悪人顔のボランティア活動

 土曜日になった。俺は朝起きて朝食を食べ身だしなみを整えると、とある場所へ向かった。それはこの町の公民館だ。


 俺は母親の勧めで中学生の頃からよくボランティア活動をしていた。少しでも善行を重ねる事で見た目ではなく、内面で俺の事を判断して貰おうとしての事である。


 今日は公民館でこの町の小学生の子供たちが交流する「子供会」があるのだ。何も難しい事をする訳ではない。ただ子供たちと集まって遊ぶだけである。俺たちはその面倒を見るだけだ。


 この会は様々な理由で友達を作るのが苦手な子供や友達がもっと欲しい子供たちのために定期的に開催されているものだ。俺はボランティアとしてその活動の手伝いをするためにそこに向かっていた。


「はよざいまーす!」


 俺は公民館の中に入ると子供会を主宰しているおばちゃんたちに挨拶をする。


「善人君おはよう!」「今日もよろしくねー」


「はい、よろしくお願いします」


 おばちゃんたちは俺に笑顔で挨拶を返してくれた。


 最初の方こそ俺の悪人面にビビり散らしていたおばちゃんたちであったが…母親がサポートしてくれたのと、流石に数年も手伝っていると顔面が怖いだけで内面はそうではないという事がおばちゃんたちにも伝わったらしく、今では普通に接してくれている。


 俺の数少ない理解者たちだ。


「よし、頑張るか!」


 俺は頬を叩いて気合いを入れると子供たちが集まるのを待った。



○○〇



 そして子供会が始まった。俺やおばちゃんたちが主導して子供たちと様々なレクリエーションをしていく。


 かくれんぼ、鬼ごっこ、ドッジボール、トランプ、モノマネ、伝言ゲーム…etcetc。これらレクリエーションを通して子供たち同士でコミュニケーションを取り合い、友達を増やして貰おうという魂胆である。


「善人お兄ちゃん! 肩車してー」


「次僕もー!」


「よしよし、順番な!」


 俺は子供たちの頭を撫でながらリクエストに答えていく。


 子供というのは順応が早いもので…最初こそ俺の顔面を見て「殺される!」と泣きわめくのだが、俺が怖い人でないと分かるとこうやって懐いてくるのだ。


 …こうなるまでに数カ月はかかったけどな。


「ふぅ…疲れた」


「善人君お疲れ様、休憩室に冷たい麦茶があるから休憩しておいで」


「ありがとうございます。ではお言葉に甘えてちょっと休憩してきます」


 俺はおばちゃんに断りを入れると休憩室へ向かう。子供たちと遊ぶのは結構体力がいるからな。彼らは本当に元気なもので、大声を上げて室内を走り回る。


 休憩室の扉を開けると中には先客がいた。


「天男君じゃないか」


「善人お兄ちゃん…」


 そこにいたのは天男あまお君と言って最近この子供会に参加するようになった子だ。現在小学1年生で昔から身体が弱いらしく、常に車いすに乗って移動している。それ故に偏見を持たれ、ここでも友達ができないようだった。


 天男君は麦茶の入ったコップを持ちながらションボリとしていた。俺は彼の隣に座ると優しく話しかける。


「どうした? また友達できなかったのか?」


「うん…僕が車いすだから仲良くなってくれる人がいないの」


 天男君はそう言ってグスグスと泣き始める。彼には中々仲良くしてくれる子が見つからないようだった。俺は彼の頭を撫でて慰めた。


「泣くな泣くな! 俺なんてな、この顔のせいで未だに友達が少ないんだぞ?」


 彼を慰めるために自虐ギャグをかましてみる。


「でもな、そんな俺でも諦めずにいたら…親友と言える友達ができた。だから天男君にもできるはずさ! 大事なのは諦めない事だよ! 俺も協力するからもう1度頑張ってみようぜ!」


「うん…怖い顔の善人お兄ちゃんにできたんだから僕にもできるよね。僕、頑張ってみるよ!」


「よし、その意気だ!」


 俺の説得は天男君に無事通じたようで、彼は再びやる気になったようだ。彼が乗っている車いすを押し休憩室を出て、レクリエーションが行われている多目的室へと向かう。


 そして俺は遊んでいる子供たちに声をかけた。


「よっ! この子天男君って言うんだけど、仲良くしてやってくれない?」


「でもその子…車いすに乗ってるよ? 大丈夫?」


「車いすに乗っている以外はお前たちとそう変わらないさ。だから一緒に遊ぼうぜ?」


「善人お兄ちゃんがそう言うなら…」「僕も」「やろうやろう!」


 子供たちは俺の提案に従ってくれるようだった。


「よし来た。じゃあせっかくだから天男君がやりたいものをやろうか。天男君、何がやりたい?」


「えっと…じゃあトランプの神経衰弱! 僕得意なんだ!」


「いいね! じゃあやろうか!」


 みんなでトランプを並べて神経衰弱を開始する。天男君は本当に神経衰弱が得意な様で圧勝だった。記憶力が良いのだろう。ちなみに俺はドベだった。


「天男君すごーい!」「どうやるの?」「天男君天才!」


 天男君はあっという間に他の子どもたちに囲まれて人気者になった。子供などこんなものだ。最初の偏見さえなくしてしまえばすぐに打ち解けてしまう。これが成長するにつれてその偏見が凝り固まり中々抜けなくなってしまうのだ。


 …そして自分たちとは違う「異物」としてその異物を排除せんと差別が始まる。例えば怖い顔の人間を見るだけで犯罪者扱いしたりな。…今はこういう話はやめておこうか。


 俺のサポートもあって天男君には無事友達が出来たようだ。


 あっという間に時は過ぎ、その日の子供会は終了の時間になった。子供たちは家が近くの子は1人で自宅に帰ったり、遠い子は迎えに家の人が来たりして帰宅していく。俺とおばちゃんたちは子供会の後片づけだ。


「天男君、お姉さんが迎えに来たよ!」


「はーい!」


 天男君は車いすで移動するので家の人が迎えに来るタイプだ。今日はお姉さんが迎えに来たようである。そういえば俺と同い年のお姉さんがいるって言ってたな。


 その対応に出たおばちゃんがなにやら興奮した様子で戻って来た。そしておばちゃん特有の「ちょっと奥さん」みたいなポーズを取ると俺たちに話しかけてくる。


「天男君のお姉さん、話には聞いていたけど別嬪べっぴんさんねぇ~」


「そんなに美人なの?」


「ええもう、私の次に美人!」


「あらやだ奥さん、冗談がお上手ね!」


 へぇ~…天男君のお姉さんってそんなに美人なんだ。一度見て見たいな。あ…でも俺が不用意に顔を出すと怖がられるか。機会があれば…ちょっと覗き見してみようかな。



○○〇



「でね。その善人お兄ちゃんって人が協力してくれて、僕友達沢山できたんだ!」


「良かったね。今度お礼を言わないとな…。その人って私と同い年なんだっけ?」


「うん、高校2年生って言ってた。お姉ちゃんと一緒の高校だって! フルネームは確か…極道善人お兄ちゃん!」


「えっ…極道君?」



◇◇◇


さて、天男君のお姉さんは一体誰なのでしょうか?

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