紙の本でもなく、「Web小説」でもなく……。

 ここまで長々と書いてきて、現在、何が問題なのか明らかになったと思います。


 それは、私の考えでは、「誤配」。今の時代、これをいかになくすか、ということが求められているのです。


 かつて、紙の本では、新人賞という狭き門を設けました。それによって、現在の「Web小説」が抱えているような、一定水準以下の作品を排除し、そのクオリティを担保していました。


 そして、まだインターネットがなかった時代、それらは、大量の「誤配」を生みました。たとえば、村上春樹の作品を憎悪するような人の中には、そういう間違って彼の本を受け取ってしまった人もいるわけです。


 でも、出版社はそのような「誤配」があったからこそ、潤うことができていたわけです。


「Web小説」はその逆……まあ、もういいでしょう。前にも繰り返した通りです。


 これらの問題点は、みな「誤配」が影響しています。人間は、損をしたくないと思っています。書籍なら、今はもう全然安くもないですし、読んでみて面白くなかった、お金を返してほしい、という事態には誰だってしたくないわけです。


 それで実際にネットで、ある程度情報を仕入れることができるようになると、「誤配」が起こりにくくなるので、出版社の体力が削られ、作家の立場は危うくなるわけです。


 今私たちが求めていることは、あまりにも多すぎる情報の中から、自分の求める情報を選び出すことです。


 そして、残念ながら、それは現状のカクヨムを含むすべての「Web小説」には期待できません。


 自ら選ぶしかない。


 でもそれは、逆に言えば、ここに選択肢を増やせれば、もっとたくさんの人、本当はあなたの作品の読者になってくれたはずの人も、呼び込める可能性があるということです。


 そのためには、何ができるでしょうか。個人としては、自力で辛抱強く探し、発信することなどがありますが、それ以外では、たとえば、ユーザー同士がビブリオバトルのように、互いに「Web小説」で埋もれてしまった作品を持ち合って語り合う場も有効かもしれません。


 でもそれらは、一つの場としては有効かもしれないけれど、大きな運動にまではならないと思います。


 結局のところ、ほとんどの人、ライトユーザーの方はそういったものには参加しないわけですから、となると、やはり最大の問題は、システムの問題、ということになるでしょう。


 今、読者にも作者にも、作品と人を繋ぐシステムが求められています。


 そして、もしかしたら、そのためにAIが役に立ってくれるかもしれません。AIは、大量の情報を選別するのが得意です。人間のそれより、はるかに高速に実行できる。AIの選書システムは(最近横浜市立図書館でそのようなサービスを開始したというニュースがありましたね)、まだまだ黎明期ですが、おそらく、これからも一過性のブームには終わらずに、どんどん発達していくことでしょう。


 百パーセントではなくとも、ある程度、20%でも30%でも、あなたの嗜好に合ったものを予測できればいいわけです。それが実現できれば「Web小説」は、より多様な読者、作者を抱え込めるかもしれない。


 そのような未来が来た時、作家の在り方も、本の在り方、「Web小説」の在り方も変わるはずです。作家はまず、そういったシステムによって出会ったファンたち、これから出会うであろうファンたちのために書き、書籍は、従来のような、不特定多数に向けて出すものではなく、「Web小説」などで、そのような作家に出会ったファンのための、ファンアイテムになるでしょう。


「Web小説」もまた、「なろう系」などの「テンプレ」だけでなく、もっと多様な作品が注目を浴びることができる場になるでしょう。


 でも、こうした私の未来図は、絵空事かもしれません。現状こそがすべてだと考え、「書籍化」を目指し、「テンプレ」作品を書くこと、環境の覇者を目指し、「Web小説」をハックしていくことも一つの戦略だと思います。


 それとは別に、後に評価されること、環境が変わる未来を信じて(つまりカクヨムなどの運営も、より多くの読者を獲得するためにそのようなシステムを実装すると信じて)、独自の小説を書く、そうして新しいまだ見ぬ読者に読み継がれていくことを期待するのもまた、一つの生き方です。


 まあ、私個人としては、「テンプレ」の作品を書く喜びを見出せないために、道は一つしかないのですが……。


 あなたは、どちらを選びますか?

 


 

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