金貸しの苦労

鷹橋

本編

「君、なにしてたの?」

 お巡りさんが気さくに話しかけてくる。どちらかというと高圧的な物言いにこちらは萎縮する。発言した内容はいいのに、なんか鋭利な刃みたい。

「いえ。なにも」

「そう」

 そのお巡りさんも諦めたみたいに黙る。黙秘権は自分にもちゃんとあるようね。よかった。アメリカのみたくミランダ警告聞かなくてもそれくらいの知識はあるもん。

「なんでそんな大金持って歩いてたの?」

 お巡りさんはまだ続ける。

 深夜に一人でアタッシュケース持って歩くだけでも、警察の視線を集めるのもわかる。中身が大金ならなおさらだよね。

「えーと、取引をしに……」

「こんな夜遅くに?」

「……はい」

 お巡りさんは何かを紙に書いている。

 交番に一人だなんて、大変な仕事だなあ。まあ、長引くかもしれない。覚悟しとこっと。

「誰と? 最初に身分証、なんで出してくれなかったの?」

「持ってませんでした。保険証は家で、免許はありません」

「あ、そう」

 素っ気ない割には自分に訊いてくるのやだな。

 交番の中は夜だから静か。繁華街とは思えないくらい。お巡りさんが記入しているボールペンの音がカリカリとむなしく響く。

「職業は?」

「貸金関係です」

「ああ」

 なんか理解したかのように、お巡りさんはこちらを一瞥。

「君みたいな女の子が持てる金額ではないよ。誰に貢ぐの」

「……恋人が手術でして。両親の介護もしているみたいです」

 お巡りさんはふーっと息を吐く。

 たばこの匂いはしないからこの人健康志向だなあ。あの人とは違う。

 一拍置いてからお巡りさんが告げる。

「君、騙されているよ」

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金貸しの苦労 鷹橋 @whiterlycoris

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