第13話 襲撃!!

 突如として魔物の気配が四方から迫ってくる!その動きは素早く、まるで四方を取り囲むように距離を縮めて来た!!


「「クォオオオオオオオオオン!!」」


 獣か、それとも魔物か?そのモノたちの吠え声が周囲に響き渡る!それも、一頭だけではない!!数頭、いや、数十頭もの吠え声や唸り声が周囲から聞こえる!


 その声を聞いたヨハンが、「あれはシルバーフォックスだ!!」と反応した。


 ちょ、ちょっと、シルバーフォックスは、単独でもランクDの魔物。その俊敏な動きと、非常に強固な爪と牙を武器とし、森林や岩場、平原に多く生息する魔物。だが、厄介なのは、キツネちゃんたちが集団で現れた場合。集団で現れると、その能力は飛躍的にアップしちゃう。


 どう見ても今回...集団で現れたようだ。やばいよ、やばいよ💦


 周囲の空気が微妙に揺らぎ、何かが動き出す兆しを感じる。その予感は、荒れ狂う嵐の前触れを私たちに知らせる、そんな感じがした。


 ガサ、ガサ、ガサ...。


 ザザ、ザザ、ザザ、ザザ...。


 四方から何モノかが周囲を囲っている。私たちとの距離を縮めて来ている。じっくりと、じわじわと...。


 それにしても...多い。


 気配だけでも20頭、いや25頭以上は確実にいる...。実際は、もう少し多いかもしれない。私やヨハン、ダル、ハント、サルンサ、ジュリーダ牧師様、それにライル君との間で、身体が触れ合うほど自然とお互いの距離が縮まった。


「周囲を完全に囲まれてしまったようだ。これだけの数で襲って来るとは...。相手さんはだいぶなようだな...」


「ああ。シルバーフォックスが馬車道まで出て来るなんて珍しいな。奴らは賢い。人間とはあまり関わり合おうとしない魔物だと思ったのだが...」


 ヨハンとハントが緊張した面持ちで話しあっている。


 セランとナルンも、忍び寄ってくる獣たちの気配を敏感に感じ取ったのだろう。ヨハンが「大丈夫、大丈夫だ」と声をかけタテガミクビを撫でて、なんとか落ちつかせようとする。


 そんな中...。


 リューファンさんがハントに向かって、「予備の武器はないかしら?戦争奴隷にされた時、愛用にしていたレイピアとマインゴーシュを取り上げられてしまったから...。出来ればそれら2本を貸して頂ければ、この程度のキツネちゃんたちなら私一人で対処できるわ」と落ち着いた表情で尋ねた。


 さらに...。


「ねぇ、いいでしょう...ソフィーナ?私が全部やっつけちゃっても...」


 リューファンさんがソフィーナさんに向かって、有無を言わさない態度で尋ねた。


 その眼差しは、何とも言えない凄みと緊張感を持っている。そんな視線をリューファンさんから向けられたソフィーナさん...。


 こ、怖い。邪魔をしたら腕の一本ぐらい切り落とされそうな、そんな殺気をリューファンさんはプンプンと辺りに放っている。ちょ、ちょっと、シルバーフォックスの30頭分よりも重たい殺気を一人で放たないでよ💦


「もちろんですよ、リューファン。あなたの強さと主様への深い愛情を、主様にしっかりと見て頂きましょう。私も応援しますよ♡」と、ソフィーナさんがリューファンさんに対して優しく微笑んだ。


 ソフィーナさんって何だか...大人♡それにしても、リューファンさんの殺気をいとも簡単にかわした。私なんて少しお股が湿って...。いやいや、こんなことを申告する必要はないか。


「リューファンは、レイピアとマインゴーシュで相手の攻撃を巧みにいなし、どんな敵からの攻撃も無力化させた王国一の盾。そしてリューファンの恐ろしいところは、隙をついたカウンタ―攻撃だ!」と、レイメントさんが嬉しそうに教えてくれた。


 二人とも仲がいいのかしら?そういう...関係なの?



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「予備の武器はあるはずじゃ。もちろんレイピアも数本置いてある。マインゴーシュも1本はあったはずじゃ。使ってもらって一向に構わない。じゃが、これだけの数じゃ。いくら何でも一人ではどうにもならない...そうじゃろう⁉」


 ドルは周囲を警戒しつつ、馬車の中の道具箱を探し始めた。


そして、「あった、あった!」と呟き、道具箱からレイピアとマインゴーシュを取り出すと、リューファンに向かって「そりゃ!!」と投げ渡した。


 パシッ!!


