第21話 ブリサワルス星人の目覚め

つがいのように連なった恒星が地平線に沈み、天頂に3つの衛星が煌々と光る。


数人の子供が茶卓を囲んでいる。

茶卓にはビスケットやチョコレートなどの菓子類が並んでいる。


皇国が連合と条約を交わすまではなかった事。


以前はこのあたりは皇帝の天領で荘園だったし、農奴が汗を流して働いていた。


今は人造人間(Artificial Human)アーフが管理運営している。


他の工業などの生産業に限らず流通、サービス業などあらゆる産業はアーフがいれば人間が関わる必要は全くない。


それでは失業者ばかりではないかと思うかもしれないが既に労働という概念がなくなって久しい。


またエデンの情報の流入による「文化開花」以前は食糧は完全栄養食というペレットを食べていたし、飲み物も水ぐらいしか無かった。


ドッグフードみたいだね。


「これだけ与えていれば健康で長生きします。」って。


その時の課題はもっとコンパクトに出来ないかってことと消化器の中で速やかに膨張して満腹感を満たすことだったんだ。


それはそれで便利なんだけど食事を楽しむとか料理を楽しむって概念が全然なかったって事。


まず、「楽しむ」って概念が理解出来なかった様だ。


通常高度文明化していこうとする種族は無駄や情緒を非合理的なものとして嫌う。


労働と繁殖を効率的に行うルーチンの中に人生を投入していくのだ。


それは多分ある一定のレベルに達するためには必要だったのかもしれない。


連合の再教育と強制的なネオテニーによる進化はブリサワルス星人を労働と繁殖から解放いわゆる「原罪からの解放」をした。


「これ、見た?」


茶卓中央に3D投影された配信映像を指さす。


「この子かわいいよね。」


「クミンちゃんの踊りがかわいいんだよ。」


「第3種知性体シュッツグル星人の指導者なんだよ。」


「すごいね。」


そう話している子供達、とは言っても既に500年ぐらいは生きている。


「この姿を見せない歌い手の声もいいね。」


「シルエって言うんだ、今、動画再生ナンバーワンだよ。」


「しみる。」


「うん、しみる。」


そんなことをしながら日々が過ぎていくのが普通になっている。


エデン人っていうのは知性体の中でもとっても異質だったんだ。


だって栄養を摂取するための食事に味覚はまだしも食感や見栄えとか栄養に関係のない感覚的な事に知性と時間を消費したり。


何の生産性もない(今は違うけど)音楽や絵もそれに衣服や住居などちょっと想像もできないほどの無駄に溢れている。


でもね、でもでもわかったんだ。


いろんなことが効率化して技術力が高まって生産的な事に人の手が入らなくなった時、人は何をするのかって。


本当に自由になって、楽しいことを、とびっきりムダなことに自分だけの意味をこじつけて楽しんだらいいんだって。


ブリサワルス星人も完全にエデンかぶれしてしまったみたいだ。

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