第19話 告白 2
本当にここにいるのだろうか……。
僕はコンビニに入る前に立ち止まった。
入ったらスタートする……。
何分彼女がいるのか分からないが、なるべく早くしないと、想いは伝わらない。
僕はその考えを持ちながら、軽く深呼吸をして、コンビニの自動ドアを開き、中へと入った。
「いらっしゃいませ」
と、若い女性の店員がレジから挨拶をした。
僕はポケットに手を突っ込んで、どこにいるのか歩き出した。
心臓の鼓動が高鳴る。しばらくこの緊張のままだと、また気絶しそうだ。
本棚や化粧品が置いてあるレーンには子供たちがはしゃいでいて、それ以外は誰もいなかった。
今日は土曜日もあってだからなのか、店の中は結構人がいる。
僕はお菓子が並んでいるレーンを見た。そこは三人ほどいたのだが、すぐに彼女がいることに気づいた。
彼女はこちらに気づいていないようである。
僕は緊張が一気にピークに達していた。三年前に見たあの関根鈴である。三年前と何も変わっていない。背の低さも、体型も、釣り目な部分も、そして黒い服を着ていてオシャレな部分も。
まるで、あの異動したときの別れが、昨日のことのように想えてきて、何だか感動してしまっていた。
本来なら泣きたい気持ちだが、それ以上に緊張の方が勝る。
――いわないと、去ってしまう。
彼女はコンビニのカゴを右腕に通しながら、レジの方に歩き出した。
僕は慌てて、後をつける。
「あれ、関根さんじゃないですか?」
彼女はピタッと止まって、驚きながらこちらを見る。
そこに僕の姿を見ると、驚愕の表情をしていた。
「久しぶりですね。元気にしてました?」
僕は何食わぬ顔でいった。もしかしたら顔が引きつってしまっているかもしれない。
「あ、はい」
彼女は僕の顔を見ていた。いや、それは警戒して表情の中にある気持ちを読み取っているといった方がいいか。
「どうですか、仕事は順調ですか?」
彼女はいいたくなさそうに眼をそむけた。
「仕事は……、辞めました」
「……そうだったんですね。もし、時間があれば近くの公園で話しませんか?」
彼女はしばらく戸惑っていたが、
「……いいですよ」
僕はコンビニを出て、すぐの公園のベンチに座った。寒い時期なので、身体が身に染みる。コンビニで買ったアルミ缶のホットコーヒーのキャップを回した。
関根さんは立ちながら、ペットボトルのホットのお茶のキャップを開けた。どうしても隣に座ることに抵抗があるのだろう。
「鳴越を辞めたってことは、どこかで仕事してるんですか?」
僕はもう会えないかもしれないと思って、雑に首を突っ込むような発言をした。
「別の会社に勤めてますよ。三島さんは?」
彼女は表情一つ変えずに聞いた。
「僕は今も勤めてるよ。でも、最近は忙しくて辞めたいけどね」
そういって、僕はコーヒーを飲んだ。温かさが喉を伝わり、ほどなく身体が温まる。
彼女も飲み物を飲んでいた。
お互いが沈黙の中、僕はこのままでは何も伝わらないと痺れをきらし、意を決していった。
「あの、もう僕らは逢うかどうか分からない。だから、僕はここでハッキリいおうと思う。君がラインで未読だったり、ブロックされていることに関しては確かにショックは受けたけど、もう気にしてはない。それは、君が何かしらの事情があってのことだろうし、そういう意味では、僕も納得したい。
しかし、僕は君とのやり取りを何度もやめようとした。何度も他の男性と新しい関係を作るのだと思った。でも、どうしても心の中で、関根さんのことを考えると、どうしても放っておけなかった」
関根さんは軽く咳ばらいをしていった。
「どうして、あたしがいいんですか? あたしはいってもそれほど美人でもないし、それほど性格も良くないと思いますけど」
「いや、僕は君の笑った時や、素直じゃない部分や、そして一番好きな丁寧な部分も、外見も全てが好きだ。だけど、本当はさっきもいったように、諦めて気持ちを切り替えようとしても、君を忘れることが出来なかった。
ただこれが、関根さんが他の男性と家庭を持っているとか、他の男性と向き合っているのであれば、僕は忘れるしかないけど。
でも、君が……。例えば、家庭の事情で地方の実家に帰ることになったとか、単純に仕事を辞めて会いづらくなったとか、精神的に病んでるとかで、僕のことを諦めようとしたなら想いとどまって欲しい。
確かに、君が実家に帰って両親と暮らしているのであれば、距離も遠いし、そこで僕と関
係を持つとなると、同じ場所でやり取りをしたいはずだ。僕もすぐには君の家の近くに住むことは出来ない。でも、二、三年後にはきっとその場所で住む」
「その約束は信じれます?」関根さんは苛立ちを見せた。
「確かに実際にやり取りをしたら、もしかしたら思い描いていた人とは少し違うのかもしれないけど、でも、三年間も君のことを想い続けていたんだ。それも踏まえると離れることは無いよ。絶対に……」
彼女は躊躇している。僕は続けた。
「何度もいうけど。もし君が他の男性がいるのであれば、僕は諦めるしかないけど、もしそうだとしても、今まで仕事で一緒に頑張った仲として、嫌いになることは無い。もしその時は、お互い幸せな道に進もう。でも、そうでなければ、僕との関係をもう一度考え直して欲しい。
僕は君を幸せにしたい……」
そこまでいって、僕は全てを吐き出したように、何もいうことは無かった。
しばらくして、彼女は笑いながら喋った。
僕はその言葉に納得した。
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