第19話 ファントム

 さっそうと旋回をしながら、私たちの前に降り立った一羽のシャドウクロウ。周りのシャドウクロウたちは「「カーカー!」」や「カカカカカカカ―!」など興奮した感じだ。


 周囲からは何となくだけど、ファントムが来るのを待ち焦がれていた様な感じがした。


 地上に降り立ったシャドウクロウは、くちばしにくわえていた風呂敷の様な物を日陰に置くと、私たちの方に華麗なステップで向き直り、「初めまして、皆様。モモ様の参謀を務めております。シャドウクロウのファントムと申します。以後、お見知りおきを」と、直接脳内に語りかけてきた後、片羽を開き足を交叉させて私たちに対し、優美なお辞儀をした。


 う~ん、素敵。


 そして、ハントやジュリーダ牧師様に対しては私たち以上に深々と頭を下げた。もちろん、ライル君とソフィーナに対しても...。


 おそらく早朝、バリジン森林地帯に向かうべく橋の近くですでに出会っていたのだろう。ハントやジュリーダ牧師様の表情は柔らかく、何となくファントムが来てくれて、ほっとした様な表情を浮かべている。


 挨拶を終えた後、ファントムはお構いなしに喋りまくっているモモちゃんの方に向かって、視線を移すと、「は~」と深いため息を吐いた。


 カラスのため息...。初めて聞いた。そして非常に困った様な表情も初めて見た。


 まあ、ファントムの気持ちは分かるけど、ちょっと露骨すぎない⁉モモちゃんに怒られちゃったりしないの?大丈夫なの?ファントム💦


 そんなため息を吐いた後、ファントムはすぐさま数回羽を羽ばたかせ、モモちゃんの方に向かった。


「モモ様、モモ様!」と、ファントムはモモちゃんに向かって右羽でモモちゃんの肩を叩いた。最初は自分のトークに夢中で、気づかない様子であったが、ファントムが2,3回モモちゃんの肩を叩くと、やっとこ気が付いた様だ。


「ああ、なんやファントムか。遅かったやないか⁉それより今、わしのワンマントークショウがや。お前も邪魔にならん所で見ており♡」と、ご機嫌な声色を脳内に送って来た。


 いやいや、ワンマントークショウじゃないですから...。それに、じゃないですから...。


 早朝に何があったのか、状況を説明して欲しいんですけど💦


 そんなモモちゃんの姿を見たファントムは再度ため息を吐いた後、もう一度モモちゃんの肩を右羽で叩いた。


「何やお前は、邪魔するなって言うとるやろう💢今、幸之助と一緒に行ったビッグワーム狩りの話をしている最中やで!これからがいい展開になるんやで!わての奥義"毒羽踊龍翔ドクバブリュウショウ"は幸之助直伝や!誕生秘話を聞かせている最中なんやで!」と、興奮した表情でファントムを叱りつけた。


 モモちゃん...。激おこぷんぷん丸じゃんか...。 


 しかし、ファントムは一向に臆することなく、いや、逆にモモちゃんに向かって詰め寄って行く。


 ファントム、ねえ?大丈夫なの⁉モモちゃんワンマントークショーを邪魔されて怒っているよ⁉参謀とはいえ、叱られないの⁉


 そんな私たちの心配を知ってか知らずか、ファントムはモモちゃんに向かって「モモ様、ワンマントークショーじゃないですよ。幸之助様の話も今は必要ないですよね⁉それよりも、バリジン森林地帯の現状や、憎き3匹のインプの話、そのインプ達によって我々が守り続けて来た神聖なる樹木"アルカヌム・アルボル"が壊滅状態にあること、これらの事を皆様にお伝えして下さいましたよね...⁉」と言ってファントムは、激しい怒りを込めた視線を真っ直ぐにモモちゃんに叩きつけた。


 その圧倒的な迫力に、さすがのモモちゃんもワンマントークショーを中断し、ファントムの方に視線を向けた。そして...。


「い、今、話そうと思っていたんや!でも話には,お前、順序というものがあってだな...」と、モモちゃんは言葉を濁してしまった。さらに、モモちゃんの視線は泳ぎまくっている...。


 モモちゃん...分かりやすすぎだよ💦


 ファントムは、モモちゃんが自身の迫力に押されているのを感じ取り、今がチャンスとばかりにさらに攻め込んだ。


「モモ様、まだ話すべきことがありますよね?3匹のインプによって、バリジン森林地帯全体の"邪悪なる魔素を吸収する役割"を担っていた神聖なる樹木 “アルカヌム・アルボル” が壊滅的な状況に陥り、森林地帯全体が"邪悪な魔素"で満ち溢れてしまったこと。その影響で、私たちを含む多くの森に暮らす生き物たちが、凶悪な心を持つ魔物と化してしまったこと。これらの事実を、皆様に伝えましたよね...モモ様...」


 彼の語気は低く、言葉には深い怒りが込められている。その迫力は半端なく恐ろしい💦


 こんなに低い声で、一つ一つの言葉が心に刺さるように話されたら、私だったら泣いちゃうかも。それに、そんな大切な話、モモちゃんからは一つも聞いていないんだよね💦


 モモちゃんはバツが悪いようで、目を左右に動かし、大きな体を無理に縮めようと、もぞもぞとしている。「これからな、これから話そうと思っていたんや...」と、今までとは違う明らかに小声でファントムに訴え出した。


 モモちゃん何だか可哀そう。ただ...全部モモちゃんが悪いんだよね...。


 でもファントムは手を緩めず、まだ聞きたいことはありますよ、モモ様!せめてこれだけは伝えて頂けましたよね!!凶悪な心を持つ魔物と化してしまった私たちを、ライル様が導いて下さった、"ペラちゃんズ"様一行によって、正気を取り戻せたことだけでも!!」って、最後には大きな声でモモちゃんに詰め寄った。


 もうファントムのくちばしがモモちゃんのあごに突き刺さるぐらいの距離まで迫っているよ💦


 どうなっちゃうのモモちゃん⁉ネビュラの威厳は何処に行っちゃったの💦

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