 それを難無く受け取ったリューファンさんは、「どこにでもある量産タイプのレイピアとマインゴーシュだけど、手入れが行き届いた見事な品ね」と、一目でドルの腕前を見抜いた。


 ライル君もリューファンさんに刺激されて、ハントに「どうしましょう?戦えるスライムたちを呼びましょうか?」と、"スライムの笛"を口元に運ぼうとした。だがその時、ソフィーナさんが「主様、この程度の数ならリューファンのみで十分です。ただ...」と言い、森の茂みのある一点を目つめて言葉を止めた。


 何か...気になることがある様だ。ソフィーナさんの視線は100m程離れた茂みの方に向けられている。


 そして...。


「向こうの茂みにいる2体がこの群れを率いるモノたちの様です。あの2匹を調すれば、この群れは統率性を失うでしょう。そして、どうやらそのモノたちと戦いたがっている者はリューファンだけではない様ですよ」


 ソフィーナさんは冷静に戦況を把握している様だ。そして、常にライル君の傍におり周囲に注意を向けている。


 凄い!


 ソフィーナさんもまた、2人と同じぐらい戦いに慣れている様だ。あんなに綺麗で巨乳スライムさんなのに...。非の打ち所がないじゃない💦ズルいズルい!!


 私がソフィーナさんを羨望の眼差しで見つめていると、彼女は私の視線に気づき、にっこりと微笑えんだ。こ、こんな状況でほほ笑むなんて...何だか悔しい。ムッキィ~!!


 はあ...💦



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 そんな中...。


「さあ、ライル様、私の力をご覧下さい」と静かに呟き、ゆっくりと前方の茂みに向かって歩み始めた。


 ふふふふふ。思わぬところでいい武器も手に入った。ドルさんから、このレイピアとマインゴーシュをもらっちゃおう。すごくフィットする。私の手の形状に合わせて作られているみたい。凄い出会いだわ!!


 私はやはり、ライル様たちと会うべきしてあったとしか思えない...。


 そんな幸せの余韻に浸りながら、前方に潜んでいるシルバーフォックスに向かって歩みを進めていると...。


 後ろからレイメントが「ちょっと待て!俺も行く。俺だってライル様に、自分が役に立つことを見せたいんだ。自分だけ先走るなよ!」と言いながら、私の横を同じ歩幅で歩き始めた。


 こいつは~💢


 相変わらず...空気を読むことが出来ない男ね。せっかく幸せに浸っていた気分が台無しだわ。


「ちょっと、ついて来ないでよ!あなたは、オーク狩りに行ったのでしょう?私も戦闘の勘を取り戻したいの!シルバーフォックスが30匹程度しかいないのよ!私の獲物よ、手出しをしないで頂戴!!」


「うるさい!!5,6頭のオークを狩ったぐらいで、このミラクルボディーボディーが満足するわけないだろうが!今の俺の熱い思いは、シルバーフォックスを狩らないと止められないぜ!!」


「も~!本当にうざいんだから。いい加減に気づきなさいよ!この戦闘バカ!!」


「なんだと!」


「なによ!」


 2人は罵り合いながらも、一歩一歩、同じペースで進んでいく。同じ速度で、同じ方向へと...。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 き、緊張感ゼロの二人...💦茂みの中から、いつシルバーフォックスが飛び出してくるか分からない状況だというのに...。まるっきり、気に留めていない。慎重という言葉をまるで感じさせない動きで、ズンズンと前に進んでいく。


 緊張感ゼロといえばもう一人、いや、もう一匹⁉一頭?いる。ライル君の膝の間で、お腹を出しスヤスヤと寝ているシルバーフォックスがそこにいた。


 なぜ魔物がお腹をみせて寝ているの?安心しすぎじゃないの💦


 本当に大丈夫なの?飼いネコみたい...と心配したその時!!


 ガサガサガサッ!!


 バッ!!!!


 レイメントとリューファンに、左右から2頭のシルバーフォックスが同時に襲いかかってきた!


 か、完全に不意を打たれた格好!あ、危ない、避けて...!


 ギャン!!


