1 本編
姉の旦那さんは一流と言われる企業に勤めているだけあって、会社が用意してくれた社宅は間取りも広いし家賃も安い。4LDKで家賃が3万5千円、しかも駅から徒歩8分と立地条件も抜群なうえ、子供たちを遊ばせるのには丁度良い海浜公園が近くにある。
「ごめーん、買い物で想像以上に時間がかかっちゃった」
子供たちが食べる飲み物やお菓子などを買って来た姉は、玄関先で鼻をクンクンと動かすと、
「あ!カレーを作ってくれたの?嬉しい!」
と、喜びの声をあげたのだった。
私は隣街にある小さな一軒家に住んでいるけど、夫が会社帰りに飲み会があるということで、姉の家まで子供二人を連れて遊びに来たってわけ。
まだ六月だというのに真夏のように暑い日が続いているし、炎天下の公園で子供たちを遊ばせるのも難しい。ということで、姉の家は私にとって避難所のような場所になっていて、姉がこの社宅に引っ越して来てからというものしょっちゅう遊びに来ているのだった。
「さあ、皆んなでカレーを食べましょう!」
子供たちを座らせてカレー皿を目の前に置いていくと、テレビ画面には子供たちが好きなアニメを垂れ流す。
「お姉ちゃん、仕事はどうなの?」
「最近、結構忙しいのよね」
そんなたわいもない話をしていると、玄関のチャイム音が室内に響き渡ったのだった。
姉がインターフォンの受話器を取って、
「はい?」
と、問いかけると、
「203号室の山﨑です。先ほどから駆け足の音がすごくって、いくら何でも騒音が酷いと思うんですけど、何とかしてくれませんか?」
苛立った声がこちらの方まで聞こえてくる。
無言のまま受話器を置いた姉はリビングの扉を開けたままの状態で玄関まで行くと、
「うちは今、食事中なので誰も走っていないです。もしもお疑いのようでしたら、中を確認して頂いても構いません」
という姉の声がこちらの方まで聞こえてくる。
何かを下の階の住人と話していた様子だったけれど、そのうち、廊下を歩いて来た男性がリビングに顔を覗かせて、椅子に座ってカレーを食べる子供達の姿を見てバツが悪そうな表情を浮かべた。
「ここの社宅は小さな子供さんも多いので、他の部屋の騒音が響いて下の家の方に聞こえたのかもしれませんね」
後ろから姉に声をかけられた男性は、渋々帰って行ったのだった。
玄関の鍵を閉めて戻ってくる姉がため息を吐き出しながら、
「ごめんなさいね。うちは騒音の元ではないときちんと証明しないと、後々、面倒なことになることも多いから」
と、言い出した。
確かに社宅だしね、他の家の騒音トラブルを自分の家のことみたいに言われたらたまったものではないものね。
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