【アレンジ童話】ネコとオウムの大合唱

にっこりみかん

イソップ物語『オウムとネコ』より

「ん、なんだか騒がしいなぁ」


 お気に入りのソファーでお昼寝をしていたネコは、聞きなれない声で目を覚ましました。


「ピヨピヨピ〜♪ ヒュルルルルル♪」


 眠っていた目をこらして見ると、天井からカゴがぶら下げられているのが見えました。


 近寄って行くと、中には鳥の姿が見えます。


「ピィピッピ〜♪ ヒュルルルルル♪」


 ネコより一回りくらい小さな体の鳥は、羽の部分が緑色で全身はオレンジ色をしていて、キレイな声で鳴いていました。


「ヒュルル〜♪ ヒュルルルルル♪」


 この家にずっと住んでいるネコは、昼寝を邪魔されたことを一言言ってやろうと声をかけました。


「昼寝の邪魔して、あんたは誰だい?」


 鳥は鳴くのやめてネコの方を見ました。


「あ、あなたはこの家のペット先輩のネコさんですね。こんにちは」


 先輩などと言われ、ちょっと照れくさいネコは、なにも言わず不愛想に軽く会釈をしました。


 鳥は話を続けました。


「私はオウムと言います。ここのご主人さまに飼われ、本日からお世話になることになりました。どうぞよろしくお願いします」


 オウムはそう言うと、深々と頭を下げました。


 ネコは退屈そうな顔をしながら言いました。


「なんだ、あんた新入りかぁ」


「ハイ!」


「オウムとか言ったねぇ、さっきまで大きな声を出していたけど、あんたは大きな声で鳴くのが好きなのかい」


「ハイ! あっ、でも、あれは鳴いていた訳ではなく、歌っていたのです」


「歌?」


「ハイ! 私は歌うのが大好きなんです!」


 と、元気に答えるオウムにネコは悲しい表情を浮かべて言いました。


「それは残念だったなぁ」


「え?」


 オウムがキョトンとした表情で聞き返すとネコは、


「ここのご主人は大きな鳴き声が大嫌いでねぇ、さっきみたいに大声を上げて鳴いていると、きっと外に放りだされるよ」


 オウムは「鳴き声ではなく歌です」と言ってから続けました。


「そうですか? それはおかしいですね」


 オウムは首をななめに傾けながら、


「ご主人さまは私の歌を聞いて、気に入って飼ってくださったんですよ」


「なんだって?」


 ネコは静かに驚きました。


 そして、


「それはおかしい、おいらが鳴くと決まってご主人は『うるさい!』って怒って、おいらを家の外に放り出すのに」


 今度はネコが首をななめに傾けました。


「う〜ん」


 と、オウムは首をななめにしながら考えたあとで、「そうだ」と言ってから、


「試しに先輩、一度、外に放り出されたときのように、声を出してもらえませんか?」


「え、声か? 普通だよ」


 と、ネコは言ってから、外に放り出されたとき声を上げました。


「ンギャギャギャギャ〜!!」


 その声に、オウムは思わず羽で耳をふさぎました。


 ネコは何食わぬ顔でオウムを眺めました。


 オウムは羽を耳から外して言いました。


「ネコ先輩。ご主人様が外に放り出した理由が私には分かりました」


「え! ホント?」


「ハイ、大変言いにくいのでありますが、きっと声の出し方に問題があると思うんです」


「声?」


 ネコがキョトンとしていると、


「そうだ先輩、私、歌を教えますよ」


「歌?」


「ハイ、声の出し方さえ変えれば、きっと、外に放り出されなくなりますよ」


「ホントに?」


「ハイ、だって先輩、声はステキですもん」


「おいらの声がステキ?」


「ハイ、とっても魅力的です」


「魅力的……」


 ネコは、内心“ポッ”っと赤くなりました。


 そして、


「おいらに、歌、できるかなぁ」


「ハイ、私が教えます! 上手くなったらご主人さまの前で披露しちゃいましょう!!」


 こうして、ネコとオウムは歌の練習を始めることになりました。


 練習はご主人がいない昼間の時間帯に行われました。


 上手になって突然披露して驚いてもらおうと思ったからです。


 ネコは最初、オウムの歌声に、まったく合わせることができませんでした。


 オウムはまずは発生の練習から教えました。


 それまで、ただ闇雲に声を出していたネコは、声を出すときに強弱をつけると良いということを知りました。


 そして、キレイな声を出すには音色も重要だということも知り、いろいろな音色を出す練習をしました。


 最後に、歌を歌うには音程があることを学び、そこからはもう、歌って歌って歌いまくりました。


 強弱のコツがなんとなく分かり、歌に合わせた音色も見つけることができました。


 段々と、音程を外さずに歌えるようになりました。


 やがて、オウムの歌に合わせて歌えるようになっていったのでした。




 ──あっとう言う間に1ヶ月が経ちました。


 オウムはネコに言いました。


「では先輩、今日、ご主人さまが帰ってきたら、いよいよ披露しちゃいましょう!」


「い、いよいよかー」


「先輩、緊張してますか? 大丈夫ですよ! たくさん頑張ってきたじゃないですか! カッコよくできますよ」


「そ、そうかなぁ」


「ハイ、大丈夫です! 自信もって!」


「う、うん、分かった」


 ネコは頷きました。


 そして、玄関の方から物音が聞こえました。


「あ、帰ってきましたよ」


 と、オウムが言いました。


 ネコは“フーッ”と、息を吐きました。


 部屋の扉は閉まっていて玄関は直接見えません。


 ご主人は玄関で靴を脱いでいる様子です。


 玄関から、この部屋までは少し廊下があり、ご主人がこの部屋にたどり着くまでには時間があります。


 ネコは息を大きく吸って、静かに吐き出しました。


 息を吐ききると、少しだけ息を吸い込んで呼吸を整え、そして、オウムの方に目をやりました。


 ネコはオウムの目を見ながら、


「ありがとな」


「せんぱーい!! 泣かせないで下さいよー」


 オウムは涙目になりながら、羽を持ち上げて「大丈夫!」の仕草をしました。


 ご主人が廊下を歩いてくる音が聞えました。


 ネコは、ご主人が入ってくる扉をジーッと見つめました。


 心臓は、今まで感じたこともないほどバクバクしていて、全身の毛が、全てが逆立っているような感じがしました。


 そして、ネコが見つめている扉が静かに開きました───。




 ───数日後。


「ピィピッピ〜♪ ヒュルルルルル♪」


 オウムは今日もご機嫌に歌っています。


 ネコはソファーに丸くなって、ウツラウツラまどろみながら聞いていました。


 ネコはあの日以来、あまり歌を歌っていませんでした。


 歌を歌うときは特別な日と決めていたからです。


 歌を初めて披露したあの日。


 それは特別な日になりました。


 ご主人は信じられないというような驚きの表情の後、今までになかったくらいネコを撫でまわし喜びを爆発させました。


 ネコはとても嬉しくて嬉しくてたまりませんでした。


 あんなに喜んでいるご主人を見たのは初めてだったし、あんなに撫でまわされたのも初めてでした。


 その日の夕飯が特別美味しかったのも覚えています。


 それはネコにとって、本当に特別な日になりました。


 だから決めたのです。


 これからは歌うのは特別な日だけにしようと。


 それをオウムに伝えると「先輩らしいですね」と声をかけてくれました。


 歌を歌うことで、ご主人との特別な日が増えることを、ネコは楽しみにしながら、以前と変わらない日々を過ごしました。



 おしまい

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