第38話 穴があったら入りたい

「――オラァッ!!」

 ――どこか懐かしい声が聴こえてきて、獅子が空中で跳ねた。

 だが、そのまま一回転して着地する。

 何が起きたのかわからず、キマイラを見ていると、

「ぼーっとしてんじゃねぇ、次が来るぞ!」

 と、怒鳴られた。


 声のする方を見たら、肩で息をし、汗だくになっているエドウィンが立っていた。

「…………マジかよ」


 お前、マジでセイバーズじゃねーか! カッコよすぎるだろ!


 ……って思ったが、キマイラのうなり声が聴こえて我に返り、

「聖なる檻よ、光る加護よ、すべての災いから彼の者を遠ざけ、降りかかる害悪から守りたまえ――結界構築!」

 と、可能な限り素早く唱え、エドウィンに向けて手をかざした。

 結界が編み上げられる。

 エドウィンは二度目の遠投。キマイラは避け、今度は蛇が毒液を吐いてきた!

 だが、結界が無事編みあがり、毒液を防ぐ。

「エドウィン! これを飲め!」

 俺は、最後の特級体力回復薬を投げ渡す。

 エドウィンはキャッチし、すぐさま開けて一気にあおる。

「……おっしゃあ! 復活したぜ!」

 ホッとしつつ、俺もエドウィンが引きつけてくれている間に結界魔法を詠唱。なんとか体裁を立て直した。


「……助かった! 俺一人じゃ無理だった!」

「たりめーだろ! チームで倒すもんだろうが!」

 そう言い返され、泣きそうになった。

 ぐっと堪えてキマイラを睨む。


「口から火炎を吐く。シールド魔法なら完全に防げるが、今かけているのは結界魔法だ。どのくらいの効力かわからないので、避けられるなら避けてくれ。素早さが半端なくて俺は攻撃をほとんど当てられなかった」

 俺は早口でエドウィンに告げた。


「つまり、どうすりゃいいんだよ!?」

 俺の説明にエドウィンがキレる。

「俺が引きつけるから、氷結槍を投げまくってくれ!」

「最初ッからそう言えや!!」


 すまん、焦ってたのもあるけど、そこまでバカだと思ってなかったんだ。

 キマイラの注意がエドウィンに向きそうになると、氷結魔法を射線をふさぐように広範囲でくり出す。


 エドウィンの氷結槍は強力だ。

 躱されたとしても、刺さった箇所が凍りつく。

 俺も氷結魔法で地面を凍らせていたから、だいぶ火事は収まってきた。焼死は免れたようだ。

 吐く息が白くなるほどに、辺り一面凍りついてきている。


 キマイラは、蛇部分がグッタリとしていて、山羊部分の後ろ足は平気そうだが、獅子部分の前足はしきりに足踏みしている。


 俺の氷結魔法はエドウィンほど派手に凍らせないが、持続ダメージで素足のまま立っていたら間違いなく凍りつく。山羊部分は氷結耐性があるのかもしれない。

 だが、全体的に動きが悪くなってきている。一人で戦っていたときはなんだったんだというくらいに簡単に追いつめた。


 誰だ? 一人の方が連携しなくて済むから楽に倒せるって言ってた奴は。俺だ!


「穴があったら入りたい!」

 俺が叫んだら、エドウィンが叫び返した。

「穴に入ってどーする気だよ!? 隠れてそっから攻撃すんのか!?」

 ホントバカだ! たとえだよ!

「それもいいだろうな! いいかげん仕留めたい!」

 疲れてきて、ハイになってきた。


 そして、『穴があったら入りたい』戦法を、マジで繰り出すことになった。

 さっき俺が爆発魔法をさんざんやったので、あちこちに穴が空いている。

 そこにエドウィンが潜み、俺が穴に誘導する。


「今だ!」

 エドウィンが飛び出して突き刺す。

「……オラァッ!」

 ハイ避けられましたー! キマイラ、察しがよすぎるだろ!?


 というか、エドウィンのジャンプ力がすごい。高く上昇したよ。

「――シールド!」

 俺は叫び、地面を蹴ってキマイラにぶつかっていった。

 捨て身の、一瞬の足止め。

「エドウィン!」


 エドウィンは、シールドを蹴り、キマイラにぶつかっていく。

「オオオオオオオオッ!!」

 上を見上げ、咆哮しようとした獅子の口に槍を叩き込んだ。

 槍から手を離すと、くるっと体勢を変えて見事着地する。

 キマイラが槍を噛み砕こうとしたのでギョッとしたが、途中で目の光を失い、崩れ落ちた。


 粒子となっていくキマイラを見て、俺は大きく安堵の息を吐いた。

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