 グンッ⁉


 私の心配をよそに、2人は歩むスピードを緩めず、レイメントさんは襲いかかって来たシルバーフォックスのわき腹にまわし蹴りを1発放ち、リューファンさんはレイピアのポンメル《柄頭》一突きで、相手の動きを止めた。


 2人は何事も無かったかのように、100mほど離れたシルバーフォックスに向かって、平然と歩みを進める。「次の獲物は私が倒す」や「ライル様に、私が仕事のできる女であることをアピールさせなさい!」などと、痴話喧嘩を繰り広げている。

 

 2人とも、もっと緊張感をもってよ~💦


 ソフィーナさんはそんな2人を見つめながら、「もう、本当に困った人たちです。一番大切なお方を守らないで、2人とも...。主様をしっかりと身を挺して守らなければならないという事を忘れています!」と言いながら、ライル君を後ろから優しく抱きしめ、満足そうな笑みを浮かべた。


「ちょ、ちょっと、ソフィーナさん!」と、ライル君が再びおたおたし始めた。「ダメですよ。ライル様!何といっても、まだ30頭近くのシルバーフォックスがこの辺りにいるのですから!私がライル様を絶対にお守りいたします!絶対に♡」とソフィーナさんは言って、胸の谷間にライル君の頭を押し付けた。


 まさか、ソフィーナさん...わざとリューファンさんとレイメントさんをシルバーフォックスの方へと向かわしたのかしら...。自分がライル君と「二人っきりになるんだぞ作戦♡」を決行したなら...とんだ策士ね。このメロン乳エロフ...。


 そんなことを考えながら、リューファンさんとレイメントさんの姿を追いかけると...。


 リューファンさんとレイメントさんの周囲から、突如として4頭のシルバーフォックスが飛び出してきた!


 しかし...。


 ギャン!!


 グン!!


 ク~ン...。


 ギュンッ!!


 まるでデジャブを見ているかのように、それは一瞬の出来事だった。レイメントさんは軽快に2発の蹴りを放ち、リューファンさんもポンメルでそれぞれの脇腹に一撃を加えた。


 その光景を食い入る様に見入っていたヨハンが、「す、すげえ...」と声を上げた。その声に引き寄せられるように、ハントも「強すぎる...さすがは元ウィリー王国、最強の鉾盾だ!」と興奮した声で言った。


 私って、す、すごい人たちと開拓する仲間に...なっちゃったんだ。凄い、凄い!!いいぞ、やっちゃえ!!


 私は気が付かないうちにスライムジャンプをして、一人で皆んなの周囲をピョンピョンと飛び跳ねていた。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「次はまだか~。残りは一気に出て来てもいいぞ~。俺が残り全員を相手にしてやる!」と、レイメントさんが大声で、周囲に潜んでいるであろうシルバーフォックスに向けて挑発を繰り返した。


 そんなレイメントさんに対してリューファンさんは「あんた、バカ?私の話、ちゃんと聞いていた?私はライル様の前で輝きたいの!私が一人でをするから、あんたは大人しく皆さんの所に戻りなさいよ!」と、鋭い瞳を彼に向けた。


 すると、レイメントさんはムッとした表情を浮かべ、「俺にも戦わせろ!」と、リューファンさんに喰ってかかった。


「もう、あなたは散々戦ってきたでしょう?何度も同じことを言われないと理解できないのかしら、この脳筋!」と、瞬時に反応するリューファンさん...。


「なんだと!」


「なによ!」


 また、始めた...。仲いいのか、悪いのか...。


 もう...放っておこう。この2人、いやソフィーナさんを含めた3人なら、たとえこの場にシルクスパイダーが現れても、何とかしてくれるような気がする...。


 だけど、そんなことを考えていると、周囲が突如として騒がしくなり...。


 クォオオオオオオオオン!!!


 大きな鳴き声が辺り一面に響きわたった次の瞬間!!


 ガサガサガサ!!!


 リューファンさんとレイメントさんの周囲を、20頭程のシルバーフォックスが取り囲んだ!!


 や、やばいよ。レイメントさん!!余計なことを言うから、大ぜいに取り囲まれちゃったじゃない!!


 も、もう、ど、どうするのよ...💦


「2人ともとりあえず、急いでこっちまで逃げてきて~!!!リューファンさん!!レイメントさん!!」


 私はあらん限りの声で2人に向かって大きな声で叫んだ。


 しかし...。


「何がだ?」(レイメント)


「モーリーちゃん、なんかあったの?すぐ終わらして、助けに行くわ!!」


 気づいていない。分かっていない...。自分たちがピンチだということに...。それにリューファンさんは、誤解しているし。何なのよ、あの二人は~💦

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