枯れない恋愛
柏野
序
例えば、私は君と答えるだろう。
朝、コーヒーを啜る私に咳をしながら問いを投げる君は本当に薬は必要無いのだろうか。
いつだって心配をしている私の身にもなってみろ、と内心思う佐久間雄飛(サクマユウヒ)は毎朝コーヒーを飲んでいるが、眠気覚ましだけが目的である。
話を二転三転と転がしていくうちに咳をしているという事実の談笑の優先度は低くなっていき、最終的には仕事へ向かう時間まで触れない。いいえ、触れさせない。
花の好きな人だ。それはもう研究熱心で、私はそんな所に気づいてしまってから彼の虜であった。
昨夜だって彼の職場で起きた花に関する話を聞いた。
「人喰いの花の研究が進んできていてね。いつか君にも完成した花を見せるんだ」
人喰いの花だなんて、恐ろしい。
でもそんな研究熱心さも含めて愛すと約束したのだ、悔いは無い。
研究目的は単純、尚且つ間抜けであった。
何かで世界の初めてを取りたい、とのこと。
心底呆れる話ではあるが妙に気が惹かれる。面白い。
いつか彼は研究を成功させ私にこれまでに無いような笑顔を見せてくれるだろうか。
聞く話によれば法などあってないような内容の研究ばかりだそう。
彼は何を目指すのか。明確であるように見えてそれは闇に包まれたままである。
数人命を落とした。ほんの些細なミスで1人、またひとりと消えていくこの実験、研究に意味を見出すのはひたすらに困難である。
しかしながら私には目標を作る力がどうも弱い。この研究に縋る他ないのだ。
今日は星が綺麗だ。たまには帰りに何か土手産を買うのも良い。ケーキは甘ったるくて私も彼女も好きでは無い。だからといって何かほかの土産が思い浮かぶ訳でもない。ビターチョコあたりが妥当だろうか?
彼は時折帰りに手土産を持っていることがある。
今日はカカオが強いチョコを使用したケーキだった。私はあまり苦味は得意では無い。ホットミルクを用意すれば多少紛れるだろう。久々に彼との時間を大切にしてあげようと思う。私の分のミルクにはココアも混ぜた。
人喰いのお花、完成は見えてるの?
そんな問いをかけるヒナは目の奥をランランと輝かせているように見えて、つい職場の秘密を話してしまった。あまり社交的では無いヒナに話したところで広める相手もいないだろうし、別にいい。
雄飛は本当に仕事熱心であった。
研究の話をすると止まらない。相槌をうつ間もなく次から次へと花がこぼれていく。全てを理解しえない私には八割の内容を理解するだけでも困難で、日によっては二割すらわからない。だけどそれでいい、楽しげに話す彼を見るのが目的だから。
一通り彼の職場の話が終わり、時計の針が11時を指していた。お互い眠くなりつつある眼を見つめる。
「今日はこの辺で、もう寝ようか。」
話を閉じるのは彼。そうね、と賛同し各々寝る準備を済ませ、就寝する。
今日は少し夢を見た。
夢の中の雄飛は余裕が無いように見える。心も体力も余裕がなく落ち着きがない。息を整える暇もない雄飛を見る彼女の視線は果たして純粋と言えるだろうか。
酷く短い夢ではあったけど、満足感がある。
内容は記憶からどんどんと薄れていく…。
何を見ていただろうか。
枯れない恋愛 柏野 @kashino_uwu
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