第18話 キャル鑑定士
十日後、鑑定士がアカデミーに来た。
集会があり、全校生徒の前で紹介されている。
俺たちはすでに昨日、学長室に呼び出されて紹介されていた。
*
「どうも~。鑑定士のキャル・ライグレでーす。よろしく~」
なんというか……。見たことのないタイプだ。
なんで、指を二本立てながら目の横に持ってきたんだろう?
背は低く、俺の胸の下くらいまでしかない。
紺色の髪を前髪とサイド、後ろでまっすぐに切り揃えていた。
エドウィンは動じず、
「あんま歳変わんねーみてーだな! よろしくな! 俺様はエドウィン・フォックスだ!」
とか、タメ口で挨拶しているよ。
「うっふっふ~。君、いいこと言うねぇ! 気に入ったぞ~?」
なんかもう仲良くしてるし。さすがコミュ強の男……。
「……キャル・ライグレ鑑定士、よろしくお願いします、ジミー・モーガンです」
俺は無難に挨拶を返した。
「固い固い。気軽にキャルちゃん、って呼んでよ。歳が近いんだし〜」
俺の腕をぺちぺち叩いてキャル・ライグレ鑑定士が言うけど、無理。俺、そんなキャラじゃないし。
「キャルちゃんだな! 覚えやすくていいぜ!」
あああ……。コミュ強同士が勝手に話を進めているよ……。
「キャル鑑定士、そのくらいにしてくれ。ジミー・モーガン君は真面目なんだよ」
「おっと失礼」
キャル鑑定士は舌を出して首を竦めた。マジで軽い。
「いやー、それにしてもSランクのアイテムハンター候補生ですか。すごいですねぇ~。実際、彼らが獲ってきたアイテムも、マジですごかったし。オークのSランク肉も見てみたかったなぁ。だいたいが食べられちゃうんですよねぇ~。でもってその弁解が、『普通のオーク肉と間違えた』ですよ、もうお決まり!」
口をとがらせてキャル鑑定士が言った。
学長が咳払いする。……あ、これは学長も食べたな。
「それは、今後機会があるだろう。彼らはまだオリエンテーション中、その段階で今までの成果だからな」
キャル鑑定士がウンウンと頷く。
「ですよねー。そもそも、学生のときに出逢うなんて、今までなかったんじゃないですか? それだけ惹かれ合ったんでしょうね! ――やっぱり、アイテムハンターは、運命的出逢いを果たして結ばれるんですよ! 画策してなんかじゃ生まれません!」
「「は?」」
俺とエドウィンが聞き返した。
キャル鑑定士は、なぜか腰に手を当て胸を張って、俺たちに解説を始めた。
「その昔、アイテムハンターを増やそうとして、セイバーズ協会が全セイバーズに対して、バディのシャッフルを行ったんですよ。SランクはともかくRランク以下のセイバーズは、ほぼ全員が組み合わせを試すためにバディを変えさせられ、レアドロップアイテムが出るかどうかのチャレンジを行ったのです! ――結果はゼロ! どの組み合わせでも出ませんでしたー!」
すごいことをやったんだな、昔のセイバーズ協会は。時間も金もかかっただろうに。
そして、そこまでしてアイテムハンターを増やしたかったのか……と考え、ちょっと背筋が寒くなった。
キャル鑑定士が、人差し指をピッとまっすぐ上げ、「ところが!」と話しだした。
「セイバーズ協会が諦めたその一月後、怪我でセイバーズのチームを解消し一時休職していた人が復帰して、バディを募集したのです。そこで、たまたま別の地域から移籍してきた人とチームを組んだら……なんと! アイテムハンターになったのです!」
それはそれは……。徒労に終わったんだな、セイバーズ協会。
「この件で、セイバーズ協会は悟りました。アイテムハンターとなる二人は、運命の出逢いを果たすのです。そもそもが『レアドロップアイテムを排出するチーム』なのですから、当然! アイテムハンターになる二人も、レアドロップを引き当てるように互いを引き当てるでしょう。無印の連中がどーのこーの画策したところで、どうにかなるもんじゃあないんですよ!!」
キャル鑑定士の言いっぷりに学長が苦笑しているよ。
キャル鑑定士は手を胸元で握りしめて、何やら瞳をキラキラさせて祈るようなポーズをとっているし。
俺とエドウィンは顔を見合わせた。
「運命の出逢いぃ?」
「キメェな」
なんかこう、背中がゾワッとする表現だ。
「何をおっしゃるお二方!」
いきなりキャル鑑定士が、人差し指をこちらに突きつけてきた。
「君たち、そもそもチーム名がソレじゃあないですか! 【愚者×無精者】!」
エドウィンが眉根を寄せて首を傾げる。
「今、違ってなかったか?」
「キャル鑑定士、【愚者と無精者】です」
俺は言い直したのだが、キャル鑑定士は聴こえてないのか、さらにまくしたてる。
「ジェイド君からチーム名を聞いたときから鼻血が止まりませんでした……! 運命の出逢いの二人……しかもSランク! もう、惹かれ合ったとしか思えません!」
えぇ……なんで鼻血が出るんだろう。
エドウィンも、顔が引きつってるぞ。
興奮するキャル鑑定士を学長が宥める。
「キャル鑑定士、落ち着け。彼らが引いているぞ。あと、ここはアカデミーだ。私のことは肩書きで呼ぶように」
……ジェイド君って、学長のことだった件について。
もちろん俺は聞かなかったことにした。
*
――という、衝撃の挨拶を思い返しつつ、キャル鑑定士を見ていた。
今日は、昨日のようにはっちゃけておらず、真面目な雰囲気で挨拶している。
「若いよな」
「結構かわいい」
「真面目そうじゃん」
という、男どもの会話を小耳にはさんだ。
本人と会話して、度肝を抜かれなきゃいいけどね。
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