第18話・魔王様の好きなモノ

Side:天橋翔


 あちこち買い物をしたせいか、荷物が多い。コインロッカーに荷物を預けて、家電量販店に来ている。


 まだ電車は乗せていないがバスは乗せた。驚くかなと思ったが、あちらにも乗り物はあったことで思った以上に驚かなかったな。


「凄いわね」


 家電量販店に一番喜んでいるのは、なんとノクティアだった。明らかに洋服の時と顔つきが違う。ウチにある電化製品にも興味を示して分解したいと言っていたんだよなぁ。さすがに止めたけど。


 ひとりでフラフラと家電売り場を歩き出してしまった。


「カケル、あれを見て!」


 追いかけようとした時、フィーリアの少し驚いたような声に振り替えると、テレビ売り場がある。流れているのは動画投稿サイトだろう。


「おいおい……」


 その映像に、オレたちはすぐに近寄って見入る。


 先日、オレが戦ったレッサーゴブリンと粘液状の魔物であるスライムに、銃を撃つ様子が流れているんだ。


 場所はダンジョン内だろう。ただし、こちらは洞窟型のようだ。翻訳のマジックアイテムがあるため話す内容は分かるが、言葉は日本語ではない。英語を話しているので、恐らく英語圏のどこかだろう。


 撮影の様子も素人だ。カメラのアングルやブレなどから見るに動画投稿サイトの投稿者だと思う。


「最近のCGはリアルだなぁ」


「そこらの映画より凄いじゃん」


 近くで偶然見ていた若いカップルが騒ぐほどリアルだ。当然だな。おそらく実際の映像なんだから。


「あれ……?」


「おい、最後まで見せろよ」


 どうなっているんだと見ていると、突然動画が止まり運営により規約違反で削除されましたという画面に変わった。


 若いカップルは不満げに離れていくが……。


「あれって、あれだよな?」


「ええ、間違いないわ」


 フィーリアは確信を持っている。先ほどの映像がダンジョンだと。プリーチァとサンクティーナも同じ意見らしい。


「やはり他にもあるのでしょうね」


「なぜ、誰も知らないのでしょう?」


「隠していると見たほうが自然ですわ。為政者とはそんなものです」


 プリーチァの言う通りだ。サンクティーナはダンジョンがあるにもかかわらず知らない不自然さに疑問を感じているが、隠しているとみて間違いない。


 動画配信サイトが消したとなると、国際社会レベルで隠蔽していると可能性が高いか?


 まてよ。逆にどこかの国なり勢力が、少しずつ情報を小出しにして反応を見ている可能性もあるか? 決めつけるのは時期尚早だな。


「買い物に戻ろうか」


 しばし考え込んでしまったが、今はダンジョンよりもみんなの生活に必要なものを買わないと。ここにはスマホを買いに来たんだ。


 あと一回りして、必要な家電とかもないか確かめないと。ほんと、彼女たちになにが必要なのか、オレだけだと分からないんだよね。


 そういや、ノクティアはどこ行った?


 こういう話に加わっていそうな彼女がいない。みんなで店内を探していると、店員を連れて家電のことをあれこれと聞いていた。


「なるほど、そんな機能があるのね」


「ええ、近頃のものは非常に高性能になっております」


 なんか、爆買いの外国人みたいな扱いを受けてないか? 楽しそうにあれこれと聞くノクティアに対して店員が売り込みをかけている。


「カケル、これ凄いわ。この値段でインテリジェンスがある道具が買えるなんて……」


 見ていたのは冷蔵庫。いわゆるスマート家電だろう。インテリジェンスと言うと大げさだが、ノクティアも日本人には見えないからなぁ。外国人として見ると驚く人も珍しくないのだろう。店員も特に気にしていない。


「あー、そうだな。でもウチの冷蔵庫はまだ使えるから……」


「そう……」


 ノクティアはあからさまに残念そうだ。こんな人だっけ?


「じゃあ、あれは? 見るだけならいいわよね?」


「いや、今日はスマホを見に来たんだし。先にあっち見ようか」


 うん、この調子だと店内の家電をすべて把握するまで知りたがるな。プリーチァとフィーリアに視線を向けると、ふたりはノクティアが寄り道しないように両側に付いて歩き出した。


「あんな人なんですね」


 サンクティーナはポカーンとしている。達観しているというか、すべて見透かしているような雰囲気だったからなぁ。


 オレも正直、驚いている。


「考えてみると、オレたちに本音を見せるほうがおかしいんだよなぁ。ノクティアの場合」


 彼女のことは、未だによく分からない。


 はっきりしているのは魔王を辞めようとしていたこと。こちらの世界で生きるつもりであること。このくらいだろうか?


 本音と嘘、真実と偽り、それらを常に曖昧にしている。本音を言ったかと思うと嘘だったり冗談だといったり、本来の彼女を周囲に悟らせないようにしているのではと思う節すらある。


「カケル、これは貴方のスマホというものよね? どう違うの?」


 スマホ売り場に来ると、再びノクティアの目が輝いた。ただ、違いを聞かれても困る。一応、パンフレットがあるから、それを見て説明するけど。


 ちなみに機械類が電気で動いていることは、すでに学習済みだ。ウチにある家電を理解して一番使いこなしているのは彼女だからな。


 次から次へと問われる質問に、店員さんは近寄ろうとして離れていった気がする。意外と細かいこと知らないからなぁ。スマホ売り場の店員さん。


 プリーチァたちに至っては、なんでもいいんじゃないのかと言いたげだしね。


「なるほど……素晴らしいわ!」


 電話とインターネット、それと電子決済くらいしか使わないだろうし、とりあえず安いやつでいいかと思ったんだけど。ノクティアは高性能なスマホが欲しいみたい。


「あの、ノクティア。私たちはカケルの世話になっている身ですから……」


「あっ、うん。大丈夫よ。ちゃんと考えているから」


 思わずフィーリアが止めてくれた。ただ、そういう割に高性能なものばかり触って確かめている。


「みんなはどうする? どれか気に入ったのあるなら、考えるけど……」


「私はなんでも……」


「はい。私も……、使えれば十分かと」


 念のためプリーチァたちにも意見を聞くが、プリーチァとサンクティーナはそこまで興味がないらしい。便利そうだし使えればいいという感じか。無論、遠慮もあると思うが。


「あの……、こちらのミドルクラスならお安くなっておりますよ。型落ちですが、性能も悪くありません。今なら液晶フィルムもお付けいたします」


 どうしようかなと思っていると、離れたところから見ていた店員さんが助け舟を出してくれた。


「そうね。それならいいと思うわ」


 うん、ノクティアがなんとか納得する機種だったようだ。契約はオレの名義にして買おうか。あとはノクティアに他の家電を見せる前に帰ろう。


 金貨や宝石を出して、売ってほしいと言い出しそうで怖い。


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