第32話 Sランクのセイバーズを目指して
「……いや、エドウィンも冗談ですよ。つか、クロース学長といい、なんでプロポーズしてくんですか……」
俺が呆れつつエドウィンの擁護と苦情を述べたら、キャル鑑定士が照れ笑いした。
「えへへ、ごめんごめん。なんていうか、通過儀礼と言いますか」
「は?」
キャル鑑定士が人差し指を立てて俺にずい、と迫った。
「アイテムハンターって、モテるのよ~。ジェイド君だって、めっちゃモテてたのよ~。それで婚期を逃しちゃうくらい!」
意味がわからない。モテて、なんで婚期を逃すんだ。
俺がキョトンとしていると、
「え、ジミー君は私とクロース君以外に言われてないの!?」
って驚かれた。
「サッパリです。エドウィンは何人かに告白されたって言ってましたけど……」
キャル鑑定士は、「あれれ、私のせいかな?」と、側頭部に指を当てて首を傾げていた。
「いや、エドウィンが変な噂を広めているせいですね!」
と言ったら、キャル鑑定士が合点がいったように手をポンと叩いた。
「ありゃ。じゃあ、ジミー君には言わなくても良かったかな」
って言ったので、理由を聞いた。
「どういうことですか?」
「だから、通過儀礼よ。アイテムハンターは、高給取り確定でなおかつ滅多に取れないレアドロップアイテムを獲ってくるチームなのよ? 女性だって男性だって放っておかないでしょ! 最初こそ、優遇されてるあなたたちは嫉妬の対象になるでしょうけど、よ~く考えたら、顔を覚えてもらったり、心証を良くしておいたり、なんなら付き合った方が得だってわかるじゃない!」
と、エドウィンの推測通りのことを言ってきた。
…………確かに、ヴァルキリーアカデミーの二人も、なんならミーミルアカデミーの二人ですら、俺たちに名乗って覚えられようとしていたな。
チーム交流だからそういうものか、って思ってたけど、思い起こせばそもそもの代表であったユーノたちを歯牙にもかけていなかった。
覚えてすらいないんじゃないか?
「だーかーら、私とかクロース君とか、絶対結婚しないであろう、そして権力持ってる人たちがプロポーズするのよ! 君たちのそのアイテム狙い、ってのが丸わかりの雰囲気で! で、将来あるアイテムハンターに気付かせるの! 『あ、俺たちがアイテムハンターだからされてるんだな』って!」
と、なかなかにショックなことを言われた。
クロース学長はともかく、キャル鑑定士にそうキッパリ『絶対結婚しない』とか言われると、地味にダメージだ。
キャル鑑定士はけっこうかわいいので、エドウィンだって実はまんざらでもなかったと思う。アイツ、照れ隠しが独特だから。
あと、権力持ってるのか……。確かに、学長を君付けで呼んでるもんな。
「そういう勘違いモテ期の通過儀礼なのよ! 調子の良いプロポーズは! あ、エドウィン君に言わないでジミー君に言ったのは、ジミー君の方が真面目だからさ! 他の女の子に告白されたら真面目に受け取っちゃいそうって思って~。まぁ、あとはノリかな!」
「……解説ありがとうございます……」
いろいろと心にくる解説だった。
「で。それはともかく、ありがとう。二人の気持ち、とってもうれしい」
キャル鑑定士がお礼を言って、笑顔で受け取った。
いまだ気絶しているエドウィンは放置だ。
俺は頭を下げながら返した。
「いえ、俺たちも焦って任務を頼んだのが悪いんですから。止められていたのなら、理由を聞くべきでした」
すると、キャル鑑定士は首を横に振る。
「ううん、私が悪いよ。私ってアウズンブラアカデミーの出身だから、ここのやり方知らなくて。普通じゃなかったみたい」
マジかよ! どうりで強い!
鑑定士であの動きとかおかしいだろ、って思ったけどそういうことか!
