養子

 早乙女さんたちが襲撃してきたり、花火で遊んだりした次の日。

先生が

「決着をつけよう」

と言った。


「どういうことですか?」

「俺たちの今の関係性は誘拐犯と被害者だ。それを終わらせよう」

「つまり?」

恭介が聞く。


先生は真剣な顔をして

「俺は自首する」

そう言った。


「え!? マジですか? 先生捕まるの?」

「罪を償わないとな」

「そんな……急に……」

「私も一緒に自首します。二人でやったことです」

「ゆずは駄目だ」


「何が何でもついていきます」

「いや、しかし……」

「自首したとしても桜澄たちが捕まるかどうかはお前たち次第じゃがの」

「そっか。僕たちが被害届出さなきゃいいのか」

「……俺のことを訴えていいんだぞ? お前たちにはその権利がある」


「先生は大切な家族ですよ? そんなことしません」

「……そうか」

先生は控えめに微笑んだ。


「文弥に相談するかの」

「なんで望月さん?」

「あいつ弁護士なんじゃよ」

「えーそうなんだ! すごいな。武闘派弁護士か」



 それから先生とゆずは自首した。

あんまりよく分からなかったけど、結局不起訴になったみたいだ。

未成年者誘拐罪は告訴がないと起訴することができない、親告罪というものらしい。



 先生とゆずが不起訴になる前。

八月は終盤になり、桜が帰ることになった。

みんなで駅まで行って見送ることにした。


「お世話になりました!」

「うん。また来てね」

「はい! 恭介さん! 毎日電話しますね!!」

「毎日か……」

「毎日電話しますね!」


「いや……」

「電話しますね!」

「分かったって」

桜は鬱陶しいくらい良い笑顔で

「では……帰ります!」

と言って敬礼した。


「元気でね!」

「はい!」

「気をつけて帰れよ」

「寂しくなりますね」

「せやなー」

「またの」

「水野さんによろしく言っといてくれ」

「じゃあな」

「はい! ありがとうございました!」

やかましいくらい手をブンブン振って、桜は帰っていった。



 その後しばらくして先生とゆずの不起訴が決まった時、僕たちの立場が確定した。

なんかよく分かんなかったけど、先生が僕たちの未成年後見人になるとかなんとかかんとか言ってた気がする。


問題はけいだ。

けいには戸籍がなかった。

多分けいは捨て子なのだ。


それを知った時けいは

「ってことはあいつらと血が繋がってるわけじゃないのか。それは素直に嬉しいな」

と言っていた。


ともかくなんやかんやあって、けいは養子縁組をして先生の養子になったようだ。

つまり、小野寺けいになったのだ。


色々あったが僕たちは不安定な立場から脱した。

ということは

「私たちもう後ろめたいことないし、学校とか行けるんちゃう?」

「あ、そうなるのか」


「どうなん桜澄さん?」

「日向は学校に行きたいと言っていたな。よし。じゃあ準備しようか」

「よっしゃー! すげー! 一般人になれる! やっと普通の子供みたいなことができる!」


「今まで行かせてやれなくてすまなかった」

「これから取り戻すからええよ」

「そうか。ほどほどに頑張れ。お前たち三人はどうする?」


「行ってみたいな」

「僕も」

「んー。今しかできないだろうし、久しぶりに学校ってとこに行くのも悪くないかも。私も行きたいです」

「よし。分かった。任せろ」


こうして恭介とけいと日向にとっては初めての、天音にとっては久しぶりの学校生活が始まろうとしていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る