第13話・日常の裏にあるモノ
Side:天橋翔
プリーチァたちは、ごはんと味噌汁の夕食にも慣れてくれたようだ。この様子だと半分くらいは和食でも大丈夫かもしれない。
「やっぱりダンジョンなのか」
夕食を囲み、今日あったことを話しているが、あの地下空間がダンジョンでほぼ確定だと言われてオレは戸惑っている。
やっと戻った日常にダンジョンとはね。ただ、幸いなのは、あれがオレやみんなとほぼ無関係なことか。オレたちが原因でなくてよかった。
「あちらの世界と同じものかは分からないわ。ただ、基礎的な仕組みはほぼ同じと考えていいと思う。現段階の推測を交えてだけど」
元魔王であるノクティアが言う以上、大きな間違いはないだろう。こちらに来てから聞いたが、彼女はもともと魔法やマジックアイテムの研究者だったらしい。
そもそもこの世界にも魔力があるという事実もある。魔法なんて存在しないと思っていたけど……。実は魔法があり秘匿されていたなんて可能性すらある。
「カケル、あのダンジョンはどうなるの?」
少し考えているとプリーチァに問われた。
「ああ、閉鎖して調査するらしい。誰も地下の存在を知らかった学校も慌てていたよ。ダンジョン、放置すると駄目なんだっけ?」
「ケースバイケースね。放置しても問題ないダンジョンが大半よ。むしろダンジョンから産出する素材や品物を目当てに管理しているもの。ノクティアの見立てでは、あそこは現状で危険はないそうよ」
プリーチァの言葉に安堵する。とすると、やはりこの件は深入りしないほうがいいな。
「カケル、彼女たちを帰すためにもダンジョンの調査がしたいわ」
一件落着かと安堵しようとしていた矢先に、そのノクティアが発した一言からプリーチァたちも驚き考え始めた。
確かに存在しないはずのダンジョンは、プリーチァたちを帰す可能性に繋がるのか。
「あそこは目立つぞ。休日も学校には誰かしらいる」
「別にあそこじゃなくてもいいわ。ダンジョンが密かにあるとすると、こちらの世界の調査をするべきだもの。神々と通じる施設やダンジョンが出現しそうな場所を探すのでもいい」
神々と通じる施設? 宗教施設か? 宗教に神秘の力なんて……ないと言い切れなくなったのか。
「分かった。考えておく」
なにがなんだか訳が分からない。ただ、調査が必要なのはオレもそう思う。オレたちが個人でやっていいのか迷うところもあるが。
「少し外出しようか? フィーリア以外はまだ外出してないんだろ?」
夕食後、オレはみんなを外に誘った。
やはり家にずっといると気が滅入るだろうし、少しずつ外に慣れたほうがいいと思うんだ。さっきフィーリアが思った以上に上手くやったこともある。大きな問題は起きないだろうからな。
「ええ、そうですけど……」
「じゃ、決まりだ。こっちだとこの時間でもやっている店とかあるんだ。少し案内するよ」
プリーチァは少し遠慮がちだが、ここは押し切った。
一刻も早く帰りたいのかもしれないが、ノクティアの口ぶりだと今日明日に帰れるわけじゃないと思う。少し気晴らしをしたほうがいい。
「うわぁ……」
自宅から出て幹線道路までくると、サンクティーナが驚きの声を上げた。片道二車線の幹線道路だ。時間的に少し遅い帰宅時間でもあり、行き交う車の量も多い。
ヘッドライトに照らされる町を見て、彼女たちはなにを思うのだろう?
さて、どこに行こうか。洋服が買えるところがいいが、そろそろ閉店時間だ。大型書店はまだやっているな。それともファミレスがいいか?
うん、ファミレスにしよう。ご飯食べたばかりだけど、デザートに甘い物を食べるのがいいな。お酒もある。オレはあっちでも飲まなかったけど、みんなは飲んでいたはずだ。
Side:霞が関
時計の針は午後八時を回ろうとしている。数人の官僚が疲れた顔で仕事を終えて帰ろうとしていたその時……、電話が鳴った。
男たちは露骨に嫌そうな顔をした。経験上、この時間の電話はいいことがまずない。すでに数日帰宅しておらず、そろそろ帰りたいところなのだ。
「……はい」
仕方なくひとりの男が電話を取ると、警察庁からだった。翔たちの学校の情報がこの時間に報告が入った。
「分かりました。すぐに調査をします」
男が電話を切ると、帰り支度をしていた者たちが諦めたようにデスクに戻った。
「九番目と思わしきダンジョンが発見された」
「場所は?」
「私立高校の敷地だ」
「おいおい、騒動になったのか!?」
「いや、数人の学生が巻き込まれたようだが、教師が救出した。ただし、学生のひとりが魔物と交戦している。幸いなことに追い払っただけのようだがな」
男たちはすぐに各省庁にある対策室に連絡を入れる。調査以外にもマスコミ対策や関係者への口止めなど、やるべきことは多い。
お役所仕事をしていては間に合わなくなることもあるため、明日の朝一で動く必要があった。
よく分からないものをよく分からないまま秘匿して管理する。その難しさは想像を絶するものがある。
「交戦した学生はどうする? 念のため検査に回すか?」
「いや、不要だろう。自衛隊の経過観察だとむしろメリットが多い。それに海外の研究だと、例の身体能力向上は、交戦した魔物のとどめを刺さないと意味がないということだ。俗に言う経験値が得られないんだろう。念のため交戦経験者リストには入れておいたほうがいいだろうがな」
「しかし、私立学校の敷地内とはまた面倒な……」
「すぐに学校法人の洗い出しと関係者のリストアップを急げ」
高度に情報化した現代社会において、この規模の問題を秘匿するのは簡単ではない。場合によっては裏金や脅迫紛いの方法をとっても口を封じている国が多い。
幸い、同調圧力が強く国としての信頼がある日本ではそこまで過激なことをしなくても抑え込めているが。今のところは。
ただ、これでも朝までには仕事を終えられる。願わくは数時間でいい、仮眠がしたい。そんな男たちだが、彼らの願いを絶つ電話が鳴った。
「はい、超常現象対策室。…………分かりました」
電話を取った男の顔色が悪くなる。
「今度はなんだ? もう驚かんぞ」
「……どこかのダンジョンがインターネットに動画として流れているそうだ。動画の内容から日本ではないらしいが……」
「すぐ削除されるだろ? 主立ったSNSと動画投稿サイトとは話が付いているはずだ」
今までもあったことだ。あらゆる権力が、そのつど上手く火消ししている。男たちはこの手のトラブルに慣れていた。
「今回は削除を上回る拡散がされているらしい。念のため総理に報告と、それと拡散防止の対策をしておこう」
彼らの徹夜が決まった瞬間であった。
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