そして、アウズンブラアカデミーではそれが普通なら、俺たちもそうしてほしい。アウズンブラアカデミーに負けたくない。
「イテテ……一瞬世界が白く見えたぜ……」
エドウィンが復活した。頭をさすりながら起き上がる。
「……ん? どうした?」
こわばった俺の顔を見て首を傾げた。
「……いや、キャル鑑定士はアウズンブラアカデミーの出身らしくてさ。俺たちのこなした任務、アウズンブラアカデミーじゃ当たり前らしいよ」
「あァ?」
エドウィンも火がついたような顔をした。
キャル鑑定士は苦笑している。
「まあまあ、エーギルアカデミーの段階式に学ばせる教育方針も間違ってないし。それに、今一番セイバーズを排出しているのってエーギルアカデミーだから。アウズンブラアカデミーとは違う、ってだけだよー」
宥めているのか煽っているのかわからないキャル鑑定士のセリフだが、俺たちとしては煽られていると受け取った。
「ハッ! アウズンブラアカデミーの連中に出来て俺らに出来ねーワケねーだろ。余裕でこなしてやっから、次からはアウズンブラアカデミー式依頼持ってこいや」
「キャル鑑定士は何も悪くありません。俺たち、寝不足でイライラしていただけで、疲れていたわけではありませんから」
俺たちが口々に述べると、キャル鑑定士がウンウンと頷く。
「そうそう、その意気だよ! 君たちは強くなれる。アイテムハンターって、そりゃあ稀少だけどさ、強くならなけりゃ、そもそもドロップアイテムを出せないわけでー。他のセイバーズと違って数多く倒さないといけないし、『魔物を倒して人々を守る』ってのじゃなく『魔物のレアドロップアイテムを必要な人に届ける』っていうことが重要だから、依頼内容によって多種多様な魔物を長期間滞在しつつ倒さないとならなくなるんだ。ジミー君が収納の魔法をすでに習得しているから、より君たちの価値は上がっているんだけど……。でも、過度の甘やかしはどうかって思うんだ! セイバーズたるもの、魔物を討伐してナンボでしょ!」
クロース学長が、『アイテムハンターの主な依頼がスライムのSドロップ』と言っていたのを思い出した。
……過度の甘やかしの結果、スライム討伐が主になるのか……。
「おう! 見てろよ! そのうちドラゴンのSアイテム納品してやっからなぁ!」
エドウィンの気合いがすごい。
……いや、そうだよな。
それくらいの気概でいきたい。
そうしたら、俺たち【愚者と無精者】が『Sランクのアイテムハンター』ではなく『Sランクのセイバーズ』として認められたのなら、俺は、父とは組まず、エドウィンと続ける。
父に代わって俺たちが、Sランクのセイバーズとしてやっていけばいいのだから。
受付室を出て、俺はエドウィンに向き直った。
「ど、どうしたんだよ?」
いきなりの行動にエドウィンがビビっている。
いやそんな、いじめられっ子みたいな反応をするなよ。
「俺、Sランクのセイバーズを目指す。Sランクのアイテムハンターじゃない、Sランクのセイバーズになりたいんだ」
エドウィンがポカンとした。
が、すぐにニッと笑って拳を突き出してきた。
「たりめーだろ! なるんだったらてっぺん目指すのは当たり前だ! 俺らにかかったら、どんな魔物でもSランクのアイテムに変わる、ってくらいになってやろうぜ!」
……俺はまだ、どうしていいか、どうすればいいかわからない。
ほとんどソロ討伐という状態でSランクのセイバーズの看板を背負っている父、父のバディの代理をしたせいで前夫を亡くした義母、同じく実父を亡くした弟。
俺はすべてを穏便に済ませるため、義母の嫌がらせや罵倒を黙って受け止め、アカデミーでは弟のバディをして弟に尽くし、卒業したらいまだ代理しかいない父のバディになるのが一番だと考えて行動していた。
でも……。
もしも、エドウィンとSランクのセイバーズになれたのなら、それこそ全員を納得させられるんじゃないか?
浅い考えだけど、父にしか倒せないような特級の魔物も討伐できて、さらにSアイテムがドロップするのなら、誰もが俺たちを認めるしかなくなるだろう。
だから、目指したい。
俺だけじゃなく、エドウィンにも目指してほしい。いや、エドウィンは言わずとも目指してるみたいだけどな。
コイツは、絶対に折れないって気がする。
あのシェーンのように、もしもアイテムハンターの才能がなくてSアイテムを出せ、とあの場で言われたら、一万回でも十万回でも敵を倒して出るまでチャレンジしただろう。そんな奴だとわかった。
だから俺も、一緒に目指す。
俺はエドウィンに向かって頷き、エドウィンの拳に拳を合わせた。
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