スライム街で育った青年の開拓物語。「こんなのスライム街では当たり前だよ⁉」と、故郷のスライム達と荒れ地を、近代都市にまで成長させちゃう⁈いやいや、当たり前じゃないから...。

たけ

プロローグ 一緒に開拓地に行きませんか?

 この場所は、人族とは異なる"ある種族たち"が集まって興した街。そう...いつからそう呼ばれたかは定かではないが、多くのツリート星で暮らす種族たちからと呼ばれている。


 この街の中で、今、一人の若者が新たな地へと旅立とうとしている。


「ライル。準備はできたかい?無理をして行かなくてもいいのじゃぞ?」そう一匹のスライムが、心配そうにその若者に尋ねた。


「うん、長爺チョウジイありがとう!着替えと日常生活品、そして長爺からもらった使える貨幣、それと、困った時に皆んなを呼び寄せることのできる、"スライムの笛"。準備万端だよ!」


 ライルは大きなリュックサックを背負い、スライム街の長老、"長爺"に向かって笑顔で返事をした。


「ライル、本当に行っちゃうの?」


「ライル、もっとここにいればいいじゃんか!外は危険だぞ!文明が遅れているって暗部の連中も言っていたぜ!」


「街の外には悪い奴らも沢山いる...」


 大小さまざまなスライムが、ライルのことを心配して引き留めようとする。それだけ、ライルはこの街の皆んなから愛されている。


 だが...。


「ありがとう、皆んな!でもね、街の外を見てみたいし...やっぱりボク、もっと色々な国を見て周りたい!人族の国や、ボクの両親がまだ生きているなら、会ってみたいんだ!」


 その言葉に、周りにいるスライムたちは少し寂しそうにする。 


 そんな...周りのスライム達の変化に気がついたライルは、両手や首を左右にブンブン振って、皆んなに謝った。


「ごめんね。皆んな...。この街や皆んなのことが嫌いとかじゃないんだ。ただ、外の世界も知りたいだけだよ!それに、街の外に出たら、きっと皆んなの助けが必要になると思うんだ。だから、助けを頼んでも...いいかな?」と、ライルは周りにいるスライム達に対して、申し訳なさそうな顔で問いかけた。


 すると周りのスライムは更にライルの傍に近づいて、ポヨーン、ポヨーンと自分自身をアピールし始めた。


 そして...。


「もちろんさ!ライル、お前の頼みだったら、いつでも聞いてやるよ!」


「そうだよ!僕も、スライム街から少しだけなら外にも行ってみたいし!」


「仕方ないから~ライルがどうしてもって言うのなら、行ってもあげてもいいし~」


 皆んながライルに困った時に助けると、競うように約束をしていく。そんな、皆んなの気持ちがライルはたまらなく嬉しかった。


「ありがとう、皆んな!それなら、その時は頼むよ。ボクは力が無いし、魔術も皆んなみたいに強力なモノは使えないから...。体術や剣術も...。だから、皆んなの力を借りることが多くなると思うんだ💦ごめんね。いつも力を貸りちゃって💦」


 そんなライルとスライム達を見守る長爺。長爺の2m近い身体がフルフル揺れている。


 長爺は心の中で思う。ライルはここで立派に育った。ライルには、スライム達と心を通わせる能力がある。そんな者は他にいない。それが...ライルにはとてつもない武器なんじゃ。


 本人は...全く気が付いていないがのう...。


 スライム街を離れれば、自分の育ったこの環境の素晴らしさ、そし、仲間たちの偉大さに気づくだろう。我々スライム達はいつでもライルの味方じゃ。いつでも帰って来るが良い。そして、いつでも我々を頼るがいい。


 それにのう、ライル、おまえが思っているほど弱くないぞ。ここにいる者たちが強いだけじゃ...。そのことも含めて、外の世界を見て来るといい...。


 長爺はライルの背中に向かって、そっとエールを送った。あくまでも心の声で...。


「じゃあね、皆んな!行ってくるよ!!」そう言って、大きなリュックを背負ったライルは、スライム街から旅立って行った...。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ここはバーモンド共和国の首都、バルモッサから馬車で5日の旅路を経て辿り着く、アラマス村のギルド内。


