キミとのカフェライフ

詩森右京

「いらっしゃいませ!」

 ドアが開いた音と共にお客さんが店内に入る。

 喫茶桜屋は三時のおやつ時であるこの時間帯は特にお客さんが多い。


「ネロくん、珈琲ゼリーと苺タルトひとつずつお願い」

 厨房にいるネロくんは私に対し頷いて「わかった」と伝えた。


「お待たせしました」

 そう言って珈琲ゼリーと苺タルトをテーブルに置く。

「ありがとう!」

「おいしそー!」

 お客さんの嬉しそうな笑顔に私は営業スマイルよりも自然な笑顔でいられる。

 おやつ時とかで忙しくても逆にやりがいがある。それはネロくんも同じなはずだ。


・・・・・


 そしてお店の閉店時間後──。

「おつかれ、ユメ」

 厨房の掃除を終えたのかネロくんは私に労いの言葉をかけに、こちらへ来る。

 私の方といえばお客さんが飲食するスペースの掃除が終わり、少しだけお客さんの席で休んでいた。

「ネロくんもお疲れ様」

 彼の方から甘い匂いがする。

 一目瞭然。その手には──!!

「それはまさか……!!」

「もちろん、まかない」

 お皿に大きなパンケーキが乗っていた。

「おいしそう!!」

 目を輝かせる私にネロくんは嬉しそうな笑顔になる。

「よかった」


 聞いた話ではチェーン店は基本的に、余りを配ったり、まかないをする、などは無いらしい。だけど我らが喫茶桜屋は個人営業なので、このようなこともアリなのだ。

 というより営業日の閉店後では必ずある恒例行事。


 私が「いただきます」と手を合わせてパンケーキを食べようとしたら、ネロくんが──。

「口開けて?」

 ネロくんはナイフとフォークで取ったパンケーキを私の口もとに寄越す。要は『あーん』してというやつだ。

 ──恋人以上だけどこれは照れる!!

 とか思いつつも、私はネロくんの要望に応じる。

 多分、顔は赤くなってる。全部ネロくんからの不意打ちが悪い。

 でもそれは一発だけで後は普通に食べることができた。


 食後にコーヒーを飲んで、まったりとしていたらネロくんがおもむろに告げる。

「明日は……」

 ネロくんが何を言いたいのか察して私はそっと頷く。


「婚約記念日だね」

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