傍付き決定
確かに、リゼ様の言う通り僕は目立ってしまったので誰かしらに庇ってもらった方がいいのかもしれない。
もしもアリスが前々から危惧していたようにどこかの貴族達にスカウトされれば、平民の僕は中々断り切れずに使用人ライフが終わってしまう恐れがある。
それであれば、事情が分かっている人間に協力してもらって「すでに先約があるんで~」と言える状況になれば勧誘も回避できるだろう。
まぁ、こんなことを言っているけど実際に噂が立ってから目ぼしい勧誘はない。
隠れ蓑にするのはあくまで『そういったこと』がある場合の話で、そういうのがなければ受け入れなくても別に―――
「リゼ様、是非ともお力添えを」
「展開が早いわね」
リゼ様の傍付き体験が終わったその翌日。
僕は朝一でリゼ様のお部屋にご訪問して地面に頭を擦りつけていた。
ちなみに、アリスは寝坊して朝の朝礼に遅れたらしく、メイド長さんからもらった罰で今頃食堂の掃除をしている。
「いや、だってヤバいんですよ勧誘の数が! バーゲンセールの商品に群がる歴戦の主婦が押し寄せてきちゃったみたいな構図が食事中問わずだったんですよ!」
本当に、昨日の夜はかなり酷かった。
まず、リゼ様の傍付きが終わった瞬間に魔法士団の人達がやって来て質問攻めと勧誘。
のらりくらり躱したのはいいけど、今度は同じ使用人の人達に囲まれて勧誘。食事中誰かと食べるなんてアリス以外いなかったのに、昨日だけは友達百人できたクラスの中心人物にでもなったような気分だった。
ようやく落ち着いたのは、それこそ羊を数える時間の時だけ。
昨日はなんとか躱せたけど、これが続いて僕が持ち堪えられるとは正直思えない。
一刻も早く、虎の威を借りる狐にならなければ……ッ!
「まぁ、私は願ったり叶ったりだけど……アリスはなんて言ってるの?」
「アリスはなんか「私はまだお父さん達説得できてないし……今だけ甘んじて受け入れれば……ッ!」って唇を噛み締めながら言ってました」
「先輩も苦渋の決断だったってことは分かるわ」
あの時のアリスはかなり悔しそうだったし、彼女も僕を勧誘したかったのだろうか?
でも、今まで勧誘なんてされたことなかったし、元から実力を知ってる彼女であれば機会なんていくらでもあったはず。
正直、なんであそこまで悔しそうだったのか、少し分からない。もしかして、後輩に僕を取られるのが嫌だったのだろうか?
「結論から話すけど、私が提案したことだしあなたを傍付きに置くことはできる」
「本当ですか!?」
「言った通り、しばらく隠れ蓑として私を使えばいいわ。勧誘されても「第二王女に勧誘された」って言えば、他の人も諦めるでしょうし。落ち着いたら元居た場所に戻れば問題ないでしょう」
僕はリゼ様の言葉に思わず涙を浮かべてしまう。
これでようやくあのバーゲンセールに群がる主婦共から解放されるのだ。
でも―――
「あの……自分で言うのもなんですが、どうしてそこまで力を貸してくれるんですか?」
別に本当にリゼ様の傍付きをするわけじゃない。
ほとぼりが冷めるまで傍にいるだけで、リゼ様にあまりメリットがないように思える。
「あら、理由ならちゃんとあるわよ? 一緒にいたらあなたが私の傍付きに正式になりたいって思ってくれるかもしれないじゃない?」
「可能性がないとは言い切れませんが……」
「それに、恩人が困っているのに手を貸さないわけがないでしょ。流石に私もあの件を金銭で解決しようなんて思わないわ」
リゼ様はやっぱりお優しい人だ。
こう、見下してくる貴族とは違って肝要だし分け隔てなく接してくれるし、人としての筋をしっかり通してくれているように感じる。
こんな人が上司だったら、どれだけ生活しやすいことか。正直、この段階ですでに心が揺れそうです。
「(まぁ、あとはあなたと一緒にいられる時間が増えるからなんだけど……別に言う話でもないわね)」
「はい?」
「なんでもないわ」
はて、何か言っていたような気がするけど……本人がなんでもないと言っているのならなんでもないんだろう。
とにかく、リゼ様には感謝しかない。
「ちなみに、アリスも一緒に傍付きにさせるから」
「どうしてです?」
僕としては誰かしら知り合いが一緒にいるなら働きやすいからありがたいのはありがたいんだけど。
「先輩をこき使えるって最高じゃない?」
いけない、日頃の二人の間に生まれている鬱憤が垣間見られたような気がする。
「それで、傍付きになるって話だけれど……」
「あ、はい」
「早速だけど、今日からやってもらうわよ」
それに関してはもういつでも。
執事長に話を通せば今の仕事も誰かに振ってくれるだろうし、今の僕は解放されてとても心が晴れやかだ。
どんな過重労働でもしっかりこなせる自信がある。
「昨日はあなたのために色々予定を空けておいたけど、これからはそういうわけにはいかないわ」
確かに、昨日は予定という予定は午前中しか入っていなかった。
王女ともなれば、色々お忙しいのは間違いないだろう。
なんだかんだ、昨日なんて午後はずっとトランプして遊んでたしね。
「というわけで―――」
リゼ様はソファーに足を組んで、少し楽し気に口にした。
「今日は午前中に魔法士団の任務に行って、夜はパーティーだから。付き合ってもらうわよ、私の傍付きさん?」
「
こうして、僕の第二王女様の傍付きとしての生活が始まった。
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