 このギルドは村の中心に位置し、冒険者たちや村人たちが集まる場所となっている。その建物は古くからの伝統を感じさせるもので、村の象徴とも言える存在だ。


 午後2時、昼下がりのギルドは通常、静寂に包まれている。冒険者たちの大部分はこの時間帯、依頼をこなす為に外に出ているのだから...。


 しかし、今日は何かが違う。ギルド内部はいつもとは異なる、何とも言えない活気に満ちている。


 その原因は、ハント副ギルド長(32歳)が貼った一枚の掲示物だ。一枚の掲示物によって、ギルド内は大いに盛り上がっている。


 元々、娯楽が極端に少くない世界では、一枚の紙に書かれた百文字程度の内容でも、大いに盛り上がる。


"求む!開拓地同行者!一緒に開拓しませんか?"というでっかなタイトルと、その後には甘い言葉が数行に渡って書かれている。


 開拓地に同行してくれるなら、"3食の食事は保証します!(ギルドが保証、1ヶ月)"や、"無料で自分の家が持てちゃいます!(材料や道具は、ギルドが保証)"、さらには"給金は5ヶ月間で白銀貨1枚支給!(5ヶ月まで補償※)"等と、うたっている。


 ただ...周りの反応は余りよろしくない。


「何だい、食事の保証は1ヶ月だけかい?後はどうしろっていうんだい?そこら辺の雑草でも拾って食べろっていうのかね?」


「家も嘘くさいぜ!道具や材料は用意するって、結局は自分達で建てろって言う事だろう?」


「給金だって白銀貨はすごいけど...。5ヶ月間でだよね。普通の仕事とそう変わらない...。逆に少ないかも...。それに※で小さな文字で、「途中で仕事を放棄した場合は、給金は支払いません」て書いてあるよ...」


「それに、行き先がだってよ...」


「誰がこんな条件で行くかっての!」


「バリジン森林地帯なんて、白銀貨3枚でも行かないっていう場所なのに。ムリムリ。命あっての冒険者稼業。あんな所、着くまでに魔物か盗賊に襲われて死んじゃうよ!」


 張り紙の周りは、一瞬の盛り上がりを見せたが、住民たちは散々悪態をついた後、掲示板の前から消えていった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「おいおい、お前たち!頼むからバリジン森林地帯に行ってくれよ💦人数によってはもっと給金も増やせると思うし!食事の保証だって、 1.5ヶ月に増やせるかもしれないから!」


「「何故2ヶ月と言わない?」」


 周りから、ハントに対して突っ込みが入る。


「じゃぁハントさん、あんたが行けばいいだろう?副ギルド長、ハントさん」と、道具屋のせがれであるヤンバルに突っ込みを入れられる。


「俺は行くことが決定している。だが、俺は戦闘が専門だ。まあ用心棒みたいなもんだ。技術職や販売職がいないと開拓は何ともならねえよ。頼むよヤンバル、一緒に行こうぜ💦」とハントが頼む。


「ハントさんには世話になったけどなぁ...。一緒に行ってやりたい気持ちがあるが、嫁と子供がいる身分じゃ、おいそれとはついていけねえよ。本当に済まねえな...」


 そう言って振り返ることも無くヤンバルは、ギルドに併設されている居酒兼食事処"ジャルジャー"に消えて行ってしまった。


「お、おいヤンバル!ヤンバル!ワイン一本つけるから!」と、ハントの声が空しく響き渡る。


「やっぱりこうなるとは思っていたが、実際になるとショックだな」と、ハントは一人掲示板の前で呟いた。


 行き場所がなー。よりによってバリジン森林地帯だもんな。そりゃ俺って行きたくねえよ。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 "バリジン森林地帯"は、独立した森林地帯で、崖の中にそびえたつ巨大な森の要塞。広大な面積を誇り、森の要塞へは橋を渡らないとたどり着くこと出来ない。


 約200年前、バーモンド共和国の食糧庫とまで称され、自然の恵みと豊富な資源に満ちた場所であった。


 かつて、大富豪"アド・バウンディ"がこの地を訪れた際、彼の莫大な財産と伝説の秘薬、エリクサーをバリジン森林地帯のどこかに秘めたという、まことしやかな噂が、未だにツリート星全土に囁かれている。


 まあ、そんな食料も豊富で、話題にも欠かない場所であった。あったのに...。


 しかし、約100年前から、森の木々や作物が次第に枯れ始め、山腹から流れ出る水の量が減少した。さらに、これまで経験したことのないレベルの凶暴な魔物が出現し始めた。


 もう...踏んだり蹴ったりだ...。エリクサーどころじゃねえな。


 今回、俺に課せられた任務は、この腐るほど余っているバリジン森林地帯の土地を開拓すること。可能ならば、突如として木々や作物が枯れ始めた原因の解明も求められている。更には、"宝さがしもやってこい"、何てふざけたことまでぬかしやがった。


