでもらって、それを私が上に交渉するって流れになるんですけど、そうなったら最低でも三日くらいかかると思います。それでもいいですか?」
「はい。よろしくお願いします」
「なるべく早くしてもらえると助かるわ」
「もちろんです。では、あちらの本棚にあるものからお選びください」
「は~い」
天姉が気の抜けた返事をした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます