IMPACT ~もう一度逢いたい~

つよし

第1話 助け人

 寒い……。

 僕は白い吐息を自分で目の当たりにして、そう呟いた。

 地下鉄の電車から降りて、徒歩十分ほどで家路につく。早く帰りたい。そう思考回路に伝わると、おのずから歩くスピードというのは速くなる。

 同じ駅で降りた人たちに続いて、地上エスカレーターまでは順序よく並んでいたが、いったん外に出ると、僕は別に競うわけではないけど、次々と追い抜いていく。

 別にトイレに行きたいわけではない。本当に寒いからだ。

 ほのかに吐息を吐きながら、家に着くと、ポケットから鍵を取り出す。十年前から住み着いているこのワンディーケーの木造のアパートもお世話になっている。

 その一階に僕は住んでいる。角部屋でないことが悔しい。別にいらない情報か……。

 僕は帰ると、背負っていたリュックサックを置き、手に持っていたトートバッグを置いた。

 そこで、僕は気分の入れ替えみたいに歌を歌う。歌うことが好きで十五年ほどカラオケを月一で好きで通っている。それもいらない情報か。

 僕は手を洗いうがいをする。そして、昨日作り置きしていたカレーにレンジで温めて食事をする。その後、お風呂に入る。いつもと変わらぬルーティーンだ。

 ただ、今唯一の楽しみなのは寝る前に、最近購入したタブレットでゲームをすること。うつ伏せになりながら熱中することが楽しみである。

 そのゲームは無課金などの最新ゲームとかではなくて、僕が小学生時代に発売し、人気を博したものだった。

 僕の名前は三島智。年齢は三十八になる。決して若くもない、しかし、年配といわれる歳でもない。中年のオッサンだ。

 特別何かを成し遂げたわけでもない。功績を残したことも非行に走ったこともない。ただの独身の人間である。

 異性関係もなかった。つまり、僕は一度も恋愛をしたことはない。

 好きになった人は、何人かはいたが、一番最近は三年前から音信不通になった女性だろうか。

 音信不通――というのはおかしなものなのだろうが、ただ、ラインでのやり取りで、多分、何か僕が不謹慎なことを送って、その後に不通になったのだ。

 なので、終わっているという実感が無い、僕はどこで落とし前をつければいいのかが分からなかった。

 僕はかぶりを振った。いや、そんなのはどうでもいい。今はこのゲームを楽しみたい。

 明日も朝の八時から夜の七時ごろまで仕事なのだ。この貴重な時間を無駄にはしたくはない。

 僕はゲームに打ち込んだ。しかし、心の中にずっと気持ちが渦巻いていたのを見ないようにしていた。

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