 首都にいるお偉いさん達は、任務をドンドン上乗せしてきやがる。俺は暗部でもないし、調査なんてしたことも無い。ましてや、トレジャーハンターハンターじゃねえ。ただ、とりあえず行ってみない事には何も始まらない。もしダメならギルドを辞めて、冒険者として生計を立てるつもりだ。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 そんな何とも言えない空気の漂うギルド内で、一人の勇ましい女性がハントのおたおたする姿を見かねて、彼の横に歩み寄った。そして...。


「情けないよ、あんたたち!今、動かないでどうするんだい⁉バーモンド共和国内は食料不足なんだよ?今年の冬は、餓死者だって出るかもしれないっていう状況なのにさ!」と、ギルド内にいる男連中に厳しい言葉を投げかけた。


「サルンサ...」


 サルンサは、虚を突かれたような表情で自分を見つめるハントに対して、にっこりと微笑む。そして...。


「いいよ、ハント!私もついて行ってあげるよ!どうせここにいても食糧難でおっ死んでしまうかもしれないからね!他に行きたい者はいないのかい?」


 サルンサは10歳年下の宿屋の娘さんで、今年22歳。近隣の大きな都市の宿屋や商家から、ぜひうちの息子のお嫁さんにと声がかかっているのだが、全部断っている。


 いい縁談のはずなのに...変わりもんだ。


 背が170mを優に超えたスレンダーな体型。長い髪を後ろですべて一本に縛っている。化粧っけはないが肌はすべすべで、天然の美しさを誇った狭二重の美人さん。そして 自分の意思で動き、ハッキリと意見を言う。そんな男勝りな女性だ。


「でも...本当に何もないし、バリジン森林地帯に着くまでの道中には、盗賊や魔物もうようよいるんだ。お前、盗賊なんかに捕まったら...いいおもちゃにさせられるだけだぞ?」と俺がサルンサに伝えた。


 するとサルンサは即答で、 「あんたが私を守ってくれるんだろ?だから私は付いて行くよ、違うのかい?」


 そう言って俺を...真直ぐ見つめる。


「サルンサ...」


「私はこの、お人よしの頼りなさそうで...。でも、誰よりも優しい男のことが大好きだかね!」


「サルンサ...分かったよ。何があってもお前のことは...必ず俺が守る」


 そうサルンサを前に、彼女の両手をしっかりと握りしめた。


「おいおい、お前ら!こんなところで何やってんだ!そのまんまおっぱじめんなよ!」


「キスしちゃいなよ!ハント!」


「押し倒せ!サルンサ!」


 拍手とヤジが飛び交い、違う意味で場が大賑わいになっちまった。肝心の開拓者は現れないが...。


 嬉しい反面、余計プレッシャーがかかっちまうな...。ああは言ったが、サルンサのこと守れるのか、俺一人で?はぁ~。何だか悩み事が更に増えちまった様な気がする。いや、確実に増えたな...。


 サルンサは周囲の村人たちから祝福を受け、その顔には幸せが溢れている。しかし、その一方でハントは、自身の悩みが他人に知られないように、心の奥底で深く苦しんでいた...。


 そんな何とも言えない空気が漂う場に、後ろからバタバタと近づいて来る足音が響き渡った。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「すみません~。道を空けて下さい!前に通して下さい!はい!はい!僕、行きます!開拓地に行きたいです!」


 人だかりをかき分けるように、一人の少年が俺とサルンサの方に近づいてきた。彼の背中には大きなリュックサックが見えた...。


「は、初めまして!ライルと言います。そ、その..."スライムの街"からやって来ました!今まで住んでいたところとは違う環境で、今は何から何までも新鮮です!新しい場所への開拓って、もっと楽しいことがありそう!是非、ボクも一緒に連れて言って下さい!!」


 突然...誰だ?見たことのない顔だぞ?16,17歳ぐらい?俺はサルンサと顔を見合わせた。だが、サルンサも同じように困った表情で俺を見つめている...。


 この少年はいったい何者なんだ?それに何だ...スライム街って?じゃないのか?








 新連載小説です。本日から、皆様と共にこの物語を紡いでいくことを心から楽しみにしております。投稿はゆっくりと進めていく予定ですが、皆様の心に深く響くものとなることを願っています。


 一応、貨幣価値を以下に載せておきます。


 ◇ 貨幣価値

 小銅貨(1円)  

 中銅貨(10円)

 大銅貨(100円)   

 鉄貨(1000円)  

 銀貨(1万円)   

 金貨(10万円) 

 白金貨(100万円) 

 ミスリル貨(1000万円)

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