姉の夫である貴文さんが阪神淡路大震災を経験することになったのは中学二年生の時のこと。お父さんの転勤で東京から西宮市に引っ越して来たんだそうで、借り上げ社宅としたマンションに住み始めて一年後、あの大地震が西宮市を襲うことになったわけです。


 当時は婚礼の時に家具を持たされることも多く、大きな衣装ダンスが寝室に置かれていることが多かった。就寝中に起きた明け方の大地震によって、倒れた家具の下敷きとなって死亡する人も多かった。


 大震災によって壊滅的なダメージを負うこととなった未曾有の危機の中、政府の初動の遅さは目を見張るものであり、諸外国をあっと驚かせる結果となりました。死亡した人の死因の4分の3が圧死、救助が早ければ助かっただろうと思われる命はどんどん失われる事となり、集められた遺体は学校の体育館へと運ばれることになりました。


 貴文さんの住んでいたマンションは、震災直後、建物自体は何の問題も無かったのですが、電力の復旧後、倒れた電気ストーブや断線から出る火花による火事が広がったことにより、全焼してしまったのだそうです。


 結局、貴文さんに残されたのは体育館に運ばれた両親の遺体だけ。東京から叔父さんが迎えに来るまで、貴文さんは体育館に運び込まれた遺体の中で、ご両親に付き添い続けていたのだそうです。


「それでも・・僕みたいな被災者を救ってくれた人もいたんだよ。だから僕も、被災地で何か出来ることがあるのならやっていきたいと思っているんだ」


 その後、被災地でのボランティアは貴文さんのライフワークとなり、姉も夫のその気持ちを大事にして応援し続けていたのですが・・

「死んだ人に会える場所があるって話に聞いたんだ」

 ボランティアに行った夫が泥だらけとなって帰って来たその日の夜、開口一番でそんな事を言い出したため、姉は困惑を隠すことなど出来なかったというのです。


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