第37話 一人でも戦えるのか
出てきたのは、上半身が獅子、下半身山羊、蛇の尾を持つ異形、キマイラだ。
「……ハハ、マジかよ」
脅威度は、メデューサとどっちが上かな。俺としては、素早いこっちの方が脅威なんだけどな。
「すべてを防ぐ盾よ、我が身を守れ!」
シールド魔法を詠唱した。
とたんにキマイラが吠える。
火炎を放射してきた!
間一髪、シールドで防がれる。
「ぐっ!」
シールド魔法は防御が結界魔法より堅いが、押されることがある。
圧力を感じて踏ん張った。
火炎があちこちに飛び散り、木々が燃える。
「……キマイラを倒したとしても、山林火災で焼け死ぬかもな……」
Sランクのあの二人を思い浮かべた。あの二人の働きを、一人でしなくてはならない。
昔だったら、むしろそっちの方がやりやすいと嘯いていただろう。一人でなんでもやった方が、他人と呼吸を合わせて動くよりもよほど上手く動かせる、と。
とんだ思い上がりだよな。一人だってあの二人の動きは真似できない。
つまりは、俺にはSランクの実力がないということだ。
そんなんで父のバディになろうとか、呆れる発言だ。
俺は自惚れていたんだ、ソロで戦えばSランクの実力があると。
だから、幼なじみにチームを解消された。
ユーノは、俺を嵌めて去った。
エドウィンもそのうち去るだろう。お前とはやってられない、一人で戦ってろ、と。
「……なら、一人で戦うさ」
キマイラくらい倒せる。父はもっと強い魔物と戦っているはずだ。自惚れを本物にしてやる。
火炎が終息してきたのを見て、飛び出した。
「氷飛礫よ、触れるすべてを凍らせよ!」
氷結魔法で攻撃するが、キマイラは素早く避けた。
「向こうに有利なフィールドなのがな……」
岩だらけの山林って、身軽で素早い魔物に有利すぎるたろ!
「爆発魔法で辺り一面なぎ払ってやろうかぁ!」
自棄になってきた。
もう、周囲の破壊とか気にしてられない。体力が尽きたら殺られる。
「火炎よ、弾け飛べ!」
爆発魔法を使い始めた。
敵は器用に避ける。
俺は、スノウ様との爆発の違いに訝しんだ。
スノウ様のはもっと小さく、わりに爆発がすさまじかった。俺のは、でかくて炎が派手なわりに爆発はそうでもない。
……スノウ様に聞いておけば良かった。たぶん、このイメージの爆発ではないんだ。
爆発やらキマイラの火炎やらで辺りが燃え始めている。
煙で咳き込んだ。
キマイラは炎に強いが煙はわずらわしいらしく、出来る限り煙の少ないところに移動している。
俺は悔やんだ。
短気を起こして周囲を爆発させたが、凍らせれば良かったのに。
エドウィンの氷結魔法を思い出す。ゴブリンの集落をガチガチに凍らせていた、かなりの威力のあの魔法を。
「焼死と凍死だったら、凍死の方がいいかな」
キマイラがまた吠えた。
俺はシールド魔法で防ぐ。……本当は、結界魔法を使いたい。だがあれは、詠唱が長いのだ。
……あぁ、俺、本当にバカだったな。
一人で戦えるわけがない。
近接戦闘に持ち込みたくても、向こうの方が俊敏さも歩幅も跳躍距離も上で、距離をとられてしまう。
魔法は短い詠唱のものしか使えず、しかも避けられてかすり傷さえ負わせられない。
俺は、戦いにおいては無印なんだ。いろいろな魔法が使えるってだけが取り柄のノーマル。
くやしかった。
ここで負けるのも、一人では勝てないと悟るのも。
思い上がりの鼻っ柱は折れたけど、それをもう今後に活かせないのも。
「永久凍土よ! 前方の敵を凍てつかせよ!」
俺は、地面を走らせるように凍らせる。
とたんに火炎がやんだ。
「やったか……!?」
シールドを解いた俺の眼前に、キマイラが飛びかかっていた。
あ、死んだな。
迫り来る獅子の長い爪をぼんやりと見ながら俺は立ち尽くしていた。
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