第23恐怖「添い寝」
北関東の田舎に住むKさんがまだ幼いとき、家に日本人形が三体あったという。
当時のKさんの上半身くらいあるケースに、自分の頭よりも大きな人形が入れられ、それが居間に三体並べて飾ってあったらしい。祖父母が送ってきてくれたもので、兄弟三人分ということだった。
Kさんはその人形が怖くて怖くて仕方なく、なるべく居間にいたくなかった。が、二階にある自分の部屋は兄たちと共有だったため、場合によっては、しぶしぶ居間で時間を過ごさねばならない。
あるとき、長男の友人らが家に泊まることとなった。
Kさんと二番目の兄は部屋から追い出され、居間で寝ることになってしまった。そっちが一階を使えばいいのにと抗議したが、歳の離れた兄に勝てるはずもなく、Kさんと次男坊は自分の布団を下の階に運んだ。
その夜、Kさんは大きな懐中電灯を持って布団にもぐった。気晴らしに、布団の中でゲームボーイをするためだ。当時のゲーム機は画面が暗く、機器自体の光量では夜に不向きだったのだ。
いつのまに寝ていたのだろう。Kさんはふと夜中に目覚めた。寝ぼけ眼でそこらへんにあるはずのゲーム機をさぐった。体の下敷きになって壊れたら大変だ。
と、不意に、背中に何か硬い物が当たった。ゲーム機ではない。もっと大きい。
なんだろうと思って振り返ると、すぐ目の前に、日本人形の顔があった。
心臓が跳ね上がった。
悲鳴を押し殺し、とっさに、布団を自分にかぶせて隠れた。一瞬しか見ていないし、暗かったが、確かに人形だった気がする。
いや、もしかしたら懐中電灯を見間違えたかもしれない。ペン型の小さな懐中電灯ではなく、取手のついた大きなものだ。暗闇の中なら見間違えてもおかしくない。丸くて大きなレンズの部分が顔に見たのだ。
それか、本当に人形だったとして、兄のいたずらかもしれない。それだったら怖がる必要はない。
意を決し、Kさんは布団から頭を出した。
が、何も見当たらない。懐中電灯も何もない。
ハッとして、兄の寝る布団のほうを見た。やはり兄がいたずらをしているにちがいない。
そう思ったが、兄はいびきをかいて寝ていた。明らかに、演技とは思えないリアルなものだった。
イタズラじゃないとしたら、何を見間違ったのだろうか……
Kさんは上半身を起こし、目を凝らして部屋を見渡した。暗闇に目が慣れてきていた。
懐中電灯とゲーム機は足元の方にあった。が、やはり頭を向けていたほうには、人形と見間違うものなどない。
たんに寝ぼけていただけなのだろうか。
なんとなしに、日本人形の飾ってあるほうを振り向いた。
三体とも、ケースにしっかり収まっている。
──いや、よく目を凝らすと、その一体の身体が傾いており、ケースの扉はわずかに開いていた。
まるで、慌ててそこへ戻ったかのように。
翌朝、Kさんは日本人形を押し入れにしまってくれと母親に頼んだ。母は、魔除けのための人形だから何も怖がることはないと言ったが、Kさんがついに泣いて懇願すると、やれやれと人形をしまってくれた、という。
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