誰かの足音

もちづき 裕

プロローグ

「キミくん!マアくん!静かにしなさい!」

「近所迷惑になるでしょう!」

「なあにママ?」

「俺たち静かにしているけど?」


 姉の夫が長期出張に出掛けているということで、私は子供たちを連れて姉の家へと遊びに来ていた。姉の家は海からも近い場所にあるため、子どもたちを遊ばせるには丁度良い場所にあったのだ。


 姉が買い物に出掛けている間、今日の夜ご飯でもあるカレーを作っていたのだけれど、和室に押し込めた子供たちがバタバタと走り回って先ほどからうるさい。


「ねえ、本当に、苦情とか言われても困るから!」


 まな板の上に包丁を置いた私が閉じられたままの和室の襖を開けると、子供たちは寝転がってゲーム機の画面を眺めながら夢中で何かを話している。娘のユズは兄や従兄は放っておいて、勝手に塗り絵を楽しんでいるようだった。


「ねえ、今、皆んなでバタバタ走り回っていたよね?」

「えー?なに?」

「誰か走り回っていたりしてた?」


 部屋の中にはゲーム機から流れる壮大なメロディが鳴り響いているだけで、寝転がっている二人と、塗り絵に夢中の娘が襖を開ける寸前まで騒いでいたようには到底思えない。


「もしかして・・上の音じゃないかな?」

「ああ〜、それを聞き間違えたんじゃないの?」

「上?」


 和室の天井を見上げると、確かに上から何かを引きずるような音が響いている。業者が入ってリフォームでもしているのだろうか?確かに上階から物音が聞こえていた。


「でもね、ママが聞いたのは確かに、みんなが走り回る音だったんだけど?」

「いやいや、俺たち走ってないし」

「ゲームしていただけだし」

「・・・」

 クレヨン片手に見上げてくる娘を見下ろすと、思わずため息を吐き出してしまった。もしかしたら、隣とか下の騒音を聞き間違えたのかもしれない。


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