第5恐怖「カーナビに従って」
三年前の話だ。
私は、当時同棲をしていた彼女とのデートで遠出をすることとなった。
目的地まで、車で二時間ほどかかる。コンビニでおやつなどを買い溜めしてからそこへ向かった。
途中までは、なんとなく知った道だったので、カーナビに住所を入力していなかった。とある川沿いの道を進んでいるとき、私は彼女にナビを入力するよう頼んだ。
そこから二十分くらい川沿いの土手下を走った。うねうねと曲がりくねってはいるが、一本道だ。しだいに、いつになったらこの道を出て街を目指すのだろうかと思い始めた。途中で県道に入らなければ目的地へ行けないはず。もしかして住所を間違って入力してはいまいか。
確認するも、表示されている住所は正しかった。
こちらのほうが近道なのだろうか。あるいは渋滞を避けた結果なのか。
あいかわずナビに従っているうち、ナビの音声が、数百メートル先で左に曲がることを案内した。
だが、川があるのは左側。橋でも渡るのだろうか。
地図を縮小して確認すると、なんと、目的地を示す旗が、河辺に立っていた。そもそも橋などない。
やっぱり住所を間違っている。
そう思ってもう一度画面を確認したが、確かに住所は合っていた。
どういうことだろうか。
とりあえず曲がるところまできた。
そこで、さらに不可解な思いは増した。土手を上がるための道路がないのだ。歩行者用の階段しかない。
車が通れない道を案内するとはどういうことだろう?
何がなんだかわからなかったが、私と彼女は車から降りて、土手を上がってみた。
良い眺めだった。川の幅は広いが、水深は大したことないだろう。川岸も広く、水切りなどを楽しめそうだ。だが、特に何があるわけでもない。なぜこんなところに旗が立ったのだろうか。
車に戻って、試しに、もう一度住所を入力してみた。
すると、今度こそ正しい目的地に旗が立った。案内ルートはさっそく川から離れて、県道へ向かっている。
一応、地図を縮小してルートの全体をしっかりと確認した。
やはり、問題なさそうだ。
これだからカーナビはあてにならないね、などと話をしながら、私は車を発進させた。正直、なんだか川というのは不吉な感じがして、気持ちが悪かった。
気分転換に、ご飯にしようということになった。時間も時間だし、道中にはレストランがある。
しばらく車を走らせ、そのレストランに到着した。
小さいが、なかなか立派な建物だった。もしかしたら、地元で有名なところだったりするかもしれない。
おしゃれな木製の扉を開けて、店内に入った。風除室にはガチャポンが並んでいた。
もうひとつ扉を開け、彼女を先に通すと、ややあってから「いらっしゃいませー」と笑顔で店員がやってきた。
店員は私たちを確認するや否や、店内のほかのスタッフに向けて、
「三名様、ご来店でーす!」
と声をあげた。
えっ、と思い、そのまま案内しようとする店員に、「二人です」と言った。
店員はふたたび私たちに顔を向けると、
「あれ、さっきのお子さんは?」
と困惑した。
私はどきりとして、背後を振り返った。
もちろん、そこには誰もいない。
ただし、閉めたはずの二つの扉は開け放たれ、冷たい風が店内に入り込んでいた。
そして、風除室のガチャポンが置いてあるあたりには、小さな水たまりができていた。
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