第12話・日常に潜む謎
Side:ノクティア
遠見の魔法を切ると、プリーチァとサンクティーナがホッとした顔をした。
私とフィーリアが正体不明の魔力の高まりを感じたことから、ダンジョンの出現から現在まで、ずっとカケルを見守っていたのよ。
「なぜ、この世界にダンジョンが?」
すぐに助けに行こうとしたプリーチァが疲れた様子でソファーに身を委ねた。見ているだけというのは、なかなか難しいものよね。まして常に前線に立っていた者からすると。
とはいえ気になるのは、あのダンジョン。確かにこの世界に魔物はいないとカケルは言った。それにウソはないと思うわ。ただ……。
「あの……、私たちのせいでしょうか?」
「結論を出すのは早計ね。ただ、ひとつだけ。この世界の魔力濃度でダンジョンを作るなんてまず無理よ。私も出来ないわ」
サンクティーナの考えていることは多分違う。
そもそもダンジョンにも種類があり、大まかに分けて自然発生型と創造型がある。創造型はエルフや魔族が自然発生型ダンジョンを模して造るもの。ほとんどは自身が引きこもるために造るだけ。
まだなんとも言えないけど、遠見の魔法で見た感じだと自然発生型ダンジョンでしょうね。
「すでにあったものだと?」
「遺跡型のランク一のダンジョンといったところね。ダンジョンが生成されるには自然発生型でも創造型でも最低でも年単位の時がいるわ。この世界の魔力濃度だともっとかかるかもしれない。私たちがこの世界に来て数日、もっと言うならばカケルがあの世界に召喚されたのも同じ日。私たちの影響だとするには少し無理があるわ」
世界とは上手く出来ている。急激な変化で滅ばぬように。この世界は知らないけど、高度な文明を考慮するとこの手の変化は少ないのではと推測出来る。
こちらの魔法技術が高ければまた違ったけど。この魔力濃度だと魔法技術があちらより優れているとは思えない。
「調査したいところね。ダンジョン」
この世界は、カケルが知るよりもはるかに複雑なのかもしれない。勇者の世界ですもの、当然かもしれないけど。
ただ、あれは彼女たちをあちらに帰す鍵になるのかもしれないわ。
ちょっと面白くなってきたわね。勇者とはなんなのか、魔王とはなんなのか。あちらの世界で有史以来解き明かされない謎が解明出来るかもしれない。
Side:天橋翔
外に出ると、学校には警察と消防が駆け付けていて大騒ぎになっていた。
地下に落ちたのはオレたちだけらしく、先生と共にオレたちが姿を見せると一安心という空気が広がる。
出てきたところは、まるで地下室に下りるような階段があるのみ。警察や消防の人は、割れ目が出来た個所も含めて当面立ち入り禁止にすると先生たちと話している。
「天橋君、さっきのアレ。夢じゃないわよね?」
とりあえず体操着から着替えるために更衣室に向かおうとすると、堀井さんに声を掛けられた。
「夢じゃないとは思うけど……」
どう話すべきか? レッサーゴブリンに襲われたというのか? 訳の分からない魔物に襲われたというべきか?
あれは間違いなくレッサーゴブリンだった。なんでこの世界にいるんだ?
北村と相沢さんは素直にあったことを警察に言うだろうな。堀井さんは少し迷ったんだと思う。魔物がいたなんて言うと正気を疑われかねない。
「まあ、いいわ。さっきはありがとう」
少し考え始めたオレだが、姿勢を正した堀井さんにお礼を言われると、ひとまずこれで良かったと思うことにした。
「あんまり気にしなくていいよ。つい体が動いただけだから」
今後は目立つことはしないほうがいいのかもしれない。今更ながらそう思う。ただ、あっちの世界で勇者をしていた癖だろう。つい動いてしまった。
その後、オレたちは場所を変えて事情を聞かれ、北村と相沢さんはおかしなものに襲われたと、見たものをそのまま先生と警察に言っていた。
正直、先生たちも警察も真摯に聞いてくれていたが、パニックになったのだろうとか、頭を打ったのかもしれないと心配されたと思う。
事情聴取のあと念のためにと病院での検査を受けて学校に戻ったのは、すでに日が西に傾いた頃だった。
学校には堀井さんたちの家族が来ていた。一連の説明を受けていたらしい。
笑顔で家族と再会する堀井さんと相沢さん、少し照れ臭そうにしている北村。まあ、いろいろあったけど、助けて良かったなと思う。
オレは来てくれる家族もいない。じいちゃんとばあちゃんが生きていたら、心配したんだろうなと思う。
考えても仕方ないことだ。先生に確認して帰ろうかと思い見渡して驚いた。
「カケル、お疲れ様」
「フィーリア? なんで?」
フィーリアが担任の先生とにこやかに話をしている。ちょっと理解出来ない。なにがあったんだ?
「ああ、すまん。天橋の緊急連絡先に電話したらフィーリアさんが出てな。事情を話したらきてくれたんだ」
ああ、オレの連絡先は今の家だからな。ばあちゃんがいるはずだったし。先生が連絡してくれたのか。
というか、大丈夫なのか?
「天橋のところに、祖父母の縁で長期滞在のホームステイしている人がいるなんてなぁ。育ての親であるお祖母さんが亡くなったと聞いていたから心配していたんだが……」
マジックアイテムのおかげか、フィーリアの話術のおかげか。両方かな。上手いこと現状を説明していたみたいだ。
ひとまず一件落着かな……?
「天橋、お前……なんなんだよ! その美女は!!」
と思ったら、北村が信じられないという顔でオレのところに迫ってきた。おかげで堀井さんと相沢さんもこっちに注目してしまった。
あれ? マジックアイテムの効果は? 疑われたり違和感を持たれたりしない魔法じゃないのか? 思わずフィーリアを見るも、苦笑いを浮かべている。
「初めまして、フィーリアよ。先週の土曜から天橋さんの家でホームステイしているの。よろしくね」
「えっ、あっはい! よろしくお願いします!!」
明らかにデレデレとする北村で気付いた。周りが彼女たちを認識することは変わりないのだと。存在に違和感を持たず疑わないが、好意を持つことなどは普通にあるのか。
しかし、フィーリア。対人スキル高いな。見知らぬ異世界に来て初めて外に出たんだろうに。先生たちと上手くコミュニケーションをかわしていたし。
「さて、帰りましょう。カケル」
「えっ、あ……うん」
先生たちや堀井さんたちの両親に頭を下げたフィーリアに連れられて、オレは帰ることになった。
校門を出ると一息つく。
「災難だったわね。カケル」
「まあな。いろいろと話したいことがある」
「帰ってからにしましょう」
本当は今日、彼女たちのスマホを探しにいこうかと思ったんだけど……明日でいいか。
夕食の食材を買って帰ろう。
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