【修正版】無能転生者の亡命戦略

筋トレ依存症

無能

 僕は無能だ。

 そんじょそこらの無能ではない。周りを見渡しても、ちょっと僕レベルはいないと謎の自信があるぐらいには無能だ。


 初めて生まれ変わりに気付いた時、僕は貧乏男爵家の嫡男だった。

 前世ではなんと通り魔に襲われて死んだ。


 死に方以外はなんの特徴もない普通の高校生だった僕だけど、定番のマヨネーズとリバーシぐらいなら作れそうと、さも自分が発明したかのように領内で大々的に売り出した。


 マヨは食中毒を発生させ、多くの民が、下痢、腹痛、発熱で苦しみ死者まで出した。リバーシは隣領を納める伯爵家に速攻パクられ、先に王家に献上された。著作権なんてなかった。


 勿論抗議した。しかし僕は格上の貴族に逆らう事の意味を理解していなかった。逆に責め立てられる事となり、親兄弟からも強く非難され、最終的に廃嫡となった。

 その後は臭いものに蓋をするべく暗殺されて転生人生に幕を下ろす。


 ところがまたしても生まれ変わってしまった。


 次の転生先は男の数が少ない貞操逆転世界だった。周りの男たちは皆女性に対する苦手意識が強くあり、積極的に関わろうとしない。


 元の世界の感性を持つ僕は滅茶苦茶モテた。なんせちょっと優しくするだけで皆即落ち、周りは全員チョロインな世界。そしてこの世界では妻を何人娶ってもいいときた。当然僕は食いちらかしたよ。男なら誰だってそうするよね?


 そして病んだ幼馴染に刺されて死んだ。


 今思えば兆候は確かにあった。けどヤンデレって結局愛が重いだけの一途ちゃんで、むしろカワイイまであるよね。なんて軽く考えていた僕は、揶揄い上手な男のつもりで、NTR報告みたいな事をして彼女の地雷を踏みぬいていた。彼女はそこまで上級者ではなかったのだ。うん、完全に自業自得だね。


 その記憶が戻ったのがついさっきの事。

 僕を生まれ変わらせているのが神様なのかどうかわからないけど、そんな存在が居るとするならば、まあ神様もあきれ返ったんだろうと思う。


 何せ今回僕が転生したのは前々々世で僕が遊んでいた、戦国SRPGシミュレーションロールプレイングゲーム『種族統一大戦』で人間の国を選択した際に現れる「あっ、こいつやられ役の雑魚だ」と誰もがそんな感想を抱く中ボス最弱ボスの――朱鷺坂院 世界トキサカイン セカイ――だったのだから。


 朱鷺坂院世界について軽く紹介すると、名前の通り自身を世界一の男と信じてやまない超絶ナルシストであり、「僕に誘われるなんて光栄に思うといいよ」などと使用人の娘であるヒロインに度々ちょっかいをかけてはヘイトを貯め込み、最終的に強硬手段でヒロインを襲おうとした所を主人公に華麗にぶっ飛ばされる運命の男だ。


 その後は父親が会社の金を横領して、愛人を多数囲っている事が判明し家庭は崩壊。逆恨みした世界は、国の武器開発に携わっていた父親の会社の機密情報を、敵国であるエルフ国へと持ち込み、再び主人公の前に立ちふさがるが、まあ結果もその後の展開もお察しだよね。


 ゲーム開発者が「ほら、このナル男をぶっ飛ばして気持ちよくなってくださいね」とばかりに生み出された、ざまぁ装置のような男。それが朱鷺坂院世界だ。


「いくら僕が無能だからって朱鷺坂院世界は酷いよ神様……」

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